あけましておめでとうございます。
お天気に恵まれた穏やかな元日、今年の仕事はじめはやっぱりコレ！ということで、「喜久醉」青島酒造のお正月を撮影に行きました。
といっても、お正月らしい雰囲気は、玄関のお飾りぐらい。年始のあいさつをしようと思ったら、蔵の奥から、奥さんが洗米作業での浸漬時間をストップウォッチで計る、聞き慣れた掛け声が聞こえてきます。カメラマンの成岡さんが「ありゃりゃ、いつもと同じじゃん」と目を丸くする中、社長が普段着で出てきて「うちらの正月は6月末。それまで一日たりとも休みはないよ」といつもどおりの口調で出迎えてくれました。
そう、酒蔵の一年（酒造年度）というのは、7月に始まり、翌6月に終わるので、世間一般のお正月は、休める時期ではないんですね。蔵元でも、先代や先々代がお元気で、伝統を重んじるような旧家では、お正月らしい儀式も行うようですが、青島家では社長も奥さんも現場を走り回って働く人で、製造以外の社員には休みを取らせるので、元旦といえども儀式的なものに時間は割くゆとりはまったくないようです。
社長夫妻と専務以下5人の蔵人だけの静かな蔵内には、おなじみの青島式吟醸洗米機の駆動音とホースから勢いよく流れる湧水の音、青島専務（杜氏）が浸漬具合を凝視し、「あと〇〇秒で上げて！」と叫ぶ声と、奥さんのストップウォッチの時間を読み上げる声だけが響いてきます。
自然に、こちらも背筋がピーンと張ってくるような思い。成岡さんもアシスタントの鈴木くんも、神妙な面持ちでカメラを向けます。
元旦の洗い始めの米の中に、松下米が含まれていました。私たちが気付いたときはすでに洗い終わっていて、「ああ、そうだっけ、最初からちゃんと撮ってもらえばよかった」と青島さんは申し訳なさそうな顔をしたのですが、私は、昨年6月の田植えから、豊年エビが生息する姿、花が咲く瞬間、稲刈りと、貴重な成長記録を撮り続けてきた米が、いよいよ酒に変貌する時を迎えたのか…と感無量に。
成岡さんに「あの米がついにここまで来たんだよ～」と話すと、成岡さんも「そうかぁ、大きく育ったなぁ」と感慨深げにつぶやき、三脚をセットし、時間をかけて接写しました。ただの傍観者でさえ、わが子の成長を見守るような思いになるのですから、米を育てた松下さんや、それを託された青島さんの気持ちはいかばかりか、と想像します。
喜久醉松下米という酒は、そんな深い思いの結晶だからこそ、価値があるんですね！。
午前中の洗米作業がひと段落し、お昼は、かつおだしに焼き餅と大根・水菜だけのシンプルなお雑煮。食事のあとは、昼休み休憩の時間をつかって近所の岩田神社へ初詣に。
岩田神社というのは青島酒造から国道1号線を越えた突き当りにあり、かつては青島酒造の蔵の横に鳥居があったそうです。蔵は旧東海道沿いにあるので、なるほど街道を往来する人々にとって青島酒造は岩田神社門前の酒蔵、という存在だったわけです。
ちなみに岩田神社は伊勢神宮の系統にあたる由緒ある古社で、大井川が川止になって、伊勢参りが出来なくなった人が、お伊勢さんの代わりにここでお参りを済ませたぐらいの格式ある神社。
初詣の時期には、青島酒造の酒粕で甘酒がふるまわれます。この甘酒を毎年楽しみにお参りに行くという青島さんを追っかけ撮影。せっかくだから全員で行こうと、いつもは三々五々出かける蔵人たちを一緒に引き連れてのお参りです。
神社の氏子の皆さんは、「この甘酒、うめぇら～？」と故郷自慢をするかのよう。代表の萩原さんも「あっという間になくなって、作るのに間に合わないぐらいです」と嬉しそう。氏子のおじさんたちは「おらが作った生姜も必ず入れて飲んでくれや」「おねえさん、イケそうな顔してる
な、酒入れてやろうか？」などと陽気にふるまいます。青島さんも「この甘酒、ヤバイなあぁ」と自画自賛（笑）。
蔵の中は、お正月とは無縁の世界でしたが、一歩外に出ると、すぐ近くにお正月という日本の伝統を最も端的に表現した世界があって、地域に酒蔵がある価値がひしひしと伝わる風景が待ち受けていた。蔵の皆さんのご苦労も、こうして報われている。
…酒造りは、日本人を幸せにする価値ある仕事なんだと改めて実感できた、素晴らしい年始1日目でした。
