杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

朝鮮通信使の酒ラベル

2008-01-12 16:26:02 | 朝鮮通信使

Photo_2  年末に何本か買い置きしてあった『白隠正宗大吟醸』。最後の1本を、朝鮮通信使研究家の北村欽哉先生にお贈りしました。派手な香りを抑え、まるくストンと素直に味わえる、呑み飽きしない大吟です。

 このラベル、不思議な絵が描いてあるでしょう。白隠正宗の醸造元・高嶋酒造がある沼津市原は、名僧・白隠禅師ゆかりの地として知られ、このラベルは禅師が描いた「布袋瓢箪駒図」をモチーフにしたそうです。

 写真ではわかりにくいかもしれませんが、瓢箪から飛び出したのは、朝鮮の伝統武芸『馬上才(ばじょうさい)』を演じる朝鮮通信使。おもに江戸の武家屋敷等で披露されたため、白隠禅師が直接見て描いたのかは不明ですが、朝鮮通信使一行は数千人の大行列で東海道を往復し、沼津の原でも宿場町を上げて歓待したため、どこかで通信使を見た可能性はあるようです。

 原宿本陣の渡辺家と縁戚だった高嶋家には、渡辺家を介して通信使が残した書や画がいくつか残っています。現在、白隠正宗のロゴマークになっている「孝」の字も、通信使が残した書の中から、蔵元の高嶋一孝さんが自分の名前の一字を取って、デフォルメしたそうです。粋なマークですよね!

Photo_3

 

 

 ちょうど一年前の今頃、私は、静岡市製作の映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』の脚本執筆のため、北村先生、金両基先生(評論家・哲学博士)、通信使研究の第一人者・仲尾宏先生(京都造形芸術大学教授)に詰込レクチャーを受け、シナリオハンティングで各地を飛び回っていました。

 当初、脚本家の候補は何人かいて、 中にはドキュメンタリー映画やNHK番組等で実績のあるベテラン作家もいたそうですが、「朝鮮通信使のような難しいテーマを書くなら1年かかる」と言われたとか。ギリギリになっても書き手が決まらず、あせったプロデューサーが知り合いのライターを介して私に「史料整理と調査を手伝ってくれ」と話をもって来ました。

 まさか脚本を書く羽目になるとは思わず、好きな歴史の勉強になるなら、と軽~い気持ちで引き受けてしまった私。案の定、20年余のライター人生で最も過酷な仕事になりました。

 辛い仕事を乗り切れた理由のひとつは、地方の酒蔵に朝鮮通信使ゆかりの史料が多く残っていたことでした。一夜漬けの知識で、朝鮮通信使というこれまであまり日の当たらなかった分野の研究を長年コツコツと続け、一家言お持ちの先生方と対峙するのは、精神的にも大変なプレッシャーでしたが、地酒のネタで先生方に取り入る?ことで短期間に距離を縮めることができたと思います。

 完成後、「朝鮮通信使ゆかりの酒蔵をピックアップして取材したい」と相談したところ、北村先生も仲尾先生も「面白いテーマだからぜひやりなさい」と太鼓判を押してくれました。

 朝鮮通信使がそのままずばり、酒のラベルになっているのは、全国でもこの白隠正宗だけ。北村先生が送ってくださった資料によると、県内ではほかに杉井酒造の本家に文献が残っているようで、酒造繁忙期がひと段落したらぜひ調査してみようと思います。

 県外では東京都福生市の石川酒造もかなりの史料を持っているそうです。他にご存知の方がいたらぜひ情報をください。

 

 

 映像作品『朝鮮通信使』は、昨年5月の公式上映会でお披露目されたきり、一般公開の機会がなく(歴史教材としてDVD化され、市内公立学校等へ配布されました)、制作者のはしくれとして寂しい限りでしたが、来る2月15日(金)15時から、オープンしたばかりの静岡市クリエーター支援センター(駿府公園東御門横・旧青葉小学校)で、『しずおかコンテンツバレーフェスティバル』の一環として上映されます。平日午後ですが、お時間の許せる方はぜひお越しください!

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