神戸まろうど通信

出版社・まろうど社主/詩と俳句を書く/FMわぃわぃのDJ/大阪編集教室講師など多様な顔を持つ大橋愛由等の覚え書き

ひとびとの思想

2010年05月26日 14時53分07秒 | 通信
つくづく思想は言葉なのだということを思い知らされた。思想は言葉によって形成され、思想のありようは言語表現に収斂していくのだと言い換えてもいい。

鹿野政直著『日本の近代思想』(岩波新書、2002)を読んだ。

「日本」「マイノリティー」「日常性」「人類」というキーワードからテーマを撰んだと著者が書いているように、本書は徹底して“ひとびと”が、社会や世界に接して、その中で生きているその場から発する息づかいから生まれた思い=思想にアプローチしていこうとする姿勢が貫かれている。
つまり思想というものは、大文字の、大上段からの、概念ではなく、ひとびとが社会や日常の中で、言葉を通じて生み出してゆく行為だということを明確にしているのである。

この文章は、書評文ではないので、読後感を二つに絞って書くことにしよう。

1.「思想は言葉である」という感想は、著者が各テーマごとに、メインキャッチになるような言葉を拾い出す作業をしていて、その拾い出しが読者の心に響いてくる。
例えばそれは、「人民国家の思想」の中で、中江兆民の帝国憲法の理解を引用しながら、現在にいたる思想的課題を摘出しているので、その箇所を紹介してみよう。
「ふたたび兆民の言葉を借りれば、(帝国憲法の・大橋註)「恩寵的の民権」のなかから「恢復的民権」を克(か)ち取ってゆくことが、その世紀前半をなす大日本帝国下で、民主主義にとっての目標でなければならなかった。ひょっとすると、世紀後半をなした日本国のもとでも、占領軍による「恩寵的民権」に、「恢復的民権」の内実を盛り込むことが目標であったという、類比が成立するかもしれない」(p28)。実にすっきりする“気付き”である。こうした発見は著者の思想の明解性を表しているのかもしれない。

2.本書の中でも、熱を帯びて執筆しているジャンルのひとつに沖縄がある。著者は沖縄の思想を担っているひとびとと、交誼を重ねていることが推察される。そのうちの一人、川満信一氏のことが紹介されている。本書で引用されているのは、私が海風社勤務時代に編集担当した著作(川満信一著『沖縄・自立と共生の思想』)である。彼の主著ともいえる評論集で、沖縄を考える上で、重要な位置をしめていることに、編集者として、嬉しく思っている。ただ、「反復帰論」について、国民国家を超えて提案された「共和社会」の内容がもう少し紹介されてもよかったのではないかと悔やまれる。

こうした思いも、本書がもともと新聞という制限された文字数の連載記事に加筆したものであるという性格を考える必要があるだろう。その制約を超えて本書が提示した数々の近代思想の気付きの列挙は見事であり、「ひとびとの思想」という観点から大文字ではない近代思想の軌跡がしめされ、それらはひとびとが生きてゆく肥やしとして位置づけてもいい内容となっているのである。 

京都にて

2010年05月12日 21時22分36秒 | 通信
月曜日、里博氏の「一人デモ」に立ち会い、解散したのが午前中だったので、休日に早起きした自分を誉めてあげようと思い、ひさしぶりに東山へ向かう。初めて乗る京都市営地下鉄東西線の「蹴上駅」を降りると、もうそこはまったきの新緑の世界。お気に入りの永観堂に向かおうかと、南禅寺かいわいを歩いていると、東照宮(金地院)の前で足がとまったのです。翠の濃淡に満ちた小径が道路から見ることができて、その深みゆえにふらりと境内に入ってみることにしました(入場料がいる)。


ここで収穫だったのが、小堀遠州の庭が見れたこと。憎らしいほど完璧に東山を取り入れたその作庭ぶりには脱帽するばかり。そこで私は一句をひねったのです(私は俳人でもある)。

・春萌える遠州庭の借となる 愛由等

作庭以来、400年経過しても東山が借景としてあり続ける京都の継続性。そのただなかにいる私は、借景を見る鑑賞者や、判定者でなく、私そのものも庭の「借」でしかないという主客が逆転したありようの凄まじさ。遠州庭、おそるべし。


そして浮かんできた二句目は、

・ざささざの作庭したる春の雨

庭をあかずに眺めていると降り出した雨。春雨らしく、抒情ゆたかに降り、わたしには「さざさざ」と聞こえたのです。そしてふと気づいてみると、この枯山水様式の白砂に落ちる「さざさざ雨」もまた作庭の一部なのだと気づくのです。よき雨でした。

さらにもう一句。明治になって他所から移築されたというパンフレットの説明を呼んでものした作品。

・さめざめの木の芽香越える叛徒門

明治という大きな時代の変わり目が東照宮の主・徳川家康(遺髪が納められている)と、叛徒たる明智光秀(が寄進した構造物の一部の門)とが邂逅することになったのです。光秀が治世を担当した福知山では、いまだ光秀の遺徳を偲ぶ声があると聞くので、この文人武士は多面性を持っていたひとなのでしょう。そして叛徒ゆえの魅力も彼につきまとっています。句はこの時期にしか薫ってこない木の芽の香りは、閉ざされた明智門をさえ通過していくであろうと思われる“春の力”を詠ったものです。

