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診療 ワクチン接種の会場管理:ワクチン接種の診療

2021年09月13日 07時01分15秒 | COVID-19の集中治療

診療 コロナワクチン接種の会場管理

新型コロナウイルスワクチン接種における注意事項の整理

 

名古屋大学大学院医学系研究科 

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

 

【はじめに】新型コロナワクチン接種として,ファイザー(株),モデルナ(株),アストラゼネカ(株)のワクチン接種が,日本でも進んできています。このワクチン接種において,接種可能かどうかを医師が診察します。一般に,けいれん(てんかん),心臓(起立性低血圧),腎臓,肝臓,血液疾患,アレルギーなどの重要な病歴のある方などの基礎疾患のある場合には慎重に対応することになります。また,1週間前に骨折した,肺炎でまだ抗菌薬を飲んでいる,意識が悪い,お腹を壊しているなど炎症状態や炎症の回復状態においても,注意が必要です。しっかりした状態の評価のもとでワクチン接種を遂行することが大切であり,適切にワクチン接種の承認を行うことが期待されます。筋注による薬剤の血中濃度のピークは一般に7分から10分です。筋注後の血中濃度上昇による直接の影響は約15分前に評価します。このため,ワクチン接種後は15分間,あるいは30分間は経過観察とさせていただくのが良いでしょう。その一方で,ワクチン接種会場では,いろいろな出来事に遭遇することになります。対応する皆さんが留意するとよい事項について記載しています。

1.言葉が通じない

 日本語も英語も通じない場合があります。スマートフォンや携帯コンピュータの言語翻訳ソフトを使う準備があるとよいです。ブラジル語,ラテン語,ロシア語,もちろん,予め摂取される方の情報がわかるため通訳の方を置くことも重要ですが,限られた状況においては,スマートフォンのコンピュータの翻訳機能,翻訳会話が役立ちます。

2.COVID-19接触歴あり

 ワクチン接種会場に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(疑)あるいはCOVID-19未発症のSARS-CoV-2ウイルス保持者がやってこられます。COVID-19と診断された方と接触したという方もやってこられます。このようなことのないようにワクチン接種希望の皆さんには,予め自己管理,自己申告を徹底していただくようにワクチンホームページで注意喚起する必要があります。

 ワクチン接種数日後にCOVID-19に罹患した患者さんも報告されてきています。ワクチン接種会場が新型コロナウイルス罹患のクラスターとならないように,厳格にワクチン接種会場をクラスター化から守る必要があります。

 COVID-19接触歴,また接触歴がなくても,発熱,咳,嗅覚症状,消化器症状などの症状に注意してCOVID-19をワクチン接種会場に紛れ込ませないようにします。COVID-19に罹患した方との接触歴がある場合にはワクチン接種を延期していただき,症状観察を1週間程度行い,ご自身でご自身を隔離することを説明します。

3.COVID-19で入院していた

 既に一度,COVID-19に罹患して入院治療を受けた方が,ワクチン接種を希望される場合があります。CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター;https://www.cdc.gov)は,「新型コロナウイルス再感染のリスクは,感染後数か月は低くいため,罹患後数ヶ月後までワクチン接種を遅らせることも考える」などとしています。COVID-19罹患後10日程度であれば,ワクチン接種を2ヶ月後まで遅らせることもご本人と相談するのが良いかもしれません。その一方で,ご本人の希望が強い場合で,全身状態として問題のない場合にはワクチン摂取を許可します。

 厚生労働省は,既にコロナウイルスに感染した方も新型コロナワクチンを接種する方針としています。(参照:厚生労働省新型コロナワクチンQ & A;https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0028.html)

4.ピルを飲んでいる

 避妊策としてピルを服用している場合,血栓症のリスクに注意が必要となります。この低用量ピルの内服では,ピル服用後3~4か月以内に血栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症・脳梗塞など)のリスクが高いことが知られています。一方で,内服期間が長い場合には,血栓リスクも下がる傾向があります。このため,ピル服用期間の評価が必要となります。

 結論として,一般には,海外ではワクチン接種のためにピル服用を中止としていません。一度ワクチン接種のためにやめてピル内服を再開するということは,むしろ血栓症発症のリスクを高める可能性があるとしています。ピル内服と全身性血栓症の関連には今後も留意が必要となります。

5.妊娠8週の妊婦さんのワクチン接種希望

 子供さんの器官形成期(胎児の臓器が作られる時期)は妊娠12週頃までですので,異常があった場合に偶発的な胎児異常の発生であるのか,またはSARS-CoV-2 mRNAワクチンの影響なのかの評価ができませんので,妊娠12週を過ぎるまでワクチン接種を延期していただくのが良いかもしれません。ご本人と相談してワクチン接種を決定します。(参照:日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルスワクチン Q & A」https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/390112.pdf)

6.授乳中のお母さん

 授乳中のお母さんに対しては,抗体が母乳に移行することも知られているため,ワクチンを摂取していただいています。(参照:日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルスワクチン Q & A」:https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/390112.pdf)

