goo blog サービス終了のお知らせ 

杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

頑張れ!下田新市長

2012-06-18 19:12:36 | しずおか地酒研究会

Img092
 昨日(17日)、下田市の新市長に無投票当選した楠山俊介さん。つい先月、下田黒船祭の取材に行った時、選挙前のお祭り時期は挨拶回り等で忙しいのにギリギリまでつきあって一緒に飲んでくれた素敵な先輩酒友です。

 

 立候補すると聞いたときはビックリしたけど、長年、市民の立場で下田の街づくりや観光振興に手弁当で尽くしてこられたその思いが、正真正銘ホンモノだったんだなあとじんわり感動しました。

 

 

 

 地域でいろんな発言をする人は多いけど、政治家になる選択をするというのは、並大抵のことではありません。特定の政治家を応援するのも、何か特殊な色眼鏡で見られる・・・そんな土壌がありますよね。でも支持する政治家がいない、投票に行かないという有権者が、今の政治を作っているんだと思います。その意味でも、知っている人が立候補するというのは、自分たちの手で政治をよくするチャンスが廻って来たと思わないといけませんね。

 

 

 

 それはさておき、楠山さんとの出会いはかれこれ12~13年前にさかのぼります。2000年に伊豆新世紀創造祭という観光イベントが伊豆全域で開かれ、下田市では料理と器をテーマにした『下田テイスティ・アート』というプログラムが企画されました。

 

 私はこのプログラムにしずおか地酒サロンをぶつけようと、下田市の植松酒店さんはじめ、しずおか地酒研究会会員や静岡県ニュービジネス協議会東部部会員、静岡新聞社・伊豆新聞社関係者何人かを巻き込んで、国際ラリーライダー&エッセイストの山村レイコさんを囲む『下田温泉・地酒夜話』という宿泊サロンの開催にこぎつけました。12年前の写真です。レイコさんはこの頃とちっとも変らず今もおキレイですよね! 正雪さん、喜久醉さん、初亀さんは若いなあ・・・

Img093

 

 

 このとき、下田テイスティ・アート実行委員会側で尽力してくれたのが楠山さんでした。名刺を見たら歯科医とあり、観光イベントのボランティアをやっても直接メリットがないのに、ずいぶんフットワークのいい歯医者さんだなあと思いました。

 「スズキさんも、酒のイベントやっても自分の儲けはないでしょ?好きでやっているんでしょ?同じだよ」とニコニコしながら楽しそうに飲む、そのエビス様みたいな顔が印象的。でも行政に対しては、ちゃんとモノ申す人でした。

 

 

 

 その後も、下田でちょこちょこ地酒講座や『吟醸王国しずおか』パイロット版試写会をやるたびにいろんな人を集めてくれました。下田の観光記事を書くときも、急に連絡してもパパッと資料を用意してくれて、こんな人が行政にいたら下田の行政サービスは向上するだろうなあと思っていました。・・・でもまさか市長になるとは

 

 もちろん政治・行政経験ゼロの楠山さん。これからいろいろな場面で苦労されると思いますが、そんなことはご本人も承知の上。傍から見たら苦労に見えても、本人は屁とも思わないかもしれません。民間出身の首長に求められるのは、生半可な知識やテクニックではなく、人間力やコミュニケーション能力なんだろうし、それは、楠山さんが最も強みとしていることだろうと思います。

 新市長に過度な期待は禁物かもしれないけど、でも、チェンジしてほしいし、楠山さんなら何かやらかすはず・・・!と心から願っています。


志太平野美酒物語2012

2012-06-09 16:35:52 | しずおか地酒研究会

P1000001
 昨夜(8日)はJR静岡駅前の葵タワー4階、グランディエール・ブケトーカイで、『志太平野美酒物語2012』が開かれました。いつもは焼津松風閣が会場ですが、今年は美酒物語20周年記念で県都静岡市の駅前開催となったようで、ブケトーカイのシンフォニーという一番大きな宴会場に450人!初参加の方も多かったように見受けられました。

 私も、今回お誘いしたのは初参加の方ばかり。みなさん一様に、会の規模にビックリされてました

 

