杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

御前崎総合病院のひまわりコンサート

2008-07-20 12:15:31 | 環境問題

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 昨日(19日)は、静岡新聞論説委員の川村美智さんをお誘いし、市立御前崎総合病院で開催されたひまわり摘み&花畑コンサートに行ってきました。出演は御前崎市少年少女合唱団の子どもたち。おそろいのセーラー服で、ひまわり畑の中に並んで唱歌を合唱する少女たちに、美智さんも「まるで映画のシーンみたいね!」と魅せられた様子。私は合唱のレベルの高さにもびっくり感動しました。でも、ほんと、映画のシーンみたいにすべてが絵になるシチュエーションでした。

 

 

 

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 公立学校のほとんどが夏休みに突入した連休初日、タイミングよく梅雨明け宣言もされ、榛南~御前崎地区には県外ナンバーのレジャー車が目につきます。御前崎総合病院は海岸から少し離れた小高い丘にあり、旧浜岡市街~浜岡原発~遠州灘海岸が一望できる5階建て・南向きの建物。見晴らしや日当たりのよさ(このエリアは日照時間日本一!)には定評があっても、夏場の照り返しは病院施設としてはかなりのダメージ。ということで、1階外来棟の屋上300坪のスペースに土を入れ、ツタを植えたところ、ツタや草が繁殖しすぎてあまりにも見苦しくなった。そこで病院職員の有志が、この場所に花を植え、見た目に美しく、患者さんにも喜んでもらえる空間にしようと、2000年から整備を始めました。

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 植えたのは春は菜の花、夏はひまわり、秋にはコスモス。子どもからお年寄りまでどんな人にも馴染みがあって、ストレートに季節感を伝えてくれる花々です。当初は職員自ら花を摘みとって入院患者さんの部屋へ配ってまわり、そのうちに患者さん自ら花摘みに参加するようになり、誰もが参加できる花摘み日を決めて、今では地元住民や市外・県外の一般客も参加するようになりました。

 

 患者さんからのアンケートを見ると、この活動が病院という施設にいかに貢献しているかが伝わってきます。

 「毎年美しいお花をありがとうございます。心が和み、来るたびに楽しみにしています」「命が延びるみたい。爽やかな気持ちでいっぱい」「母の見舞いにきて思いがけず花摘みができて最高の日でした。いつかこうしてコスモスを花瓶いっぱい飾るのが夢だったので」「入院家族でも気持ちが少しふさぎそうになったとき、花畑を見て心がホッとし、暖かい気持ちになった」「お花を育てている方の苦労に感謝します」「手入れも大変だと思いますが頑張ってください」etc・・・。

 

 昨日も、コンサートが始まったのはお昼前の炎天下。体力が弱った患者さんには1分じっとしているだけでもキツかったはずですが、車椅子に乗った多くの患者さんがひっきりなしにやってきて、職員からひまわりの花束を渡されると満面の笑顔。付き添いの家族の方々も、花摘みを心から楽しんでいる様子でした。美声を聴かせてくれた合唱団の子どもたちも、コンサート終了後には花摘みで大はしゃぎ。学校の花壇とはスケールが違うものね。

 

 過去ブログでも紹介したとおり、この活動は、昨年、県のSTOP地球温暖化防止キャンペーンの取材で知りました。花畑のある階と別の階の天井内温度が、夏場は花畑のある階は低く、冬場は高くなっていることに気づいた活動リーダーの塚本隆男さんが、2005年7月から定点測定を始め、冷暖房温度を1度節約設定して前年より使用電気量を2%カットすることに成功。これら客観的データは、病院職員のエコ意識を高めることにつながり、エレベーターを使わない、敷地内の緑化を進めるなど等の運動に広がり、これら一連の活動が、06年度の県STOP温暖化キャンペーンでは準グランプリ、07年度はエコオフィス部門優秀賞受賞につながりました。塚本さんは、病院関係者の学術大会や環境研究会全国大会等でも発表を行い、専門誌の表紙を飾るなど、業界内の注目の的にもなっているそうです。

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 塚本さんたちの活動は、「ウチはエコ活動に取り組む、進歩的な病院です!」みたいなノリで始めたわけではないんですね。日当たりがきつい建物だから草を植え、それが景観を悪くしているから何とかしようと立ち上がり、花を育てることが患者さんの癒しになった。患者さんに喜ばれるから励みになって継続できる・・・。どれも必要必然で始めたことで、それが結果的にエコにつながったわけです。CO2削減数値は地球全体を考えたら、ホントに微々たるものかもしれませんが、患者本位で行動するという医療施設としてのまっとうな考えから始まった活動である以上、垣根なしに多くの人が賛同できます。しかも、花という癒しのプラス効果まで与えてくれるのです。無理なく長く継続できるでしょう。

 美智さんも、そのあたりに価値を感じられたのだと思います。熱心に取材メモを取っていました。

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 帰りに近くのレストランで食事を取ったとき、店のオーナーが「あの病院は花摘みができるいい病院ですよね」と褒めていたのが印象的でした。塚本さんたちの行動が、地域に親しまれ、愛される病院づくりにもつながっているのなら、これは全国の医療関係者に、誇りを持って伝えることのできる活動だと思います。

 

 

 

 病院が舞台になったドラマが、今クールでも放送されていますが、医療ドラマというと、とかく不正とか内部対立とか事故とか、暗くて深刻なシナリオが多いようです。病院は人間が元気と活力を取り戻す、本来は明るくエネルギーに満ちあふれた場所であっていいはず。側面しか見ていない私に何がわかるのかとお叱りを受けるかもしれませんが、3年前、妹が勤務していたアラスカの総合病院を訪ねたときは、看護師のユニフォームが花柄で、病室の壁もカラフルで、ネイティブの方々の美術品や工芸品を展示即売するギャラリーもあったりして、明るくて清潔で、こういう場所なら病気じゃなくても行きたくなる!・・・なんて思ったりしました。

 日本では、ドラマ同様、医療に関する現実のニュースも暗い話題ばかりですが、昨日のような、明るく清々しい病院の姿を、メディアはもっと積極的に伝えるべきだと思います。

 

 ひまわり畑の少女たちの合唱、ホントに心洗われる歌声でした。わたし的には、実に幸先の良い梅雨明け初日でした!