濃厚な一週間がやっと終わろうとしています。なんだか人疲れしてしまって、ブログ更新も遅れてしまいました。人疲れといっても心地よい疲労感で、頭はぐったりしているけど、心は充実感一杯です。
静岡県内で、さまざまな形で文化活動を支援している人たち―アーティストやクリエーター本人ではなく、彼らに創作や発表の場を与えるために努力している人々を取材しています。
静岡市の金座町にある商社の古い社員寮を、シェアオフィスにリニューアルしたら、昭和の古い建造物に魅力を感じて集まってきた芸術家や俳優たちの“アーティスト長屋”になった『第二金座ビル・ボタニカ』。代表の下山晶子さん(写真左)の「古い建物を潰してコインパーキングにするだけなら、街に未来はない」という思いが発端でした。
先端のインテリジェンスオフィスとは違い、ボタニカには無駄な空間が多く、ビル機能的には何かと不便さもあるけど、社員寮の食堂や休憩室だったフロアが入居者同士のコミュニティスペースになり、作品発表の舞台になり、エントランスや階段スクエアには入居者たちが思い思 いに壁アートを描くなど、なんだか建物そのものに血が通っている感じ。4月からは両替町にあった老舗カフェ『ダイナ』がここで復活するそうです。
「アーティストたちはつねに自分を追い込んでギリギリの精神状態で創作活動に臨んでいる。彼らと触れ合う中で、彼らにはリセットの時間や空間がとても大事なんだと気がつきました」と下山さん。こういう理解ある大家さんがいる長屋ってイイですよね~。
静岡市清水区上原のジャスコ近くにある『スノドカフェ』も、アーティストやクリエーターに“場”を与えてくれます。
カフェレストランMiss-Tやリサイクルブティック・スノードールとしてファンの多いショップの2階。オーナー柚木康裕さんはブティック経営の傍 ら、倉庫になっていた2階で貸しギャラリーを始め、次第に作家たちを支えるには何が必要かを真摯に考えるようになり、東京の美術館やギャラリーにこまめに足を運び、自腹でNPO主宰のアート講座で学んで、アートディレクターやキュレーターの人脈をつくりました。
「静岡はアートに直接触れる機会が圧倒的に少ない」
「静岡のアートの世界がアーティスト自身で創られ、完結してしまっている」
「アートは創るだけではなく支えることも大切」
「ただ自分自身は仰々しく“支えます”なんて意識ではなく、好きで面白くて、無性に知りたいと思ってやっている」
・・・柚木さんの飾り気のない言葉は、しずおか地酒研究会を始めた頃の自分の思いに重なるようで、ビンビン響いてきました。
掛川市旧大須賀町にある『とうもんの里』を運営するNPO法人とうもんの会も、リーダーの名倉光子さんの高い志と行動力が光っています。名倉さんは『名倉メロン園』のオーナーでもあり、静岡県を代表する女性農業経営者として知られた方。私も過去何度か取材させていただいたことがあります。
国の助成をベースに、田園の景観と文化を伝える目的で立てられた『とうもんの里』という施設を、地域農業者や自治会の人々が、行政任せにせず自分たちで運営しようと立ちあがったとき、舵取りを託したのが名倉さん。農業体験や食加工体験、自然観察等の体験プログラムを企画し、毎週金曜~日曜には朝採り昼市を開催しています。
ワークショップで郷土の自然や歴史を学ぶうちに、自分たちが暮らす地域のことを知らなさ過ぎたことに気づき、「この地域の大地を守ってきた先人の歴史を正しく知って語り継ごう」と、江戸末期に命を捨てて村の農業用水路を作った庄屋さんの秘話を子どもミュージカル『十内圦(じゅうないいり)ものがたり』に仕立てました。
昨年8月、県民の日の農業イベントで上演したところ、猛暑の中にもかかわらず、観客は微動だにせず、声も上げずにポロポロ涙を流したそう。地域で大きな評判を呼び、秋の『遠州横須賀ちいさな文化祭』でも再演したそうです。「思い付きで、自分の娘が通っている声楽の先生の協力で運よくミュージカルにすることができたけど、こんなに“伝える力”があるとは・・・」と名倉さん自身ビックリだったとか。
取材当日は、名倉さんが県内の女性農業経営者たちと力を入れて完成させたばかりの『地産地消のしずおか食育かるた』を嬉しそうに見せてくれました。地元掛川の切り絵アーティ ストのかるた絵が素晴らしく、 アートと農業はとっても相性がいいと実感させられました。
美しい自然は、地球自身の芸術作品。美しい田園は自然と人間の共同作品。その価値を守り伝えるには、農業が健全に継続されることが必要だと語る名倉さん。下山さんや柚木さんにしても、活動を支える街の商業が健全に成り立ってこその活動に違いありません。
ただ、バブル時代のように金の力にモノを言わせて高額な絵画を買い漁る人とは違い、今回取材で出会った人たちは、地域の、自分のテリトリーのものを知恵と工夫と人脈の力で、文化発信の場に変えようと努力しています。これはその人自身に、途方もない“人間力”があってこそなし得る事業だと思えます。
取材は来週いっぱいまで、トータル14人の「ささえびと」に会ってきます。人間力あふれる人を取材する仕事、インタビューするにも原稿にまとめるにも、自分自身の“人間力”も問われるだけに、ものすごい疲労感、と同時に人としての達成感も得られるようです。
続きはまた。