[3月13日10時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]
善場「お疲れ様です、愛原所長」
月曜日の午前中、善場主任が訪ねて来た。
当然、用件は先日の私の電話の件についてだ。
ヨドバシAkiba店内のカフェにて、蓮華から電話が掛かって来た件についてだ。
愛原「お疲れ様です、善場主任」
私と主任は、応接コーナーのソファに向かい合って座った。
すかさずパールが、紅茶を持って来る。
善場「おかまいなく。用件は先日の電話のことです」
愛原「はい。状況を説明致しますと……」
私は店内の見取り図を主任に見せながら、説明した。
愛原「……というわけで、私達の会話に横から入るかのようなタイミングで、私のスマホに着信があったのです。まさか蓮華からだと思いませんでしたので、あいにく録音するのを忘れてしまいました」
善場「着信履歴はありますね?」
愛原「はい」
私は自分のスマホを見せた。
善場「なるほど、公衆電話からですか」
愛原「はい。調べたところ、ヨドバシAkiba店内には、1階にしか公衆電話がありません。その電話も、入口近くにあるということもあり、昼間は日光に当たってしまうかもしれません」
善場「詳しく調べてみないと分かりませんが、私は蓮華はその公衆電話を使ったわけではないと思っています」
愛原「えっ!?」
善場「私も私用で、ヨドバシAkibaには訪店したことがあります。その時、確かに公衆電話があったのを覚えています。所長が仰る公衆電話とは、それのことでしょう」
愛原「無いと断言されますか」
善場「断言はできませんが、ただ、使用していない確率は高いという推理です。私も元BOWですが、少なくとも私ならあの公衆電話は使いません」
愛原「何故ですか?」
善場「リスクが大きいからです。確かにあの電話は入口に近いので、日光に当たれない栗原蓮華にとっては、綱渡りの状態です。そもそも、外からは来れないわけですしね」
愛原「なるほど……」
善場「日光の当たらない場所……。例えば地下鉄の駅とか、窓やドアが近くに無く、日光が差し込む心配の無い屋内にある公衆電話とか、そこから掛けたものと思われます」
愛原「では、蓮華はどうやって私達の会話を聞いていたのでしょう?」
善場「……愛原所長は、“鬼滅の刃”は御覧になったことはありますか?」
愛原「あ、はい。リサとか、高橋が観ていましたが……。まあ、私も、アニメのDVDとかは、リサが借りて来たのを一緒に観たりとかはしたことがあります。原作は、高橋がタブレットで読んでいたくらいですかね」
私はチラッと高橋を見た。
高橋は肯定するように頷いた。
愛原「それが何か?」
まあ、日光に弱い人食い鬼という蓮華の体質、“鬼滅の刃”の鬼と共通してはいるが……。
電話を掛けるような鬼なんていたか?
善場「“無限列車編”は御覧になったことは?」
愛原「あ、はい。それもリサがDVDを借りてきたので、一緒に観たことがあります」
実際には、DMMで郵送されてくるレンタルDVDのことだが。
善場「あの話、人間でありながら、鬼に協力する人達が登場しますね?」
愛原「あー……そういえば……って、ええっ!?」
善場「お気づきになりましたか?」
愛原「それって……?」
善場「推測ですが、カフェの中で、所長達の話を盗聴していた人間がいたのかもしれません。そして、その人間が蓮華に、会話の内容を逐一報告していたとしたら?例えば、スマホを常に通話状態にして、所長達の会話を蓮華に聞かせるとか」
愛原「その手がありましたか!」
善場「近くに怪しい人間はいませんでしたか?」
愛原「いやぁ……」
まさかそんな人間がいるとは思わなかったので、気にもしていなかった。
もちろん、あからさまに怪しいのがいたら、気づくとは思うが。
あの場にいた高橋やパールにも聞いてみたが、気が付かなかったという。
高橋「もう皆、スマホとか使っているから、誰かがそれで盗聴してたとしても分かんねーよ」
パール「盗撮なら気づける自信はありますけど、盗聴はねぇ……」
愛原「でも、よくそんな人間がいるという推理ができましたね。私より凄いです」
高橋「せ、先生は名探偵ですよ!」
善場「大したことないですよ。東北自動車道で、郵便局のトラックなどを事故らせた鬼達のことは御存知ですね?」
高橋「はい」
善場「BSAAにリークしたのは、上野利恵一派なんですよ」
愛原「えっ!?」
高橋「一派って、チームでも作ったのか?」
善場「ええ。天長会の信者達ですね。……これは公になっていないのですが、上野利恵が鬼にした人間も何人かいるんですよ」
愛原「ええっ!?」
高橋「ヤベェだろ、それ!?」
善場「殆どが娘の上野凛や上野理子のような『半鬼』ですが、人食いはしていません。全員が上野利恵に追従しているので、今のところは様子見としています。実際、BSAAにいち早く通報して、しかもその鬼達を追い詰める協力までしましたからね」
