杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

わらび座の『火の鳥』

2008-04-30 10:43:33 | アート・文化

 29日(火・祝)は新宿文化センターに、わらび座ミュージカル『火の鳥』を観に行きました。

 

 

  昨夏、静岡でわらび座公演『義経―平泉の夢』が上演されたとき、事前に開かれた上演を成功させる有志の集まりに呼んでもらい、主演の戎本みろさんにお会いしました。本公演は仕事の都合で観にいけなかったのですが、事前の集まりでは、みろさんはじめ出演者が即興で歌ってくれたり、一緒に飲んだり食べたりして、とてもフランクで楽しいひとときを過ごすことができました。私は恥ずかしながら、わらび座という劇団のことを、このとき初めて、ちゃんと知ったのでした。

 

  わらび座は、1951年に原太郎氏が東京で創設し、日本の伝統芸能や民謡を現代感覚で表現しようと、民謡民舞の宝庫である秋田県田沢湖町に拠点を移し、全国の民俗芸能を調査し、舞台化し、全国で公演活動を行っています。小学校や公民館にわらび座が来たのを観た、という人も多いと思います。

 

 

  1974年に全国800万人の市民支援によって、パブリックシアター「わらび劇場」が完成。観光客や修学旅行生が気軽に観劇できるように、また劇団員がここで生計を立てながら演劇活動ができるようにと、劇場の周辺に温泉や宿泊施設をつくり、「たざわこ芸術村」という一大テーマパークを築き上げたのです。東北の片田舎で、毎日演劇が上演され、全国から観客が集まり、にぎわっているというのは、奇跡のような話。静岡の真ん中にありながら、市民が気軽に近寄れない静岡県舞台芸術公園とはえらい違いです。

 

  わらび座の劇場ニュースを見ると、わらび劇場では、ホントに毎日公演をやっているんですね。お休みは毎週1回程度。今年の演目は松尾芭蕉を主人公にしたミュージカル『おくのほそ道』。芸術村では夏には俳句の会や花火&盆踊り、秋には収穫体験やクリスマスなどイベントメニューも盛りだくさんです。来年には、秋田の酒蔵の歴史をテーマにしたミュージカル『響け!酒屋唄』(仮題)を上演するらしいので、これは、ぜひ観に行かねば、と思っています。

 

  一方、全国を巡回する特別公演は、今年は、『天草四郎―四つの夢の物語』と、昨日観た『火の鳥―鳳凰編』の2本。『火の鳥』は、創設者原太郎氏の夫人が、関西の学生演劇チーム「学友座」で当時、大阪大学医学部の学生だった手塚治虫氏と俳優仲間だったという縁から始まったそう。今回は、手塚治虫生誕80周年記念ミュージカルとして、手塚プロ全面協力のもとで上演されました。

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 昔、アニメ映画で観たことのある『火の鳥』。今の映像技術なら実写化も可能かもしれませんが、舞台、しかもミュージカルとなると、あの深く壮大な死生観をどうやって表現するのか、想像がつきませんでした。描かれるのは奈良の大仏建立時のお話。東大寺初代別当・良弁僧正も登場するとあって、現代風のミュージカルになるというのが、どうもピンと来ません。

 

  正直なところ、アタマから、手塚作品や大仏建立がテーマだと思い込まず、1本のミュージカル作品として楽しめればよい、と思って観ました。そして、本当にミュージカルとしては見ごたえのある上質な作品でした!。なんといっても素晴らしかったのは、主役のパク・トンハさんと戎本みろさんの歌唱力。ホールの音響がイマイチだったせいか、歌詞の内容はうまく聴き取れなかったのですが、それでも、ミュージカルの成否はやっぱり俳優の歌声と表現力に因る部分が大きいと実感しました。

 

  民族の歴史や伝統や宗教観につながるようなテーマを、現代風の舞台表現で伝えようとするわらび座の試み。なにか、ひとつの老舗企業の生き方を見るような思いがします。

 

  

 さて、今夜は22時発の夜行バスで京都へ行き、1日朝から5日まで京都・興聖寺にて接心(特別坐禅)に参加します。心の垢をそぎ落とし、新たな気持ちで仕事や映画づくりに臨みたいと思います。みなさまも充実したGWを送られますよう!


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