 

 

 常連さんなら解っていると思いますが、着席パーティー形式で全席自由なので、グループでテーブルを囲みたかったら早めに行って確保しなければなりません。今回は新しい会場で、どんなレイアウトになっているのかわからず、しかもお誘いした方々は目上や先輩格の方々ばかりなので失礼があってはいけないと、開場の2時間前の17時に行ったら、すでに10人ぐらい並んでました。

 

 30分もしないうちに、長~い行列が出来て、ブケトーカイのスタッフさんも目を白黒させてました。席はチケット販売数、ちゃんと用意してあるので座れなくなるということはないのに、ディズニーランド並みのお待ち行列・・・しかもいい大人ばかり。さぞかし不思議な光景に見えたんでしょうね 偶然、列で一緒になった知り合いと「アップルの新機種の発売当日に、徹夜して並ぶ人の気持ちがわかるねえ」と笑い合いました。並ばなくても買えるのに並んでしまう、並ぶのがちっとも苦ではないって心理・・・ファンの性(サガ)なんですね。

 

 

 1時間30分待って開場となり、真ん中あたりの、蔵元ブースに一番近いテーブルをゲット。お誘いしたゲストが次々とやってきて、「450人の宴会なんて一流芸能人のディナーショーか結婚披露宴なみ!」「チケットの番号は席の番号じゃなかったんだ・・・」「まゆみさんが、席を確保するため早めに行くって言ってた意味が最初はわからなかったけど、こういうことだったか」と本当にビックリされました。

 

 

 

 参加者の多くが「指定席制にすればいいのに」とも言っていましたが、イベント会社やチケット販売業者に頼らず、志太の蔵元6社がすべて自前で企画・販売・運営する会なので、無理も出来ないんですよね。全席指定にするというのは発券業務が大変だし、6社それぞれのお得意様を平等に扱うというのも難しくなるわけです。昔、一度、指定席にしたこともあって、端っこの席にされたお客さんからクレームがあったそう。“いつも飲んでくれる地元のお客さんを大切にしよう”というのが、この会のスタート時の趣旨ですから、蔵元さんたちも出来るだけ善処しようと努力されています。

 

 ・・・とにかく450人の酒宴を自前で仕切るというのは大変な労力です。昔、司会進行のお手伝いをしていたころ、実行委員会の打ち合わせが何度もあって、真剣に議論しあい、終わったあともちゃんと反省会をやっているのを間近で見ていたので、本当に頑張っている!と思っています。

 

 

 そんな運営側の努力の価値を、改めて実感したのも、並んで席取りをしている時間にお客さんからいろ~んな声を聞けたから。いつも焼津で参加している人の中には「なんで志太酒のイベントを静岡でやるんだ、焼津に戻してほしい」と不満顔の人もいましたが、東京から参加した人は「すごい会だ、静岡酒のパワーを感じた」と感心しきり。ファンの一人として嬉しくなりました。

 

 

 450人が大集結して、ひたすら地酒だけを飲むイベント。お料理も和洋折衷フルコースで、お酒が強くない人も十分楽しめたと思います。私も、お誘いしたゲストのもてなしを優先しなければならないところ、目の前の蔵元ブースの行列が気になり、途中からすっかりただの酒徒になってました。

 料理はほとんど食べる間もなく、気が付けばお開きの時間。終宴間際にあわてて来賓席にいらした県酒造組合の土井会長にご挨拶。ご自分の酒(開運)がないのに駆けつけてこられて、乾杯の音頭をとられた懐の深さ、広島の全国新酒鑑評会で静岡酒の存在感をしっかり示した「開運」の金賞受賞酒の“品格”に感動したことをお伝えしました。

 

 

 

 終宴後はゲストの方々と、憧れの洋酒バー「ブルーラベル」で、超レアなボウモアをロックで2杯、堪能し、もう1軒、移動してビールで仕上げ。午前1時に帰宅し、今朝8時過ぎまで目が覚めず、サッカーが大勝したことも、未明に震度3の直下型地震があったことも気付きませんでした(苦笑)。美味しいお酒を楽しい仲間と飲めるって、ホント、幸せです。