愛原「天長会の信者に、鬼もいるのかよ……」
高橋「“鬼滅の刃”の珠代一派みたいな感じっスかね?」
愛原「そういうことか!」
と、そこへエントランスのインターホンが鳴る。
パールが応答した。
パール「はい。愛原学探偵事務所でございます」
配達員「こんにちはー!郵便局でーす!」
パール「はい、少々お待ちください」
パールはハンコを持って、1階に向かった。
愛原「私が知らない間に、栃木ではそんなことになってたんですね」
善場「今のところ害は無いですし、何より、人間の血が混じった『半鬼』という人権がある状態なので、BSAAも問答無用で射殺ということができないようです。もっとも、人食いをしたらBSAAがそうするという警告はしていますが」
愛原「なるほど……」
高橋「栃木は危険地帯っスね」
愛原「そんな所に、蓮華がいるわけないですね。とにかく、上野利恵に人間の協力者がいるのと同様、栗原蓮華にも人間の協力者がいるということですか」
善場「そう見るのが自然かと思われます。上野利恵一派という前例があるので」
愛原「うーむ……」
パールが戻って来た。
普通郵便の他に、赤いレターパックがあった。
それで、郵便局員が受領印を求めたのだろう。
もちろんそれは、私の実家からではない。
パール「先生。ホテル天長園の上野利恵副支配人からです」
愛原「なっにー!?」
噂をすれば何とやらだ。
どうして鬼達は、こうタイムリーに影を晒すのが得意なんだ?
高橋「中身は何スか?」
愛原「品名は、『宿泊招待券』とあるな」
高橋「先生を食う気ですか!?」
愛原「いや、そんなことはないと思うけど……」
開けると、中には挨拶状と、宿泊券が同封されていた。
私だけではなく、4人分ある。
恐らく、この事務所の人数分用意してくれたのだろう。
愛原「『春休み、是非起こしください』みたいなことが書いてある」
高橋「春休みはリサ、藤野ですぜ?」
パール「仮に皆で行くにしても、1人余ってしまいますね」
愛原「善場主任、来られます?」
善場「これでも国家公務員ですので、利益供与を受けるわけには参りませんので」
宿泊券については、取りあえず保留とすることにした。
善場「お疲れ様です、愛原所長」
月曜日の午前中、善場主任が訪ねて来た。
当然、用件は先日の私の電話の件についてだ。
ヨドバシAkiba店内のカフェにて、蓮華から電話が掛かって来た件についてだ。
愛原「お疲れ様です、善場主任」
私と主任は、応接コーナーのソファに向かい合って座った。
すかさずパールが、紅茶を持って来る。
善場「おかまいなく。用件は先日の電話のことです」
愛原「はい。状況を説明致しますと……」
私は店内の見取り図を主任に見せながら、説明した。
愛原「……というわけで、私達の会話に横から入るかのようなタイミングで、私のスマホに着信があったのです。まさか蓮華からだと思いませんでしたので、あいにく録音するのを忘れてしまいました」
善場「着信履歴はありますね?」
愛原「はい」
私は自分のスマホを見せた。
善場「なるほど、公衆電話からですか」
愛原「はい。調べたところ、ヨドバシAkiba店内には、1階にしか公衆電話がありません。その電話も、入口近くにあるということもあり、昼間は日光に当たってしまうかもしれません」
善場「詳しく調べてみないと分かりませんが、私は蓮華はその公衆電話を使ったわけではないと思っています」
愛原「えっ!?」
善場「私も私用で、ヨドバシAkibaには訪店したことがあります。その時、確かに公衆電話があったのを覚えています。所長が仰る公衆電話とは、それのことでしょう」
愛原「無いと断言されますか」
善場「断言はできませんが、ただ、使用していない確率は高いという推理です。私も元BOWですが、少なくとも私ならあの公衆電話は使いません」
愛原「何故ですか?」
善場「リスクが大きいからです。確かにあの電話は入口に近いので、日光に当たれない栗原蓮華にとっては、綱渡りの状態です。そもそも、外からは来れないわけですしね」
愛原「なるほど……」
善場「日光の当たらない場所……。例えば地下鉄の駅とか、窓やドアが近くに無く、日光が差し込む心配の無い屋内にある公衆電話とか、そこから掛けたものと思われます」
愛原「では、蓮華はどうやって私達の会話を聞いていたのでしょう?」
善場「……愛原所長は、“鬼滅の刃”は御覧になったことはありますか?」
愛原「あ、はい。リサとか、高橋が観ていましたが……。まあ、私も、アニメのDVDとかは、リサが借りて来たのを一緒に観たりとかはしたことがあります。原作は、高橋がタブレットで読んでいたくらいですかね」
私はチラッと高橋を見た。
高橋は肯定するように頷いた。
愛原「それが何か?」
まあ、日光に弱い人食い鬼という蓮華の体質、“鬼滅の刃”の鬼と共通してはいるが……。
電話を掛けるような鬼なんていたか?
