報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アリス達の足取りを追う」 4

2017-02-18 21:02:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日14:00.天候:晴 新千歳空港付近・北国観光バス営業所]

 敷島達は係員の案内で、アリス達が乗ったはずの観光バスの営業所に向かった。
 しかし係員の証言と、実際のDCJのメンバーが合わないことに気づいた。
 アリスは英語と日本語しか喋れない白人のアメリカ人だが、係員によると1人だけメンバーの中にいた白人女性はポルトガル語と日本語を喋るポルトガル人だったという。

 所長:「お待たせしました。これがDCJ観光さんの書類です」

 観光バスは路線バスと違い、既に予約のバスがこの営業所を出庫する所から契約が始まっている。

 鷲田:「代表者の所のサインに『岩下』とあるな?」
 敷島:「岩下副館長のことでしょうか?」
 村中:「筆跡は分かるかい、敷島社長?」
 敷島:「いやー……」

 敷島は首を横に振った。
 エミリーはシンディよりもDCJとは縁が薄い為、職員の筆跡などは知らない。
 萌も知らなかった。

 敷島:「しょうがない。写真に撮って、小山副館長に照会しましょう」

 敷島は自分のスマホで書類を撮影すると、それを小山副館長のPCに送信した。

 鷲田:「この書類にサインした岩下という男は、どんな感じの者でしたかな?」
 所長:「どんなと言われても……。そこの外国人女性くらいの背丈で、痩せ型の50代くらいの人でしたが……。眼鏡は掛けてませんでした」

 営業所長はエミリーの方を見ながら言った。
 エミリーは177cmある。
 足のパーツを交換したらシンディと同様、2cm伸びた。
 岩下副館長の身長が180cmあるか無いかといったくらいだし、瘦せ型で眼鏡は掛けていない50代の男という特徴は合っていた。
 書類にはツアー客の名簿もあるにはあるのだが、名前は全員科学館の職員の名前になっていた。

 敷島:「多分、全員が成り済ましですよ」
 鷲田:「しかし、特徴は合っているんだろう?」
 村中:「警視、こりゃホテルの方に行って問い合わせた方がいいかもですね」
 鷲田:「そのようだな」

 もちろん、DCJ観光という観光会社はニセモノだ。
 そのツアー客達が科学館のメンバーに成り済ましていたとしたら、本物の科学館員達は空港からどこへ行ったのだろうか?

 敷島:「所長。もしもですよ?もしも、同じような名前のツアー団体が同じ時間、同じ人数で、空港からの行き先が同じ場合、間違えることはありますか?それこそ、責任者の名前まで同じだった場合です」
 所長:「うーん……。そこまでそっくりな2つの名前の団体が、同時に予約されるといったことは、さすがに無いですからねぇ……。ただ、あってはならないことですが、もしかしたら、そういうことがある場合も……」
 鷲田:「本当にキミはバカだな。いいか?もしバス会社の方で間違えたとしても、取り残されたもう1つの団体が騒ぐだろうから、そこで発覚するはずだぞ」
 敷島:「ううっ……」
 エミリー:「あの……」

 エミリーが淡いピンク色の手袋をはめた右手を挙げた。
 シンディは黒い革手袋で、昔はエミリーも同じ手袋をはめていたのだが、威圧感があるからという理由でピンク色のナイロン製の手袋に交換した。
 シンディも敷島の秘書として稼働する場合は、手袋は外す。

 エミリー:「北国観光バスさんでは、DCJという名前の団体は1つしか扱っていないのですね?」
 所長:「そうですよ」
 エミリー:「空港から直接観光バスに乗ろうとする場合、他にもバス会社はありますか?」
 所長:「それはまあ、ありますけど……」
 鷲田:「おいおい。行程表を無視して、他のバス会社のバスに乗ったというんではあるまいな?」
 エミリー:「しかし、否定はできません」

