64、和製漢語
「漢字」という言葉が示すように、漢字は中国伝来の文字です。もちろん和製漢字もあるにはありますが、漢字全体の中では、その割合は多くはありません。ところが、漢字熟語、つまり漢語となると、話は全く異なります。漢字を用いていても、日本で新たに作られた和製漢語は極めて多く、これらがなかったならば、現代日本人は思考そのものが不可能なのです。和製漢語は長い歴史の中で少しずつ増えていますが、明治維新期に欧米の科学技術や思想を摂取するため、西周・福沢諭吉等の啓蒙思想家や学者により、実に膨大な数の和製漢語が創造されました。そしてそれらは現代の生活には欠かせないものとなっているため、どれが新しい和製漢語なのか、そうではなくて中国由来の本来の漢語なのか、全く区別が付かなくなっています。
中国でも遅ればせながら近代化のために新漢語が作られましたが、その分野では日本が先行していたため、新たに作るよりも和製漢語を借用する方が手っ取り早く、多くの和製漢語を受け容れました。中国で作られた新漢語が淘汰され、和製漢語に置き換えられたことについては、日本語が中国語より造語に適していたことが理由の一つです。
基本的に漢字というものは、1字ごとに意味があるので、新しい漢字を作ることには向いていません。ですから欧米の文物を中国語で表そうとすると、音訳せざるを得なくなります。例えば英語の「telephone」を中国人は「徳律風」と訳していました。日本人は「電話」と訳したので、初めのうちは中国では両方使われていました。しかしどちらが使いやすいかは一目瞭然です。結局、「徳律風」は淘汰され、「電話」が生き残ったのです。
それに対して日本語は、漢字の組み合わせによって、新たな漢語に新たな意味を持たせることに適しています。「科学」「哲学」「郵便」「野球」などはその例です。また近年では「~性」「 ~制」「~的」「~法」「~力」「超~」など、接尾語や接頭語のように用いて、新しい概念を融通無碍に創作できています。また言葉そのものは古くからの漢語であるのに、新しい意味を付与して転用したり再生した漢語も、広い意味では和製漢語と言うことができ、「自由」「観念」「福祉」「革命」などの例があります。
日清戦争後、数え切れない程の中国人が日本に留学してきました。そして彼等により実に多くの和製漢語が中国に伝えられました。日清戦争後は、中国は列強によってその主権が蚕食されていましたから、時間的にも経費の面でも、日本に留学生を派遣して摂取する方が早道でしたし、同じ漢字の国でしたから、文化的にも障壁は低かったことでしょう。つまり、清は日本語を媒介して西洋の科学技術や思想を取り入れた部分が大きかったのです。その結果、社会科学と自然科学のあらゆる分野の訳語では、和製漢語が 70%を占めるということが研究の結果明らかになっているのです。ですから中国人は和製漢語がなかったら、思索そのものが不可能なのですが、そのことを知っている中国人はどれ程いるでしょうか。恐らく知らないでしょうし、もし知ったら愕然とすることでしょう。
因みに「中華人民共和国」という国名は、中華・人民・共和国の3語から成っていますが、人民と共和国は、和製漢語です。在日中国人の友人が、もちろん冗談半分で「日本は中国から文字を学んだのだから、もっと感謝しなさい」と言うので、「あなたの国の国名は、三分の二が日本語だよ。もっと感謝しなさい」とやり返し、友人同士で仲良く喧嘩をしたことです。
和製漢語が全て中国語に採り入れられているわけではありませんが、日常的に日本で使われている和製漢語をあげてみましょう。あまりに数が多いので、重複を避けるためにあいうえお順に並べたことは御容赦下さい。
意志、意識、意味、入口、右翼、運動、鉛筆、階級、会話、改善、科学、化学、革命、関係、慣行、感性、簡単<幹部、企業、喜劇、客観、共産、恐竜、共和、銀行、空間、組合、経験、警察、経済、景気、系統、化粧品、健康、原子、広告、国際、固体、固定資産、根本的、財政、財閥、財務、材料、左翼、時間、思想、市場、自転車、質量、失恋支配、資本、資本主義、社会、社会主義、宗教、住所、出席、柔道、主観、出版、自由、処刑、上告、初歩処方、承認、抽象、進化、人格、人選、人文主義、信用、政治、政党、政策、接吻、煎茶、倉庫、出口、哲学、電気、電話、投資、図書館、肉彈、日程、入超、入場券、任命、熱帶、背景、舶来、派出所、悲劇、美術、必要、表情、表現、病院、病理学、日和見主義、不動産、不景気、物理学、文化、文学、分子、分配、文明、弁護士、便所、弁当、法律、簿記学、保健、保険、保障、保証、保釈、抹茶、漫画、味噌、民主、民族、目的、野球、野蛮、唯物論、溶体、溶媒、理性、理想、理論、旅行、歴史、労働力
