[9月30日10:00.天候:晴 東京都八王子市 東海大学医学部付属八王子病院・病室]
高橋:「先生、迎えに来ましたよ」
愛原:「ああ、高橋。すまない」
退院の付き添いで、高橋が迎えに来た。
私のリハビリは順調に進み、今では普通に歩けるようになった。
Tウィルスワクチン副反応による筋力低下が症状の理由だったが、その副反応が収まれば回復は早かったようだ。
愛原:「オマエ1人だけか?……ああ、そうか。コロナ禍の影響で、面会は原則禁止だったもんな」
高橋:「そうなんです」
例外はいくつかあり、その1つが入退院の付き添いだ。
但し、それとて1人までという制限が課せられている。
だから、ここには高橋1人しか来れなかったのだ。
高橋:「でも、下に姉ちゃん達がいますよ」
愛原:「そうか」
高橋:「多分、受付で退院の手続きやってるんだと思いますよ」
愛原:「すると、俺の退院費用は……」
高橋:「姉ちゃん達で出してくれたんじゃないスか?リサ・トレヴァー亜種の被害者なんスから」
愛原:「そうか……」
WHOは、バイオテロに巻き込まれた被害者達への手厚い補償を各国に呼び掛けている。
新型コロナウィルスは武漢ウィルスといって、陰謀論信奉者達の間では、これもバイオハザードの1つであると主張しているが、WHOとしては単なる自然災害扱いとなっている。
その為、バイオテロによる補償の対象とはなっていないのである。
愛原:「俺を感染させたリサ・トレヴァー亜種は?」
高橋:「あいつですよ。ほら、片足義足の……」
愛原:「栗原蓮華さんか。あのコが倒してくれたのか?」
高橋:「ええ。大正時代を舞台にした某アニメのように、日本刀で首をぶった切ったらしいです。ある意味、パールより怖いヤツだ」
愛原:「そうか。仇討ちは蓮華さんがしてくれたか。後で礼を言わないとな」
私は荷物をまとめて、2階エントランスに向かった。
すると、そこには善場主任が待っていた。
善場:「愛原所長、お疲れさまです」
愛原:「善場主任、お迎えありがとうございます」
善場:「所長はバイオテロの被害者ですし、当組織の委託先ですから」
NPO法人デイライトとしては、私が業務中にバイオテロに巻き込まれたということで、補償の対象と考えているようだ。
よくよく考えてみれば、確かに私は善場主任に頼まれて情報収集をしていて、その帰りにバイオテロに巻き込まれたのだ。
善場:「退院の手続きは済んでいます。まずは事務所に向かいましょう」
愛原:「それは……デイライトさんの事務所ですか?」
善場:「……所長の事務所に行かれますか?」
愛原:「あ、いや、結構です」
まあ、そうなるわな。
2階のエントランスから立体駐車場に行き、そこに止まっている黒塗りミニバンに向かった。
運転席には主任の部下が乗っていて、わざわざ降りて来てスライドドアとハッチを開けてくれた。
私の荷物は後ろに乗せる。
善場:「では、乗ってください」
愛原:「すいません」
私は運転席の後ろ、高橋は助手席の後ろに乗り込んだ。
善場主任は助手席に乗り込む。
善場:「じゃ、事務所までお願い」
部下:「了解しました」
車が走り出す。
ハイブリッドなので、走行音は静かだ。
〔駐車券をお入れください〕
部下の人が駐車券を入れる。
さすがに無料ではないのか、部下の人が現金を投入していた。
その後で、領収証を発行させていたので、後で経費請求するつもりなのだろう。
最短距離で行くつもりなのか、病院を出ると、中央高速の入口へ向かう。
病院から中央高速は見える位置にあったが、いざインターへ行こうとすると、ぐるっと回る形になるようだ。
愛原:「主任、あの後何か情報はありましたか?」
善場:「それも踏まえて、事務所でお話しさせて頂くつもりです」
愛原:「あ、そうですか」
善場:「とにかく今は、お寛ぎください」
愛原:「はあ、分かりました」
善場:「強いて言うなら……」
愛原:「は?」
善場:「東京中央学園上野高校の旧校舎には、幽霊がいるんですってね?」
愛原:「あ、ああ。“トイレの花子さん”ですか。主任は信じられないかもしれませんが、実際私達は……」
善場:「まあ、いると仮定しても良いでしょう。実際、リサが随分と仲良く付き合っていたようですから」
愛原:「ああ。何か、よくその話をしてくれましたねぇ……」
善場:「突然いなくなったそうですよ」
愛原:「は?」
善場:「リサの話によれば、“トイレの花子さん”、突然いなくなったそうです」
愛原:「そ、そうなんですか?」
高橋:「呆然としてましたよ、あいつ。最近の話じゃ、幽霊らしからぬ、随分と人間臭いキャラになってたらしいですから」
愛原:「な、何だろう?成仏したのかな?それとも、誰か除霊した?」
確か彼女が未練を残していた理由は、白井伝三郎への復讐を果たしていないからだった。
“トイレの花子さん”の正体は、50年ほど前に、イジメを苦にして自殺した女子生徒の幽霊だ。
名前を斉藤早苗さんという。
彼女はイジメ加害者の子供達をあの世に送ることで、復讐とした。
ところが、加害者の1人であった白井伝三郎だけは生涯独身であった為に子供がおらず、“花子さん”の復讐が達成できないままとなっていた。
しかし、“花子さん”は達成しないと成仏できないという。
その為、50年も幽霊を続けざるを得なかったのである。
それが急にいなくなったということは、もしかして、白井が死んだ?