善場「“無限列車編”は御覧になったことは?」
愛原「あ、はい。それもリサがDVDを借りてきたので、一緒に観たことがあります」
実際には、DMMで郵送されてくるレンタルDVDのことだが。
善場「あの話、人間でありながら、鬼に協力する人達が登場しますね?」
愛原「あー……そういえば……って、ええっ!?」
善場「お気づきになりましたか?」
愛原「それって……?」
善場「推測ですが、カフェの中で、所長達の話を盗聴していた人間がいたのかもしれません。そして、その人間が蓮華に、会話の内容を逐一報告していたとしたら?例えば、スマホを常に通話状態にして、所長達の会話を蓮華に聞かせるとか」
愛原「その手がありましたか!」
善場「近くに怪しい人間はいませんでしたか?」
愛原「いやぁ……」
まさかそんな人間がいるとは思わなかったので、気にもしていなかった。
もちろん、あからさまに怪しいのがいたら、気づくとは思うが。
あの場にいた高橋やパールにも聞いてみたが、気が付かなかったという。
高橋「もう皆、スマホとか使っているから、誰かがそれで盗聴してたとしても分かんねーよ」
パール「盗撮なら気づける自信はありますけど、盗聴はねぇ……」
愛原「でも、よくそんな人間がいるという推理ができましたね。私より凄いです」
高橋「せ、先生は名探偵ですよ!」
善場「大したことないですよ。東北自動車道で、郵便局のトラックなどを事故らせた鬼達のことは御存知ですね?」
高橋「はい」
善場「BSAAにリークしたのは、上野利恵一派なんですよ」
愛原「えっ!?」
高橋「一派って、チームでも作ったのか?」
善場「ええ。天長会の信者達ですね。……これは公になっていないのですが、上野利恵が鬼にした人間も何人かいるんですよ」
愛原「ええっ!?」
高橋「ヤベェだろ、それ!?」
善場「殆どが娘の上野凛や上野理子のような『半鬼』ですが、人食いはしていません。全員が上野利恵に追従しているので、今のところは様子見としています。実際、BSAAにいち早く通報して、しかもその鬼達を追い詰める協力までしましたからね」
愛原「天長会の信者に、鬼もいるのかよ……」
高橋「“鬼滅の刃”の珠代一派みたいな感じっスかね?」
愛原「そういうことか!」
と、そこへエントランスのインターホンが鳴る。
パールが応答した。
パール「はい。愛原学探偵事務所でございます」
配達員「こんにちはー!郵便局でーす!」
パール「はい、少々お待ちください」
パールはハンコを持って、1階に向かった。
愛原「私が知らない間に、栃木ではそんなことになってたんですね」
善場「今のところ害は無いですし、何より、人間の血が混じった『半鬼』という人権がある状態なので、BSAAも問答無用で射殺ということができないようです。もっとも、人食いをしたらBSAAがそうするという警告はしていますが」
愛原「なるほど……」
高橋「栃木は危険地帯っスね」
愛原「そんな所に、蓮華がいるわけないですね。とにかく、上野利恵に人間の協力者がいるのと同様、栗原蓮華にも人間の協力者がいるということですか」
善場「そう見るのが自然かと思われます。上野利恵一派という前例があるので」
愛原「うーむ……」
パールが戻って来た。
普通郵便の他に、赤いレターパックがあった。
それで、郵便局員が受領印を求めたのだろう。
もちろんそれは、私の実家からではない。
パール「先生。ホテル天長園の上野利恵副支配人からです」
愛原「なっにー!?」
噂をすれば何とやらだ。
どうして鬼達は、こうタイムリーに影を晒すのが得意なんだ?
高橋「中身は何スか?」
愛原「品名は、『宿泊招待券』とあるな」
高橋「先生を食う気ですか!?」
愛原「いや、そんなことはないと思うけど……」
開けると、中には挨拶状と、宿泊券が同封されていた。
私だけではなく、4人分ある。
恐らく、この事務所の人数分用意してくれたのだろう。
愛原「『春休み、是非起こしください』みたいなことが書いてある」
高橋「春休みはリサ、藤野ですぜ?」
パール「仮に皆で行くにしても、1人余ってしまいますね」
愛原「善場主任、来られます?」
善場「これでも国家公務員ですので、利益供与を受けるわけには参りませんので」
宿泊券については、取りあえず保留とすることにした。
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