 

 志太平野美酒物語実行委員会の蔵元さん、本当にお疲れさまでした&ありがとうございました。


満寿一deはしご酒 開催のお知らせ

2012-05-17 16:37:45 | しずおか地酒研究会

 先週、静岡新聞夕刊に記事が出たのでご存知の方も多いと思いますが、6月2日(土)、静岡市街の居酒屋8店が協賛する『満寿一deはしご酒』が開かれます。今回は8店すべてで、満寿一をはしご呑みするというスペシャル企画です。

 

 

 街中の居酒屋を回るはしご酒ツアーや街コン企画、最近各地で活発ですね。趣旨や目的はどうあれ、あまりアルコールを飲まなくなった若い人や家呑み派が増える中、苦戦する居酒屋さんに人が集まるきっかけになるって喜ばしいことです。

 

 

 そんな中で、「地酒を呑む」という一点に特化し、参加各店に蔵元を配置し、地道に回数を重ねてきた静岡deはしご酒。年々参加者が増え、清水、藤枝、沼津と開催地も広がってきました。私が改まって言うまでもなく、これはひとえに、主催者の山口登志郎さん(「湧登」オーナー)の、造り手と呑み手をつなごうという真摯な思いの賜物ですね。

 

 

 

 今回は、公式サイト(こちら)にも書かれているように、今年、蔵元の急死によって酒造りの歴史を閉じることになった『満寿一』を、ゆかりのある人々や地元ファンの総力で、“記憶に残そう”と企画されました。同志でありライバルでもある國香&喜久醉の蔵元も、満寿一を語るためにわざわざ時間を作って参加します。他の業界では出来ないことだろうし、ただでさえ人気があって各試飲イベントにひっぱりだこの2人が、自社以外の酒を消費者に紹介するって、この2人にしっかりとした考えや思いがなければ実現し得ないことです。

 

 造り手同士の深い絆、造り手を大切にしようとする売り手や呑み手の思い・・・長年、「造り手・売り手・飲み手の和(輪)」を標榜して活動してきた身としては、一部であれ静岡酒の環境が着実に好転していることをしみじみ実感できます。

 

 

 満寿一さんとお付き合いの長いしずおか地酒研究会が、なぜ満寿一さんを偲ぶイベントをやらないんですか?と訊かれたこともありますが、山口さんはじめ多くの伝道師が活躍する今、ある意味、会の使命は達成されたのかもしれないし、役割が一つ終わった・・・と思っています。真の銘醸地ならば、“造り手・売り手・飲み手の和を創らなければならない会”が存在しているって変だし、そんな会がなくても、自然に、地元の店には必ず地酒があって、地元の人に愛される・・・そんな地域が理想なんですよね。

 

 

 6月2日の『満寿一deはしご酒』、午後5時半から、静岡市街中心部の以下の8店で、それぞれの店の酒肴と満寿一を味わってください。費用は1店舗1000円。

 

◆参加飲食店/大作(静岡アスティー東館)

           かくれ家(昭和町)

           たがた(常磐町)

           狸の穴(七間町)

           のっち(七間町)

           華音(両替町)

           湧登(南町)

           MANDO(呉服町) 

 

 

 この8軒のどこかに、満寿一蔵元夫人の増井智恵子さん、松尾傳一郎さん(國香)、青島傳三郎さん(喜久醉)がそれぞれ待機していますので、満寿一という酒の思い出、若くして逝かれた蔵元増井浩二(傳次郎)さんのことを思う存分語り合ってください。私も某店でお手伝いする予定です。


松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2012鑑評会を振り返る(その2)

2012-04-12 13:46:20 | しずおか地酒研究会

 おまたせしました。4月6日しずおか地酒サロンの松崎晴雄さん講座の続きです。

 

 

 

 

Dsc00120
 全国新酒鑑評会100年の副産物のもう一つは、新しい産地を発掘したということです。

 