善場:「どちらもハズレですよ。この前、その“トイレの花子さん”の遺骨が盗まれ、その後に『新12番』の存在が噂されるようになったと言いましたね?」
愛原:「そうですね。……えっ?」
善場:「恐らく、無理やり『生き返らせられた』状態になったのでしょう。その為、幽霊としては存在できなくなったのでしょうね」
愛原:「そんなことができるんですか!?」
善場:「私は『新12番』はTウィルスやGウィルスを宿したリサ・トレヴァーではないと考えています。恐らく、特異菌を使用したものと考えています」
愛原:「特異菌って、死体を生き返らせられるんですか?」
善場:「はい。実際、その報告例があります。ただ、死亡前に特異菌に感染し、それがたまたま100%適応できていた為に起きた奇跡に近い状態だったとされています。しかも、死亡してすぐに蘇生した形です。しかし、どうも白井は遺骨から蘇生させるのに成功したようです」
愛原:「どうやって!?」
善場:「それが分かれば苦労はしません。白井本人を捕まえるかしませんと。それに、まだ直接『新12番』の目撃例は1回もありません。現時点では、まだ本当に噂の段階なんですよ」
しかし、ガチだろうな。
“花子さん”の遺骨が盗まれた→幽霊としての“花子さん”が消えた→新型BOW『新12番』存在の噂とくれば……。
高橋:「先生、迎えに来ましたよ」
愛原:「ああ、高橋。すまない」
退院の付き添いで、高橋が迎えに来た。
私のリハビリは順調に進み、今では普通に歩けるようになった。
Tウィルスワクチン副反応による筋力低下が症状の理由だったが、その副反応が収まれば回復は早かったようだ。
愛原:「オマエ1人だけか?……ああ、そうか。コロナ禍の影響で、面会は原則禁止だったもんな」
高橋:「そうなんです」
例外はいくつかあり、その1つが入退院の付き添いだ。
但し、それとて1人までという制限が課せられている。
だから、ここには高橋1人しか来れなかったのだ。
高橋:「でも、下に姉ちゃん達がいますよ」
愛原:「そうか」
高橋:「多分、受付で退院の手続きやってるんだと思いますよ」
愛原:「すると、俺の退院費用は……」
高橋:「姉ちゃん達で出してくれたんじゃないスか?リサ・トレヴァー亜種の被害者なんスから」
愛原:「そうか……」
WHOは、バイオテロに巻き込まれた被害者達への手厚い補償を各国に呼び掛けている。
新型コロナウィルスは武漢ウィルスといって、陰謀論信奉者達の間では、これもバイオハザードの1つであると主張しているが、WHOとしては単なる自然災害扱いとなっている。
その為、バイオテロによる補償の対象とはなっていないのである。
愛原:「俺を感染させたリサ・トレヴァー亜種は?」
高橋:「あいつですよ。ほら、片足義足の……」
愛原:「栗原蓮華さんか。あのコが倒してくれたのか?」
高橋:「ええ。大正時代を舞台にした某アニメのように、日本刀で首をぶった切ったらしいです。ある意味、パールより怖いヤツだ」
愛原:「そうか。仇討ちは蓮華さんがしてくれたか。後で礼を言わないとな」
私は荷物をまとめて、2階エントランスに向かった。
すると、そこには善場主任が待っていた。
善場:「愛原所長、お疲れさまです」
愛原:「善場主任、お迎えありがとうございます」
善場:「所長はバイオテロの被害者ですし、当組織の委託先ですから」
NPO法人デイライトとしては、私が業務中にバイオテロに巻き込まれたということで、補償の対象と考えているようだ。
よくよく考えてみれば、確かに私は善場主任に頼まれて情報収集をしていて、その帰りにバイオテロに巻き込まれたのだ。
善場:「退院の手続きは済んでいます。まずは事務所に向かいましょう」
愛原:「それは……デイライトさんの事務所ですか?」
善場:「……所長の事務所に行かれますか?」
愛原:「あ、いや、結構です」
まあ、そうなるわな。
2階のエントランスから立体駐車場に行き、そこに止まっている黒塗りミニバンに向かった。
運転席には主任の部下が乗っていて、わざわざ降りて来てスライドドアとハッチを開けてくれた。
私の荷物は後ろに乗せる。
