杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒研究会25周年記念 オクシズの恵み再発見ツアー

2020-09-15 11:50:07 | しずおか地酒研究会

 しずおか地酒研究会は、前身である1995年11月開催の静岡市立南部図書館食文化講座から数え、今年、満25歳を迎えました。今春よりさまざまな感謝企画を考えていましたが、コロナの影響ですべてリセット。代わりに、25年の活動を支えてくれた身近な同志に感謝を伝えるささやかな場を設けることにしました。

 第一弾として9月12日、オクシズの油山温泉「油山苑」で女性6人のお泊まり酒宴を開催しました。油山苑は食事に定評のある温泉旅館で、女将の大塚郁美さんは静岡の地酒への思い入れが深く、私の活動も長年温かく見守ってくださっている方。夕食メニューには静岡の地酒飲み比べセットもあります。

 そして集まってくれたのは萩原郁子さん(「萩錦」蔵元杜氏)、安陪絹子さん(酒匠)、坂野真帆さん(そふと研究室)、川村美智さん(元静岡新聞記者)、田邊詩野さん(静岡新聞出版部)。地酒研25年の活動と私の地酒取材を長年支えてくれたタフな女性たちです。

 当初は油山苑に1泊するだけの予定でしたが、多忙な女性たちが貴重な土日を割いて集まってくれるのだから、翌日、近場の観光ができないかと坂野真帆さんに相談し、玉川の「ガイアフロー静岡蒸留所」、本山茶園「志田島園」、そして旬のブドウ狩りが満喫できる「大塚ぶどう園」をはしごするツアーをセッティングしていただきました。結果、25年前は知る人ぞ知る存在だった静岡吟醸が今は地元の、いや日本の宝になったように、オクシズの食文化も必ずや多くの日本人が自慢する宝物になるだろう手応えをビンビン感じる貴重な2日間となりました。

 ちなみに真帆さんはそふと研究室を起業される前、ライター&プランナーとして活躍されており、1998年に地酒研会員情報を網羅して出版した〈地酒をもう一杯〉で助っ人ライターをしてくれた人です。

 

 9月12日午後、“しずまえ”に位置する萩錦酒造で萩原郁子さんをピックアップし、伊豆の国市から駆けつけてくれた安陪絹子さんとともに油山苑へ。夕方、坂野真帆さんの車で川村美智さんと田邊詩野さんが合流してくれました。美智さんは静岡県における女性新聞記者の草分けレジェンドであり、静岡新聞で地酒研の活動を再三記事に取り上げてくれた方。退職後は静岡市女性会館アイセル21館長として男女共同参画事業に尽力されました。詩野さんは地酒研発足年からの参加者で、2015年に〈杯が満ちるまで〉を作ってくれた、私が心から信頼する編集者です。

 

 油山温泉は今回初めて訪れましたが、静岡駅から車で30分もかからず、意外に近くてビックリ。新東名の静岡ICからならわずか10分という距離です。温泉自体は約500年前、今川氏親の時代から知られていて、氏親の妻・寿桂尼が遊山保養の地として愛したそう。夕食前に宿の前の東海道自然歩道をブラ歩きし、温泉名の由来となった油山川源流部の森林浴を楽しみました。周辺を囲む常緑樹の深緑と、蒸し暑さを吹き飛ばそうとしているかのような初秋の雲のコントラストが見事。こんなふうに空を見上げる時間が、ふだんほとんどなかったことに気づき、思いきり深呼吸しました。時々、呼吸法を採り入れたストレッチ&筋トレ講座に通っていますが、こういう場所で屋外講座ができたらいいなあと思いました。

(撮影/田邊詩野さん)

 

 少し奥に進むと、あまり人の手が入っていないのか、山林や山道は倒木や雑林が目立ち、不法投棄と思われる産廃ゴミもちらほら。静岡市街から一番近い天然温泉地なのだから、もう少しなんとかならないのかな・・・。

 

 12日夜、食事に定評のある油山苑らしく、地元食材がふんだんに使われ、しかもほどほどの量で多品種。食中酒タイプの静岡の酒がスイスイ進みます。

 油山苑には静岡の地酒飲み比べセットもありますが、今回は特別に持ち込みをお許しいただきました。用意したお酒は、萩錦4種に喜久醉2種。プラス私の酒器コレクション。喜久醉の蔵元青島久子さんもご参加いただく予定でしたが、急用のため、お酒のみの参加となりました。

 萩錦は杜氏の郁子さんの解説付きでいただく贅沢。5年前〈杯が満ちるまで〉の取材時に仕込んでいた大吟醸(2014BY)をわざわざご用意くださいました。喜久醉の松下米も2018BYで仕込んでから1年半以上寝かせたものでしたが、どちらもベストな飲み頃。丁寧に仕込んだ静岡酵母の大吟醸は適正な保存状態であれば1年以上、いやもっと置いたほうが味わいが深化するんじゃないかと改めて実感しました。