未だ探せばあるのですが、余りに多く、この辺で止めておきます。これらの和製漢語を学習すれば、主に明治初期の西欧思想や学術の受容が、どれ程日本の近代化に寄与したか理解できるでしょう。また明治期に限らず、古来、日本が外来文化受容と消化に独特の特性を持っていることを再確認できることでしょう。
ただし現在では余り使われなくなったり、日本とは異なる意味で使われている言葉もあります。
「漢字」という言葉が示すように、漢字は中国伝来の文字です。もちろん和製漢字もあるにはありますが、漢字全体の中では、その割合は多くはありません。ところが、漢字熟語、つまり漢語となると、話は全く異なります。漢字を用いていても、日本で新たに作られた和製漢語は極めて多く、これらがなかったならば、現代日本人は思考そのものが不可能なのです。和製漢語は長い歴史の中で少しずつ増えていますが、明治維新期に欧米の科学技術や思想を摂取するため、西周・福沢諭吉等の啓蒙思想家や学者により、実に膨大な数の和製漢語が創造されました。そしてそれらは現代の生活には欠かせないものとなっているため、どれが新しい和製漢語なのか、そうではなくて中国由来の本来の漢語なのか、全く区別が付かなくなっています。
中国でも遅ればせながら近代化のために新漢語が作られましたが、その分野では日本が先行していたため、新たに作るよりも和製漢語を借用する方が手っ取り早く、多くの和製漢語を受け容れました。中国で作られた新漢語が淘汰され、和製漢語に置き換えられたことについては、日本語が中国語より造語に適していたことが理由の一つです。
基本的に漢字というものは、1字ごとに意味があるので、新しい漢字を作ることには向いていません。ですから欧米の文物を中国語で表そうとすると、音訳せざるを得なくなります。例えば英語の「telephone」を中国人は「徳律風」と訳していました。日本人は「電話」と訳したので、初めのうちは中国では両方使われていました。しかしどちらが使いやすいかは一目瞭然です。結局、「徳律風」は淘汰され、「電話」が生き残ったのです。
それに対して日本語は、漢字の組み合わせによって、新たな漢語に新たな意味を持たせることに適しています。「科学」「哲学」「郵便」「野球」などはその例です。また近年では「~性」「 ~制」「~的」「~法」「~力」「超~」など、接尾語や接頭語のように用いて、新しい概念を融通無碍に創作できています。また言葉そのものは古くからの漢語であるのに、新しい意味を付与して転用したり再生した漢語も、広い意味では和製漢語と言うことができ、「自由」「観念」「福祉」「革命」などの例があります。
日清戦争後、数え切れない程の中国人が日本に留学してきました。そして彼等により実に多くの和製漢語が中国に伝えられました。日清戦争後は、中国は列強によってその主権が蚕食されていましたから、時間的にも経費の面でも、日本に留学生を派遣して摂取する方が早道でしたし、同じ漢字の国でしたから、文化的にも障壁は低かったことでしょう。つまり、清は日本語を媒介して西洋の科学技術や思想を取り入れた部分が大きかったのです。その結果、社会科学と自然科学のあらゆる分野の訳語では、和製漢語が 70%を占めるということが研究の結果明らかになっているのです。ですから中国人は和製漢語がなかったら、思索そのものが不可能なのですが、そのことを知っている中国人はどれ程いるでしょうか。恐らく知らないでしょうし、もし知ったら愕然とすることでしょう。
因みに「中華人民共和国」という国名は、中華・人民・共和国の3語から成っていますが、人民と共和国は、和製漢語です。在日中国人の友人が、もちろん冗談半分で「日本は中国から文字を学んだのだから、もっと感謝しなさい」と言うので、「あなたの国の国名は、三分の二が日本語だよ。もっと感謝しなさい」とやり返し、友人同士で仲良く喧嘩をしたことです。
和製漢語が全て中国語に採り入れられているわけではありませんが、日常的に日本で使われている和製漢語をあげてみましょう。あまりに数が多いので、重複を避けるためにあいうえお順に並べたことは御容赦下さい。
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未だ探せばあるのですが、余りに多く、この辺で止めておきます。これらの和製漢語を学習すれば、主に明治初期の西欧思想や学術の受容が、どれ程日本の近代化に寄与したか理解できるでしょう。また明治期に限らず、古来、日本が外来文化受容と消化に独特の特性を持っていることを再確認できることでしょう。
ただし現在では余り使われなくなったり、日本とは異なる意味で使われている言葉もあります。