善場:「では、乗ってください」
愛原:「すいません」
私は運転席の後ろ、高橋は助手席の後ろに乗り込んだ。
善場主任は助手席に乗り込む。
善場:「じゃ、事務所までお願い」
部下:「了解しました」
車が走り出す。
ハイブリッドなので、走行音は静かだ。
〔駐車券をお入れください〕
部下の人が駐車券を入れる。
さすがに無料ではないのか、部下の人が現金を投入していた。
その後で、領収証を発行させていたので、後で経費請求するつもりなのだろう。
最短距離で行くつもりなのか、病院を出ると、中央高速の入口へ向かう。
病院から中央高速は見える位置にあったが、いざインターへ行こうとすると、ぐるっと回る形になるようだ。
愛原:「主任、あの後何か情報はありましたか?」
善場:「それも踏まえて、事務所でお話しさせて頂くつもりです」
愛原:「あ、そうですか」
善場:「とにかく今は、お寛ぎください」
愛原:「はあ、分かりました」
善場:「強いて言うなら……」
愛原:「は?」
善場:「東京中央学園上野高校の旧校舎には、幽霊がいるんですってね?」
愛原:「あ、ああ。“トイレの花子さん”ですか。主任は信じられないかもしれませんが、実際私達は……」
善場:「まあ、いると仮定しても良いでしょう。実際、リサが随分と仲良く付き合っていたようですから」
愛原:「ああ。何か、よくその話をしてくれましたねぇ……」
善場:「突然いなくなったそうですよ」
愛原:「は?」
善場:「リサの話によれば、“トイレの花子さん”、突然いなくなったそうです」
愛原:「そ、そうなんですか?」
高橋:「呆然としてましたよ、あいつ。最近の話じゃ、幽霊らしからぬ、随分と人間臭いキャラになってたらしいですから」
愛原:「な、何だろう?成仏したのかな?それとも、誰か除霊した?」
確か彼女が未練を残していた理由は、白井伝三郎への復讐を果たしていないからだった。
“トイレの花子さん”の正体は、50年ほど前に、イジメを苦にして自殺した女子生徒の幽霊だ。
名前を斉藤早苗さんという。
彼女はイジメ加害者の子供達をあの世に送ることで、復讐とした。
ところが、加害者の1人であった白井伝三郎だけは生涯独身であった為に子供がおらず、“花子さん”の復讐が達成できないままとなっていた。
しかし、“花子さん”は達成しないと成仏できないという。
その為、50年も幽霊を続けざるを得なかったのである。
それが急にいなくなったということは、もしかして、白井が死んだ?
善場:「どちらもハズレですよ。この前、その“トイレの花子さん”の遺骨が盗まれ、その後に『新12番』の存在が噂されるようになったと言いましたね?」
愛原:「そうですね。……えっ?」
善場:「恐らく、無理やり『生き返らせられた』状態になったのでしょう。その為、幽霊としては存在できなくなったのでしょうね」
愛原:「そんなことができるんですか!?」
善場:「私は『新12番』はTウィルスやGウィルスを宿したリサ・トレヴァーではないと考えています。恐らく、特異菌を使用したものと考えています」
愛原:「特異菌って、死体を生き返らせられるんですか?」
善場:「はい。実際、その報告例があります。ただ、死亡前に特異菌に感染し、それがたまたま100%適応できていた為に起きた奇跡に近い状態だったとされています。しかも、死亡してすぐに蘇生した形です。しかし、どうも白井は遺骨から蘇生させるのに成功したようです」
愛原:「どうやって!?」
善場:「それが分かれば苦労はしません。白井本人を捕まえるかしませんと。それに、まだ直接『新12番』の目撃例は1回もありません。現時点では、まだ本当に噂の段階なんですよ」
しかし、ガチだろうな。
“花子さん”の遺骨が盗まれた→幽霊としての“花子さん”が消えた→新型BOW『新12番』存在の噂とくれば……。
ヘタに仏法は介入させない方が良いか。
どうやら害折……もとい、街折または訪問折伏の途中または帰りらしい。
今の地元にも日蓮正宗寺院はあるが、そこの信徒さん達とは会ったことがない。
なりふり構わぬ折伏が良いとは思えないが、しかし名前を売ること自体が悪いとも思えないのである。