 明治末にスタートした鑑評会ですが、当時の代表的な銘醸地といえば灘と伏見ですね。東京市場でも認知されており、一般の人には「上方の酒は上物」と浸透していましたし、そういう一般感覚からすれば、鑑評会でも当然、灘や伏見の酒が上位に来るだろうと思われていました。

 

 

 ところがフタをあけてみたら、広島が圧倒し、明治終わりから大正時代にかけ、上位3位を独占するぐらいの勢いをみせ、東京でも取引が始まりました。鑑評会で優秀な成績をとると東京市場で酒が売れるということが認知され、今でも続いています。

 

 

 この100年を見ると、まず広島。そして9号酵母の発祥の地・熊本ですね。熊本は江戸時代まで、清酒造りが温暖な気候に向かないからという理由で禁止されていたのです。今でも熊本ときくと清酒よりも焼酎のイメージのほうが大きいでしょうか。肥後藩では貴重な米を清酒にしても、腐らせてしまうのではまずいということで、清酒造りの代わりに赤酒という、灰を混ぜてアルカリ化したものを造らせたのです。

 

 明治になって清酒造りが許されるようになると、江戸時代のハンディを取り戻そうと、熊本の酒蔵が共同出資して熊本県酒造研究所を設立し、9号酵母の開発に結び付いた。酒どころとしては後発組だったからこそ、先行する産地に追い付け追い越せで努力をし、南の吟醸産地として浮上したというわけです。

 秋田県も今でこそ東北を代表する銘醸地ですが、昔はそうでもなく、全国新酒鑑評会によって産地として認められてきました。

 

 

 静岡県も四半世紀前に鑑評会を舞台に“吟醸王国”としての地位を得ました。鑑評会にかける蔵元や研究者の意気込みが、産地形成につながったといえるでしょう。鑑評会とは、単にモノを造って評価するだけの場ではない、何か造り手を突き動かすものがあって、その晴れ舞台になる場といいますか、そこにかける人々の情熱のようなものが違った次元で昇華する舞台なのでは、と思っています。

 

 

 地方銘酒は鑑評会によって百花繚乱に華開き、静岡県が果たした役割も大きかったといえるでしょう。酒造りの後発県でも、頑張れば一流の銘醸地になるという励みになったと思います。

 

 

 

 さて今日は酒米のお話もしようと思います。ここ30年ぐらいの代表的な品種として山田錦や五百万石、さらに近年開発された品種―静岡県の誉富士も含まれますが、一覧表にまとめてみました。

 

 一般米で酒造りにも利用されている品種もまとめてみました。酒造りに使われている米の7割は、実は一般米で、酒造好適米は3割程度なんです。

 

 

 戦前に造られていた古い品種を復活させた米も増えていますね。漫画「夏子の酒」のブームも手伝ったと思います。その土地の酒造りのルーツを探るという、酵母とは違ったかたちの、地酒本来の姿を探求した成果だといえます。

 

 

 地酒といいながら、兵庫県産山田錦と9号酵母を使った標準的な吟醸酒が多いのも事実です。原材料というところから、その土地の風土性を探る、ワインのような流れがあってもいいと思います。

 

 

 米の難点は、大きな味の違いがないということです。目隠してきき酒すると、ワインならメルローやカベルネソービニオンの違いぐらいはわかるんですが、日本酒の場合はなかなかそういきません。しかも日本酒に使われる米は200~300種類あるといわれます。

 

 

 

 米よりも違いが解りやすいのが酵母です。静岡の酒の味を特徴づけているのが静岡酵母だというわけです。仮に秋田、長野、静岡の酵母の違いできき酒したら、当てられる自信はまあ、あります。

 

 

 鑑評会では1品あたり20~30秒程度できき酒しますので、短時間で訴えかけるものがあれば、当然印象に残ります。よほど欠点がない限り上位にくるでしょう。香りが高い酵母がどんどん増えてきた背景にはこういう理由もありました。

 

 

 酵母は確かにわかりやすいのですが、行きすぎると香りがきつくなる。きき酒は短時間で吐いて判断しますが、飲酒の際、行きすぎた香りの酒では長時間呑み続けることはできません。

 

 

 