7.混合ワクチンを昨日打ったけどコロナワクチンも打ちたい

返答:厚生労働省は他のワクチンを摂取した場合は2週間の間隔を開けることを勧めています。厚生労働省は,「原則として,新型コロナウイルスワクチンとそれ以外のワクチンは,同時に接種できない」としています。どれぐらい時間をあけるべきかのエビデンスがないために,2週間レベルを一つの区切りとしています。しかし,現在,米国疾病予防管理センターCenters for Disease Control and Prevention(CDC)は,新型コロナウイルスワクチンの接種を遅らせるべきではないとしています。流れとしては,他のワクチンを接種していても新型コロナウイルスワクチンを接種して良いという方向性になると予測しますが,接種希望の個々の皆さんの状態を評価して2週間以内では延期,1週間以内では延期などとすると良いと評価されます。その上で,現在は厚生労働書の指針に従い,2週間以内は延期とする説明が最も適切と考えています。インフルエンザワクチンと新型コロナウイルスワクチンの接種間隔においても,理想としては2週間あけることが期待されます。ここには,2021年9月において診療研究エビデンスがありません。以上を含めて,まずは新型コロナウイルスワクチンはさまざまな危険がありますが,この接種を早く完了することをお勧めしています。

解説:CDCの記載(2021/09/17)は,以下の内容となります。Coadministration with other vaccines:COVID-19 vaccine and other vaccines may be administered on the same day, as well as any interval without respect to timing. When deciding whether to administer COVID-19 vaccine and other vaccines, providers should consider whether the patient is behind or at risk of becoming behind on recommended vaccines, their risk of vaccine-preventable diseases (e.g., during an outbreak), and the reactogenicity profile of the vaccines.

例:1週間まえに2種混合ワクチンを打ったという小児(11歳以上13歳未満)がやってくる場合があります。2種混合ワクチンは,ジフテリア(D)と破傷風(T)に対する ワクチンなので「DTワクチン」などとも呼ばれており,11歳以上13歳未満が対象です。また,4種混合ワクチンはジフテリア(D:diphtheria),百日せき(P:pertussis),破傷風(T:tetanus),ポリオ不活性化ワクチン(IPV:inactivated polio vaccine)の4種類ですので「DPT-IPVワクチン」などと呼ばれています。第1期として4種混合ワクチンは生後3ヵ月から接種でき,3~8週間隔で3回,3回目の約1年後に4回目を接種します。そして,第2期として11歳から2種混合ワクチン(DPワクチン)を1回接種することになります。そして,3種混合ワクチンというジフテリア(D),百日せき(P),破傷風(T)の3種類,つまりポリオのない「DPTワクチン」は11歳から12歳に接種する2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチンとして接種してもよいと厚生労働省が認可しています。このような小児の内容に加えて,成人や高齢者における肺炎球菌ワクチン,破傷風トキソイド(破傷風ワクチン),インフルエンザワクチンなどもあります。本邦では,厚生労働省の指針に従って,当面は他のワクチン接種後は新型コロナウイルスワクチン接種,2週間待つことをお勧めしています。

引用:Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United States 

8.寝たきりだけど連れてきた

 状態の悪い方に対して,自宅や介護施設への訪問としてワクチン接種を行っている先生もいらっしゃるともいます。このような方のワクチン接種後のトラブルは,低ナトリウム血症や痙攣,肺炎像の出現,接種後2日目の心肺停止などです。しっかりと全身状態の評価を行ってからの接種が重要です。電解質異常として,血清ナトリウム値117 meq/Lの低ナトリウム血症(意識障害)へのワクチン接種などの有害事例もありますので注意が必要です。

9.HIVですがワクチン大丈夫ですか?

 「大丈夫です」と答えています。(参照:HIV感染者における新型コロナウイルスワクチンに関するQ&A;http://www.acc.ncgm.go.jp/news/20210317131915.html)

10.血友病ですがワクチン大丈夫ですか?

 筋肉内出血に注意が必要ですので,凝固因子補充の予定と合わせて可能かどうかを相談していただきます。

11.ワクチンスケジュールについて

 ワクチンスケジュールについて,改めて質問を受けた際には,現在は2回の接種として説明しています。

□ ファイザー(株)のワクチン:1回目の接種から3週間後に2回目を接種します。

□ 武田/モデルナ(株)のワクチン:1回目の接種から4週間後に2回目を接種します。

□ アストラゼネカ(株)のワクチン:1回目の接種から4~12週間後に2回目を接種します。最大の効果を得るためには,8週以上の間隔をおいて接種することが望ましいとされています。

(参照:厚生労働省 新型コロナワクチン接種についてのお知らせ:新型コロナワクチン接種についてのお知らせ)

【おわりに】現在使用されているワクチンは,COVID-19への罹患率を減少すること,また重症化を阻止することが確認されてきています。この有効性の一方で,ワクチン接種をしてよい状態かどうかの評価を医師が行います。本稿は,適時,追記させて頂きます。

投稿:2021年9月13日(初稿),9月17日(内容 7 & 8 追記)


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