杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

日本酒で乾杯推進フォーラム

2009-10-04 11:15:08 | 地酒

 地酒まつり報告のつづきです。・・・といっても翌10月2日、丸の内の東京會館で行われた『日本酒で乾杯推進会議フォーラム』のお話。 

 

 日本酒造組合中央会の中に、日本の伝統や善き風習を見直そうという著名人や有識者有志が設立した『日本酒で乾杯推進会議』という組織が5年前に誕生しました。会議には100人の委員(著名人・文化人)が名を連ね、代表は民族学者の石毛直道さん(国立民族学博物館名誉教授)。メンバーを見ると、国会議員、大学教授、映画監督、歌舞伎役者、茶道家元、作家、タレント等などで、酒の業界人は私が知る限り、秋山裕一さん(日本醸造協会顧問)と辰馬章夫さん(日本酒造組合中央会会長)ぐらい。日本酒を肴にするセレブリティの余暇交流組織といった雰囲気かな。そういう応援団が必要になるぐらい、日本酒が日本の中でマイノリティになってしまったのかと複雑な気持ちもしますが・・・。

 

 この100人委員会のほかに、一般会員が2万人ぐらいいて、中央会のホームページから誰でも無料登録できます。会員になると委員会活動の情報や、誰でも参加できる総会フォーラムの案内をもらえます。

Dsc_0005  私も一応会員登録をし、毎回案内をもらっていましたが、自分が静岡でチョコチョコやっている活動とは次元が違うと、一歩引いて見てました。今回は、お仕事をいただいている東京新聞購読者紙『暮らすめいと』で日本酒の記事を作ってくれと頼まれ、一般紙ならあんまりマニアックなネタではなく、こういう文化活動の紹介のほうが向いていると思い、急きょ取材することに。

 今回は、「酒と芸能」をテーマに、100人委員のお一人・民俗学者の神崎宣武氏が「備中神楽」を紹介してくれました。日本酒と伝統芸能の関わりについては、いずれ研究してみたいと思っていた分野なので、個人的には楽しみなプログラム。備中神楽は日本の神楽の中でも突出した存在で、素面(仮面をつけず素顔で)神様に奉納する神事的踊りと、仮面をつけ参詣者に見せて楽しませる芸能的踊りが並立した数少ない神楽だそうです。仮面をつけるというのは、素顔=しらふではとても舞えない恥ずかしい踊りという意味。仮面をつければどんな滑稽なパフォーマンスも可能、というわけです。

 

Dsc_0009  で、今回は狭いステージの上で、ヤマタノオロチに酒を飲ませて退治する「大蛇退治」を披露してくれました。まず登場するのは松尾明神。スサノオノミコトが、大蛇を酔いつぶすための酒造りを依頼し、出雲からやってくる仮面の明神さまは、道中で仕入れた世間話を面白おかしく漫談します。民主党の政権交代など今の時事ネタなんかも、きみまろさん風に上手にからませ、聴衆の関心を惹きつけます。

 

 

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  次いで室尾明神や奇名玉明神を蔵人に、松尾明神が杜氏となって酒造り。酛すり唄や戯れ唄を歌いながら、酒造りパフォーマンスを披露します。

 最後は素顔のスサノオノミコトが登場し、剣の舞でウォーミングアップした後、2匹の大蛇に酒を飲ませ、酔い潰れたところに斬りかかって見事退治する。

 

Dsc_0053  ・・・私、神楽を間近にじっくり観るのは初めてでしたが、こんなに面白いものとは思いませんでした!大蛇の踊りもすごい迫力だし、何より、酒造りの作業を神楽が伝承していることに感激!でした。

 

 

 続いて、神崎さんと俳優の小沢昭一さんの対談。小沢さんは「日本の放浪芸」シリーズを製作して芸術選奨を受賞するなど、日本の民衆芸能をフィールドワークで極めた方。備中神楽をご覧になったのは初めてだそうで、「あんな狭いステージでやりにくそうでしたね~」と言うと、「ふだんは畳8帖敷きの部Dsc_0068 屋でやっています。狭いからやりにくいなんて言うのは素人ですよ」と笑って切り返す神崎さん。神楽を舞う人は、昔からお医者さんや占い師など村人の相談役を務めていた人が多く、村人の信頼感を得るために神楽の舞人を買って出ていたそうです。「大蛇退治」のスサノオノミコトは、村人にとって日頃の憂さを晴らしてくれる正義のヒーローのような存在だったんですね。

 

 

Dsc_0113  総会終了後はパーティー会場に場所を移し、100人委員のセレブの皆さんによる乾杯。400人ぐらいの参加者が、全国から55銘柄の酒が集まって試飲や食事を楽しみました。静岡からは開運ひやおろし純米が1本だけ出品されていましたね・・・といっても私は酒も料理もまったく手を付ける間もなく、必死に写真を撮りまくっていました。

 

Dsc_0090  石毛会長によると、「乾杯」は、改まった礼講から、にぎやかな無礼講に移るときのギアチェンジのサイン。「みなさまのご発展とご健勝を祈念して・・・」というお決まり挨拶は、誰に祈っているかといえば、神様・仏様・ご先祖様等など、人智を超え、日本人が心の中で拠り所とする存在。したがって杯は必ず目線の上まで上げ、他の人の杯とは(粗相があってはいけないので)カチャカチャ合わせないのが本来のルールです。

 

 

 乾杯後の無Dsc_0081礼講タイムとなると、立食パーティーなので、昨日の記事にも書いたとおり多くの人が料理に群がり、中央の酒ブースは比較的空いています。コアな地酒ファンのパーティーとはやっぱり違うなぁとしみじみ・・・。日本酒を美味しそうに味わう人の表情がなかなか撮れず、苦労しました。

 

 

 

 品川プリンスホテルの静岡県地酒まつりIN東京に1000人集まったファンは、地酒ブースをまんべんなく回って試飲をトコトン愉しんでくれました。これは東京で10年以上コツコツと続けてきた成果だと思います。1日の沼津も1000人近い来場者が集まりましたが、地酒ファンばかりとは限らず、運営側も1000人を迎えるオペレーションに慣れていない部分がありました。

 とにかく初心者にいろんな銘柄を呑ませるのか、もう少し意識の高いファンに蔵元との対話を楽しんでもらうか、酒と料理をトコトン味わってもらうか、今回のように雑学文化にふれてもらうか・・・ひとくちに酒の会といっても、いろいろな手法やスタイルがあるわけですね。

 

 大型イベントとは別に、各地域で地元飲食店や販売店が少人数定員でも実のある会を地道に開いています。いろんな人が、目的やレベルに応じて地酒と出会う場を選択できて、本当に満足してもらえるようになればいいなぁとつくづく思います。

 

 さっそく沼津の記事にコメントをくださった池谷さん、ありがとうございました。池谷さんのお店で素敵な会が予定されていますので、関心のある方はぜひ!

 

 

◆白隠正宗と地元のF1食材を楽しむ会

沼津の白隠正宗ときたら海の幸!今回は白隠正宗社長兼杜氏の高嶋さんを囲んで、地元「F1食材」と「地酒」をテーマに日本酒の会を行います。お酒の味ものっている11月開催。美味しいモノどうしの組み合わせ、みなみ妙見池谷さんが腕を振るいます。

 

●日時 2009年11月8日(日)17時~

●場所 みなみ妙見(御殿場市新橋1706・JR御殿場駅乙女口より徒歩5分)

●会費 6000円

●受付 みなみ妙見/電話0550-82-3344、酒のいわせ/電話0550-82-2009


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