うたことば歳時記

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旧正月の爆竹

2024-02-10 14:01:15 | 年中行事・節気・暦
 日本では旧正月(旧暦の正月元日)を祝う風習はほとんど見かけません。今年(令和6年)の旧暦元日は2月10日なのですが、特に何も話題にはなりません。しかし中国では大民族移動があるとか、爆竹の花火をならして祝うということが、必ずニュースになります。私が子供の頃、今から六十数年前には、駄菓子屋に行くと爆竹と称して、大きな音のする花火が売られていました。しかしよくよく考えてみれば、竹ではなく花火です。枯れきっていない篠や竹を焚き火に焼べると爆発音がすることは、体験的にその頃から知っていましたから、爆竹花火の起原は青竹を燃やして炸裂させたことであるのは、子供にも理解できていました。ただ日本では、元日に爆竹をならすという風習は、現代ではありません。
 6世紀の華中地方の年中行事を解説した『荊楚歳時記』という書物には、元日の爆竹について次の様に記されています。「正月一日、・・・・・・先ず庭前に爆竹し、以て山臊(さんそう、妖怪の一種)の悪鬼を辟(さ)く。・・・・人、竹を以て火中に著(お)くに、□(火偏+朴)□(火偏+畢)として声あり。而して山臊は驚憚(きょうたん)して遠く去る」。またさらに漢代の『神異経』という書物には、西方の山奥に人間の姿をした一尺余で一本足の妖怪が棲んでいて、人がこれを害すると、その人は高熱を発して苦しむとも記されています。要するに爆竹は、竹を火中に焼べ、そのはじける音で悪鬼を追い払う呪いというわけです。そして宋代に火薬が発明されると、本来の爆竹から花火に替わり、現代に至っているわけです。
 日本では正月の爆竹の風習は、私は未確認ですが、鎌倉時代の『弁内侍日記』に確認できるそうです。手許ですぐに見られる文献では、儒学者の貝原益軒が1688年に著した『日本歳時記』には、『荊楚歳時記』を引用しつつ、「我国に今日爆竹すること定説なし」と記されています。日本の正月の爆竹の風習については、日本にその起原はないというのです。そしてさらに正月十五日に正月の飾り物を持ち寄って燃やす左義長(どんど焼き)の際に、竹の爆裂音がするのを爆竹と称しているが、中国の風習をまねたものであろうと述べています。『荊楚歳時記』は奈良時代には日本に伝えられていて、日本の伝統行事の手本になったくらいですから、それにならって行われたのでしょう。
 ニュースの映像を見ると、大気汚染の原因になるのではと心配になるくらいの激しさですから、広場の後片付けなどしないのではないかと思われます。日本人なら近所迷惑にならないようにと、自ずからブレーキがかかるでしょうし、法律的に規制されるでしょうが、善くも悪くも中国では、市民はあまり気にも留めていなさそうに見えました。


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