うたことば歳時記

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拙著『京都名所図絵』の御紹介

2019-08-09 21:19:27 | その他
江戸時代の安永九年に、『都名所図会』という絵入りの京都名所の案内記が出版されました。その挿図はモノクロ写真のように精密で、京都に行かなくても楽しめるほどのものです。これが好評だったため、続編の『拾遺都名所図会』が出版され、さらには京都の庭園ばかりを特集した『都林泉名勝図会』が出版されました。この三部作があれば、当時の京都の名所・旧跡はほぼ網羅され、居ながらにして京都に旅をしたような気分になれます。 

 ふとしたことからこれらの和本の実物を手にした私は、その挿図をコピーして現地で見比べ、まるでタイムマシンに乗ったかのように、往事の京都の様子を思い浮かべながら、それまでとは次元の異なる京都の旅を楽しんだことがありました。しかしそれらの和本は極めて高価であり、誰もが入手できるものではありません。そこでそれらの挿図の中から、現代でも往事の景観が残っていて、見比べて楽しめるところだけでも選び出し、一冊の本にまとめてみたいと思ったのです。

 そうして古本屋を巡りめぐって、摺のよい状態のそれらの三部作を買い求め、早速出版計画を立てました。本の値段は、50万円くらいだったと思います。安いものもあるのですが、摺のよい物となると、それなりの値段になってしまいます。しかし一番大切なのは現地調査です。仕事の合間に埼玉県から出かけるのですから、たびたびいけるわけではありません。夜行バスで行って、夜は駅の地下通路にホームレスのようにして寝たり、オールナイトの喫茶店や映画館で寝たりの貧乏旅行でした。また修学旅行で京都に行くときも、有効に利用しました。結局収録した70箇所を調べて歩くのに、約10年もかかってしまいました。その間、京都の史跡研究では右に出る人はいない竹村俊則氏宅に何回もうかがって、直接に御指導を受けられたことは、何にもまして励ましになりました。竹村先生の苦心談などは、他に記録として残っていないので、巻末のあとがきに載せておきました。

 完成したのは2001年のことです。『京都名所図絵』という書名で自費出版したのですが、取次店とのつながりがあるわけでなし、在庫の山を抱えて、途方に暮れたものです。そしてとうとう残り2冊になってしまいました。そうは言っても、実際には知り合いにほとんど無料で差し上げてしまったものが多く、お金のことを考えると、調査の費用、和本代まで入れると、百万円の倍数の赤字となってしまいました。もちろん最初から覚悟の上のことですから、悔いはありません。

 収録されている名所旧跡は約70箇所。それらの精密な挿図と、その解説が交互に並んでいます。私の解説はともかく、これだけの図を300ページの中に網羅した類書は他にありません。現地でその図と実際を見比べ、ほとんど変わりがなければ、現在見るものの中に悠久の歴史を感じ取り、また挿図と現在の様子が大きく変わっていれば、それはそれで時の流れを感じ取ることができます。どちらにせよ、歴史を実感しながら京都名所の見学ができるのです。

 私の手許にはもうありませんが、アマゾンで入手できるようです。ただし現在では古本でも定価の2~4倍の高値が付き、著者でも躊躇する程になってしまっています。まあそれだけ京都の歴史散歩のお役に立てているのなら、著者としては満足しなければならないのでしょう。


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