1人デモ随行記2

2010年05月10日 17時54分33秒 | 通信
スタート時間には間に合わなかったので、後を追ったのです。

探しました。

歩いてそしてタクシーに乗って。

見つからないので、終点に行こうと車を走らせたら、すでに終わっていました。

無理を言って、歩いてもらったのです。

里博氏は思想の人であり、行動の人です。


どうぞその勇姿を動画で確認して下さい。

まつりばやし

2010年05月04日 12時29分42秒 | 通信
今年も拙宅あたりは、まつりばやしに覆われています。

これは田辺地区のだんじり。拙宅が所属している高畑地区の隣のものです。

東灘のだんじり祭は、阪神大震災の年は中止。翌年から復活したのですが、更地がまだまだ多く、空が広い地域内を巡行していた姿を鮮明に覚えています。

第52回『Melange』合評会のお知らせ

2010年05月03日 22時51分25秒 | 通信
いくつかお知らせがあります。

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◆1.--第52回『Melange』読書会・合評会のお知らせ
◆2.--「授業料無償化の対象から朝鮮高級学校を除外することに反対する」詩人たちのメッセージ集の発行
◆3--高谷和幸さんの詩の教室「エクリ」が5月17日(月)、姫路で開催
◆4.--誌友・竹田朔歩さん、新詩集『鳥が啼くか π』を上梓
◆5.--奄美・徳之島のこと
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◆1.--第52回『Melange』読書会のお知らせ
4月は日程的に都合がつかず休んでいました『Melange』読書会・合評会を5月9日(日)に開催します。今回の読書会には、山田兼士氏をゲストにお呼びして、氏の詩集『微光と煙』における「超散文詩」(高谷和幸氏の命名)の作品世界を、自著解説とともに、堪能いたしたいと思っています。第一部は、午後1時からです。遅れないように来てください。高谷氏にナビゲートしていただきます。

そして第二部の合評会の詩稿締め切りは、6日(木)です。到着した作品は、8日(土)にメールでみなさんにフィードバックして、合評会の当日に評を語り合います。 

◆2.--「授業料無償化の対象から朝鮮高級学校を除外することに反対する」詩人たちのメッセージ集の発行

寺岡氏の労苦により、多くの方々から寄せられたメッセージが冊子としてまとめられています。一冊500円(税込)です。ご希望の方は、このメールに冊数と送付先を明記してください。

「読書会」第一部の討議は午後1時から始めたいと思っています。
第二部の詩の合評会は、午後3時すぎから行います。今回は都合上、ひとり一作品とさせていただきます。

開催場所は、神戸市三宮のスペイン料理カルメンです。
(カルメンの場所は以下のサイトを参照してください。阪急三宮駅西口の北へ徒歩2分の場所にあります。 http://www.warp.or.jp/~maroad/carmen/ )。


◆3--高谷和幸さんの詩の教室「エクリ」が5月17日(月)、姫路で開催

詩の教室「エクリ」が、5月17日(月)午後2時~から姫路で開催されます。
場所は、姫路駅から北に向かって歩いたところにあるカフェ「みんと」(姫路駅を降りて北に伸びるアーケード付き商店街「みゆき通」を歩いていくと国道2号線(東行き)と交差します。それをさらに北に進むと東側にあります。、一階が「ブティックけん」)
電話/090-6604-7653(店主名/北尾祥子さん)
この会は、高谷和幸氏が主宰しているもので、今回わたしもはじめて参加させていただきます。テーマ/身近にある現代詩 合評会を持ちますので、自作詩を6枚コピーして下さい。会場費/1000円程度。

付け加えて、高谷氏の情報ですが、もうすぐ思潮社から新詩集が出版されます。その出版を祝う会を準備しておりますので、またこの通信でお知らせすることにします。

◆4.--誌友・竹田朔歩さん、新詩集『鳥が啼くか π』を上梓

『サム・フランシスコの恁魔(にんま)』(書肆山田)で第41回小熊秀雄賞を受賞した(2007年)した竹田朔歩さんが新詩集を上梓されました(書肆山田、本体2800円)。
本文178ページ。骨格のしっかりした作品内容です。詩集をだす年の詩人たちはどこか光彩を放っていますね。

◆5.--奄美・徳之島のこと

これはお知らせではないのですが、わたしのフィールドワークの地である奄美がいま騒擾の地となっています。沖縄普天間の米軍海兵隊基地の訓練施設移転の候補地として徳之島が有力視されていることで注目が集まっているためです。

奄美地域のニュースが全国ニュースとなり、反対に全国ニュースがすなわち奄美の地域ニュースとなっています(まるで阪神大震災の時の神戸にまつわるメディア状況のようです)。

徳之島というところは、激しい気性と繊細な心情を併せ持つひとびとが暮らす島です。
火傷しそうな熱情の持ち主であるこのシマンチュを一人でも友人として持つことは、その人にとって心の財産になると信じています。

先日(4.18)行われた決起集会で島民の半分以上の参加者を集めて、全島あげての基地移設反対の意思を示して、民意は決定したかのようですが、どちらか一方に極端に猪突する島民性格を考えると、今後の推移を注意深くみつめる必要があります。基地誘致派もいて、政府による懐柔策もすでに噂されていることから、目が離せません。

そこでいまわたしが読み直しているのは、わたしの元ボスであった徳之島出身の詩人である作井満の第二詩集『犬田布騒動記』(沖積舎、1983)です。薩摩の圧制に対して、二度にわたって徳之島のひとびとは百姓一揆として立ち上がりました。そのうちのひとつである島尻間切犬田布集落で起こった一揆をテーマに書き上げたのが本詩集です。「一揆有理」を基調としたその激しくかつ繊細な表現は、わたしの知る徳之島のひとびとの心性そのものなのです。


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☆第52回『Melange』合評会の会場=神戸・三宮のスペイン料理カルメン(カルメンの場所は以下のサイトを参照してください。阪急三宮駅西口の北へ徒歩1分の場所にあります。 
http://www.warp.or.jp/~maroad/carmen/)。
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