 と、そこへ敷島のスマホが鳴った。
 小山副館長からだった。

 小山:「あ、敷島さん。岩下の筆跡なんですけどもね、どうも違うみたいです」
 敷島:「違う?」
 小山:「ええ。岩下の机を調べさせてもらって、彼の直筆のサインを見たんですけどね、ちょっと違うんですよ。バス会社の書類の方は、岩下の『下』という字の横棒の右側が下の方に跳ねているでしょう?」
 敷島:「そういえば……」
 小山:「こっちの書類のサインだと、上の方に跳ねているんですよ。他にもいくつか見ましたが、岩という字もどことなく違うし、多分バス会社の方は偽者が書いたと思いますよ」
 敷島:「やはり……!ありがとうございます!……まだ連絡は?」
 小山:「全然無いです。一応こちらからもですね、せめてシンディの電源を遠隔で入れられないかと模索してるんですが、何しろこちらもケガしてるんで……」
 敷島:「ケガ?」
 小山:「この前、自転車で転んだせいで、左腕を骨折しちゃいまして。それで私は留守番部隊なんですよ。まあ、右利きなもんで、利き腕をやられなかっただけ、まだ不幸中の幸いでしたけどね」
 敷島:「そうだったんですか。あの、どうか、無理はなさらぬように……。はい。では、失礼します」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「どうもこの書類にサインをした岩下副館長は、成り済ましの別人のようです」
 鷲田:「おいおい。それじゃ、本物の館員達は一体どこに行ったのかね?」
 村中:「こりゃ、この空港に出入りしているバス会社を片っ端から当たってみますか?」
 敷島:「電車で行ったりして?」
 エミリー:(せめてこの空港にロボットでもいれば、そいつから情報を聞き出せるのだが……)
 鷲田:「いや、そんな時間は無い。むしろ、次の行き先であるホテルに行って聞けばいいだろう」

 結局、鷲田の言う通りにすることにした。
 少なくとも科学館慰安旅行の行き先は東急REIホテル、成り済ましツアーも実際にそのホテルにチェックインしている。

 敷島:「さっきのANA到着口から乗れば、始発停留所だから座席選び放題ですよ」
 鷲田:「お前なぁ……。そんな子供みたいなことを……」
 村中:「まあ、バスの時間まで時間がありますから、時間調整の意味も兼ねて歩いてもいいですがね」
 エミリー:(どこにいるの?シンディ……)
 敷島:「エミリー。自動券売機で、バスの乗車券買って来てくれ。お前の分も入れて4人分な?」
 エミリー:「かしこまりました」
 萌:「あれ?ボクの分は?」
 鷲田:「お前は荷物として乗れ」
 萌:「えーっ!」
 鷲田:「エミリーは曲がりなりにも人間と同じ姿形をしているが、お前は人間のフリをしようったってムリがある」
 村中:「そうだよ。逆に、網棚という特等席に乗れる権利があるよ」
 萌:「あ、何だ。荷物室じゃないんですね」
 敷島:「さすがにな。幸い、バスには手荷物検査は無いから、エミリーは人間のフリをして乗ることができるし、お前も俺の鞄の中にでも入ってりゃいい」
 萌:「なーんだ。それならOKです」

 エミリーはバスのキップを買いに行った。
 その肩に乗っかってついていく萌。

 敷島:「手荷物検査か……」
 鷲田:「何だ?」
 敷島:「シンディだって直に飛行機の貨物室行きとはいえ、検査は受けたはずです。で、降ろす時にシンディの電源を入れる暇が無かったなんて……」
 鷲田:「シンディを連れて行くことは、科学館の職員達も知っていたんだよな?」
 敷島:「もちろんです」
 鷲田:「知っているのに、ここでの電源を入れる時間を確保しておかなかったというのは確かに不自然だな」
 敷島:「ええ。そもそも、アリス達は本当に新千歳空港行きの飛行機に乗ったのでしょうか?」
 村中:「ただ、あの時も航空ダイヤは少し乱れていて、私達が乗った便も、あの時は20分くらいは遅れてたらしいからね。有り得なくは無いよ?」
 敷島:「うーん……」
 鷲田:「とにかく、ホテルに行ってみよう。そこでも話が聞ければ、もう少し何か分かるかもしれん」

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