 最近の酵母でいえば、福島県のうつくしま煌めき酵母というのがあります。1種類ではなく3種類ぐらいの酵母の総称で、デビューして2年ぐらいの新しい酵母で、香りの小・中・大とそろっているんですね。県として産地イメージを高める意味で、総称統一したようです。

 

 

 

 バイオテクノロジーの発達で、天然の花や植物から酵母を採取し、酒造りに活用したものも増えていますね。東京農大でも花酵母を15種類ぐらい出していますね。カーネーション、しゃくなげ、なでしこの酵母が知られています。酵母開発は日本酒のトレンドを占う意味で一つの重要なファクターであることは間違いありません。

 

 

 吟醸酒はどうしても香りを追い求める酒ですから、香りの出る酵母はこれからも開発され続けて行くと思いますが、非常に酸の出る超辛口酒用の酵母や、色を出す酵母等、日本酒の多様性を広げて行く意味でますます盛んになると思います。

 ただし、吟醸酒の王道を行く、きれいで呑みやすい酒になるスタンダードな酵母があって、特殊な酵母も存在するわけです。静岡の時代があり、秋田や長野の時代があり、今またトレンドが変わっている。各県でも次世代型の造り方に移っています。

 

 米の世界でも、味の出やすい米、精米をおさえてもきれいな米など、いろいろな米も出てきます。酵母ほど簡単に開発はできませんが、山田錦は誕生してから80年もロングセラーを誇っており、この間、山田錦を超える米はなかなか出てきません。全国に1600社ほどある日本酒の酒蔵のうち、1000社は山田錦を使ったことがあるでしょう、それだけ広範囲で使われている米は、他にはありません。

 

 あと20年すれば山田錦は誕生一世紀になるわけで、農家にも酒造会社にとっても膨大なデータが蓄積され、扱いやすくなっているといえます。はたして21世紀中に山田錦を超える米が登場するのか、今世紀中の最大のテーマといえるかもしれません。山田錦と同じような米では意味がないので、まったく異なった切り口で、山田錦を超える米が登場するのか、期待したいところです。

 

 

 

 

 

 このように、日本酒は古いようで新しい酒です。つねに新しい技術が投入され、日々進化し続けていて、ときには元に戻ったりする。そんなところに日本酒の面白みがあるような気がします。

 

 

 新しいといえば、ワインのコンペティションに日本酒部門ができたり、アメリカでは2001年から全米日本酒コンテストというのも行っています。日本から5人、アメリカから5人、計10人で日本の鑑評会とまったく同じやり方で審査します。

 また毎年、2蔵ぐらいずつ海外でミニブルワリーが誕生し、日本語の話せないブルワリーマスターが日本酒を一生懸命造っています。彼らも出来たら鑑評会に出品したいと言っています。技術者としては同じマインドなんですね。いずれ、日本酒のワールドカップみたいな世界規模のコンペティションが開かれて、「今年は南米代表の蔵が優勝した」なんてニュースが世界中を駆け回ることを想像すると楽しいですね。

 

 

 山田錦を超える米の誕生、日本酒のワールドカップ。この2つが今世紀中に実現できるかどうか、どうかみなさんも興味を持って見守ってください。(文責/鈴木真弓)

 

 

 

 

 最後の「今世紀中に実現できるか、山田錦を超える米の誕生&日本酒のワールドカップ」という夢のあるお話、ガツンと来ましたねえ!!また受講生に配っていただいた、各県別・時代別の酒米&酵母の一覧表、松崎さんが長年のリサーチのもとで独自に創り上げた大変貴重な資料です。本当にありがたいです。こういうの、本来は酒米農家や酒販店主やきき酒師等、酒を業務にする人たちのほうがよっぽど参考になるんじゃないかあ。消費者のほうがどんどん知恵を付けてしまうようで怖い(笑)。

 Dsc00127

 

 2次会の日本酒BAR佐千帆は、定員10人の店に30人押し込んで、みなさん立ち呑み状態でガマンしてくれました。カウンターの中に回って給仕役を務めてくれた『正雪』の望月正隆さん、『喜久醉』の青島孝さん、『白隠正宗』の高嶋一孝さん、ありがとうございました。3人がカウンターで接客する姿、お宝モノだったと評判でしたよ。