 

 ちなみにこちらは1998年の〈地酒をもう一杯〉取材時に初めてお会いしたときの郁子さん。酒造りの面白さについて生き生きと語る郁子さんの表情が素晴らしく、これを本に掲載したら、奥に写っているご主人の蔵元萩原吉隆さんから「なんで自分が添え物扱いなんだ」と怒られましたっけ(苦笑)。

 

 こちらは同じく〈地酒をもう一杯〉に掲載した安陪絹子さん。当時は沼津で伝説的地酒バー『一時来(ひととき)』を経営されていました。店名は河村傳兵衛先生の命名です。

 しずおか地酒研究会の有志が1996年12月、沼津工業技術センターの試験醸造に差し入れ訪問したときもご一緒していただきました。絹子さんの左は河村先生、右隣は現在、磯自慢の副杜氏山田英彦さん。当時は研修生として汗をかいていました。

 

 13日は午前中、ガイアフローディスティング㈱静岡蒸留所の見学ツアーに参加しました。仕込み休業期でしたが、代わりに製造時期には見ることの出来ないマッシュタン(糖化槽)、ウォッシュパック(発酵槽)、ポットスチルの内部を見せていただきました。

 私は3回目の訪問ですが、今回は静岡県産の大麦&沼津工業支援センターで開発したウイスキー版静岡酵母での仕込みが始まるなど毎回来るたびに進化していて、蒸留所自体が生きもので、熟成過程にあるように感じました。酒蔵が、まったくのゼロから動き始めた歴史を間近に見られるというのは、長年酒蔵取材をしてきた身にしてみれば、本当にレアな体験です。廃業のニュースばかりが目立つ酒造業ですが、次世代の起業家や投資家にとって魅力的な事業になる試金石として、オーナー中村大航さん(写真右端)の挑戦を心から応援したいと思います。

 

 昼食は、ガイアフロー静岡蒸留所のすぐ向かいに2020年4月オープンのCAFE RESTAURANT BOSCO でパスタ&かき氷ランチ。店主の福地章仁さんが静岡の農家から集めた旬の食材で、見た目も華やかなメニューを提供しています。女子旅には必須のランチスポットですね!

 

 ランチから合流してくれた神田えり子さん(フリーアナウンサー&地酒チアニスタ)を交えて、午後は本山茶農家『志田島園』へ。江戸期から7代続く農家で、お茶、わさび、林業を手掛けており、母屋を囲むように山懐に沿って広がる傾斜の茶畑が、本山茶産地ならではの景観を醸し出していました。

 7代目佐藤誠洋さんはエコファーマーであり手揉み保存会メンバーでもあり日本茶インストラクターでもあり、自園の製茶工場での自製茶に徹した栽培製茶家。酒造業に例えれば、酒米農家であり蔵元杜氏であり、酒販店兼きき酒師のようなマルチクリエイターです。情報発信能力のあるこの世代が、本気になって継承すれば、静岡茶も変わるだろうとワクワクしてきました。

 佐藤さんの案内で広い園内を40分ほど散策し、母屋の縁側で氷水出し茶と採れたて生ワサビを味わい、静岡に生まれてよかったなぁと心底感動。ちなみに8月末に中田英寿さんが訪問された記事がこちらに紹介されています。

 

 当初はこれで終わりの予定でしたが、前日、安倍街道を北上していたとき、大塚ぶどう園の看板を見つけ、1年のうち2カ月ほどしかないぶどう狩りの時期に、ここを通るチャンスはめったにないかも!と、真帆さんにお願いし、最後の寄り道として福田ヶ谷の大塚ぶどう園へ。

 偶然にも松下米の松下明弘さんが昼から来園中で、我々が来ると聞いて2時間も待っていてくれたのでした。大塚ぶどう園のオーナー大塚剛英さんと松下さんは栽培者同志として親交が深く、今年のお正月に一緒に呑んだときは熱い農業談義に聞き惚れたものでした。大塚さん&松下さんの手ほどきで食べ頃の房をあれこれ物色し、抱えきれないほどのぶどうをゲットしました。

 

 しずおか地酒研究会25周年記念のオクシズツアー、駆け足でしたが、身近にこんなに豊かな食文化があり、担い手たちの地道な努力を買い支えていかねばという、25年前と同じ思いを再認識できました。その思いが少しでもお伝えできれば幸いです。今ならGoToトラベルで、かなりリーズナブルに楽しめますので、週末や連休にぜひ!

 

オクシズのHPはこちら

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ガイアフローディスティング㈱静岡蒸留所のHPはこちら

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