 無理を受け入れてくださった長沢佐千帆さん、本当にありがとうございました

 


松崎晴雄さんの日本酒トレンド講座~2012年鑑評会を振り返る(その1)

2012-04-07 20:50:20 | しずおか地酒研究会

 

 しずおか地酒研究会の春の恒例サロン、松崎晴雄さんの鑑評会講話を4月6日(金)夜、静岡市産学交流センターB-nestで行いました。いつもの飲食がてらの楽しいサロンとは違い、試飲ナシのまじめな座学講座ということで、参加者は少ないんじゃないかなぁと心配したんですが、30名を超える方々にお越しいただきました。

 

Dsc00124
 まだ仕込み作業が片付いていない、本当に疲れのピーク時にもかかわらず、『白隠正宗』『正雪』『杉錦』『喜久醉』の蔵元さんも、参加者全員の手土産用の酒持参で駆けつけてくれました。

 ご家族や職場の友人を誘って来てくれた方も会員もいて、翌朝さっそく「松崎さんの話は何度聞いてもいいなあ、勉強になるなあ」と感想メールをくれた人もいました。やっぱりたまにはまじめな講座もいいなあと自己満足しちゃいました 松崎さん、ご参加のみなさま、本当にありがとうございました。

 

 さっそくですが、松崎さんの講演内容を2回に分けて紹介します。

 

 

 

 

 こんばんは。この時期、毎年、静岡へお招きいただき、熱心に聴いてくださってありがとうございます。

 まず静岡のお酒との出会いからお話しましょう。今から32年か33年ぐらい前、学生時代の合宿で御殿場の『富士自慢』という酒に出会い、すいすい呑んで翌日ひどく二日酔いになったという思い出があります。今思うと静岡酵母の酒ではないかと思いますが、当時、日本酒に興味を持っていろんな酒を飲んでいた中で、非常にきれいで飲みやすく、静岡にもいい酒があるんだと強く印象づけられました。

 

 静岡とのご縁といえば、私の義兄がこの春から静岡伊勢丹に勤務することになり、新たなご縁ができました。静岡のみなさんとは、以前にも増していろいろお会いできる機会が増えることを楽しみしています。

 

 

 Dsc00125_2

 では本題の、今年の静岡県清酒鑑評会のお話から入りましょう。

 お酒の品質コンテスト―鑑評会は、3月中旬から5月にかけ、新酒が出来上がる時期に出来栄えを競うもので、いろいろな鑑評会があります。県単位では3月中旬、東海4県管轄の名古屋国税局鑑評会が4月(現在は秋開催)、最も大きな全国新酒鑑評会が5月下旬に行われます。全国新酒鑑評会では、文字通り全国から1000点近い酒が出品されます。

 

 静岡県清酒鑑評会は、吟醸酒の部・純米酒の部と2つあり、点数を付けて順位を決め、最上位の蔵に県知事賞が授与されます。順位を発表している県はあまり多くなく、それだけに名誉なこととされています。

 

 今年の審査は大接戦でした。通常、全国でも一審(一次審査)→二審(二次審査)ぐらいで決まるのですが、今年の静岡は四審まで行きまして、最後も決戦投票でした。純米酒の部も三審まで行きました。合わせて100点ぐらいの出品酒を、計8審まで行ったわけで、審査員にとってはヘビーな体験でしたが、非常にレベルの高い審査だったと思います(結果はこちらを)。

 

 審査はどうやるのかというと、米や醤油や発酵食品等いろんな食品の審査がある中、酒は、人間のきき酒(=官能審査)だけで決めます。静岡県では11人の審査員が官能審査を行い、各出品酒に1点から3点までどれかを付けます。1が優秀、2が普通、3が欠点あり、というシンプルな付け方で、合計で○点以下のものを二審まで持って行くというわけです

 

 一審の出品酒40数点のうち、通常は半分ほど落ちるところ、今年は10数点しか落ちず、二審、三審も半分以上が残ったため、大接戦になりました。

 今期は寒くて酒造りに適した気候だったということ、昨年秋の米の出来が良かったことなど理想的な醸造環境にあったことも理由に挙げられると思います。静岡だけではなく他県でも同じことですが、とくに静岡の審査は粒ぞろいで甲乙つけがたかったですね。

 

 

 全国新酒鑑評会は今年で100回目という節目を迎えます。戦争中と、主催する酒類総合研究所が東京から東広島へ移転したときを除き、100回続いているんですね。ワインやビールにもコンペティションがありますが、全国規模でやっているコンテストで100回も続いているもの、しかも内容的にも非常にレベルの高い技術コンテストというのは世界でも稀有な存在です。

 

 なぜこのような鑑評会が行われたかといえば、日本酒はかつて税収の柱であり、明治末期頃は税収の3割を占めていました。ただ今と違い、酒造技術や醸造技術は稚拙で、品質劣化がしばしば起き、メーカーにとってはもちろん、税金をあてこんでいる国としても困るということで、国で醸造試験所という施設を造り、レベルアップを図ったのです。ここで始まったのが全国新酒鑑評会で、技術レベルを引き上げ、品質を安定させるということが第一義でした。

 

 

 全国の鑑評会には2つの大きな副産物があると思っています。ひとつは、鑑評会からさまざまな酵母が生まれ、実用化されたということ。

 酒造りの酵母菌は、有名なところで7号酵母、9号酵母等がありますが、ちゃんと1号から、今は18号酵母まであります。酵母を専用に培養している日本醸造協会という業界団体が、実用化した順に番号を付けています。

 

 現在、使われている協会酵母で最も古いのは6号酵母で、大正時代に秋田の「新政」という蔵から出たものです。有名な7号酵母は昭和21年、長野の「真澄」から出たもの。9号酵母は熊本の「香露」から出た香りの高い酵母で、吟醸酒向けにもてはやされました。私たちが現在、イメージする香りの華やかな吟醸酒のイメージは、9号酵母が確立したといってよいでしょう。

 

 

 こういう酵母が発見されたきっかけは、鑑評会で成績の良かった蔵に醸造試験所の技術者たちが調査に行って、酵母に着目したという経緯があります。いい酵母はいい酒になるばかりでなく、安全で失敗の少ない酒造りにつながります。税収確保という面からも、いい酵母を選抜して安全な環境で培養するようになったわけですね。

 

 

 静岡でも昭和61年に全国新酒鑑評会で金賞10点を獲得し、大いに注目を集めました。その年、金賞は全部で120点ぐらいでしたので、静岡県はかなりの割合を占めた訳です。酒どころとしては無名だった静岡県の快挙に、他県の蔵や研究機関は大いに驚き、静岡酵母に着目し、やがて各県の酵母開発に勢いが付き、秋田や長野で独自酵母が誕生しました。長野県ではアルプス酵母という静岡酵母とはタイプの全く違う酵母が造られ、その後、鑑評会で大量入賞しました。香りも味も非常に厚みのある酒に仕上がるんですね。

 

 静岡酵母の香りは、よく、リンゴの爽やかな香りに例えられますが、秋田県が開発した「秋田流花酵母」の酒はパイナップル様といいますか、口中でパッとはじけるようなトロピカルフルーツのような香りで、味も濃密でトロンとした派手なものです。こういう酒が鑑評会でも大量入賞するようになりました。

 派手な香りや味の酒が一世風靡した時期もありましたが、今、ふたたび、静岡タイプのおだやかな酒が復活しつつあるようです。静岡は全体に酒質がおだやかでやわらかい。香りはフレッシュで新酒の時期は硬さもあるんですが、今年はとくに荒さが目立たず、味ものっていた、と思いました。

 

 

 香りの特徴というところでせめぎ合ってきた吟醸酒ですが、このところ味との調和が重視され、造り手の意識も変わりつつあるといえます。呑んで美味しいというのが本来の酒であり、あくまでも“呑める吟醸酒”を目指してきた静岡県の取り組みが、見直されていると実感します。(つづく)