[11月16日09:00.東京都墨田区・敷島エージェンシー 敷島孝夫&井辺翔太]
「おはようございます」
事務所に出勤してきた井辺が事務所に入った。
すると、
「あっ、おっはよー!」
「も、萌さん!?」
事務所内の洗面台で入浴している妖精型ロイドの姿があった。
井辺が入室してきても、お構いなしだ。
「一応、私は男性なんですから、もっとこう……」
「いいんですよー。翔太さんなら、もっとボクの裸体を見てもー」
「いや、そういうわけにはいきません!」
「何だ、何の騒ぎだ!?」
そこへ、敷島が事務所に入ってきた。
すると、
「きゃーっ!変態!ド変態!der変態!!」
「うわっ!」
敷島には厳しいロイドだった。
お湯ぶっかけられるわ、物投げつけられるわ……。
[同日10:00.同場所・応接室 敷島孝夫]
敷島と妖精型ロイド“萌”は、芸能雑誌の取材を受けていた。
「名前の萌は、彼女の型番であるMOE-409から取りました」
「なるほど、それで萌ちゃんですか」
「フフーン♪世界初の妖精ロイド、萌でーす!世界でただ一機だけのプレミアですよ、ボクは!」
「……設計図はあるので、デイライト・コーポレーションさんで量産化の計画が立てられています」
「なるほど」
「KR団からの秘密研究所から出た時には、まだ名前も性別も設定されていませんでしたが、うちのアリスが性別を正式に“女”に設定しました。と、同時に14歳くらいの少女に年齢設定を変えております。ですので、体付きも、もう少し女の子っぽくしたんですが……」
「カワイクなったでしょー?ボクー」
「一人称が『ボク』のままなんです……」
「な、なるほど。いわゆる、『ボクっ娘』というヤツですな。それで、敷島エージェンシーさんとしては、どのようなプロデュースを?」
「まずですね……」
シーという仮名を与えられていた妖精型ロイドは、新たに萌と名付けられ、敷島エージェンシーに引き取られた。
KR団のテロ活動に嫌気が差して引退した吉塚広美は、引退しても尚、KR団のテロ活動を何としてでも阻止しようと考えていた。
バージョン400を何らかのテロ活動に使うことは、既に知っていたらしい。
そこで、それを阻止するシステムを自分の作品である萌に仕掛けていたと思われる。
バージョン400が特別指令を受けて動いた時、萌も動いた。
普通の受信機では受信できない電波も、萌は受信していたわけである。
その後、警察から“釈放”された萌は、こうして敷島エージェンシーで世話になることになったわけである。
[同日11:00.東京都内・ラジオ局 井辺翔太&MEGAbyte]
「皆さん、こんにちはー。MEGAbyteでーす!」
MEGAbyteの3人は、クリスマスライブのイベントに向けて、着々と準備を整えている。
今現在も、ラジオで告知している。
他のボーカロイド達も、それは同じである。
[同日14:00.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション・ジャパン埼玉研究所 3号機のシンディ、8号機のアルエット、アリス・シキシマ]
いつもなら敷島と一緒にいなければならないシンディが、特別に離れていた。
今、大研究室の中には上半身だけしかないアルエットがいる。
「ゴメンね……」
シンディはアルエットの右手を握って涙を浮かべた。
KR団は、やはりタダでテロを阻止されたわけではなかった。
シンディがアルエットのテロ起動機器を引きちぎったことで、動力部分全てがブレイクダウンしてしまった。
つまり、壊れてしまったのである。
しかし、そこは不幸中の幸い。
設計図が手に入っていたことで、修理は可能とされた。
「シンディ、まだいたの?早くタカオのオフィスに戻って、引き続きタカオを“監視”しなさい」
研究室にアリスが入って来る。
「はい……。ドクター、申し訳ありませんでした……」
「しょうがないよ。相手はテロ組織だもの。タダではさすがに……と思ってたけど、正にそうだった。でも、奴らの誤算は、アルエットの設計図がアタシ達の手の中にあるってことよ」
「でも……」
「天才のアタシに任せなさい!あのプロフェッサー平賀でさえ、エミリーの新しいボディを造ったのよ!アタシはもっと技術的に高度なアルエットの体、完璧に造ってみせるわよ!」
「はい……」
KR団が完全崩壊したとはいえ、まだ100パー安全になったわけではない。
残党がまだ存在しているかもしれないし、KR団の意向を受けた新たなテロ組織があるかもしれない。
人間が人間のようなロイドを作ることに、宗教的な観点から反対を表明している宗教団体もある。
引き続き、警戒はしていなければならない。
「大丈夫。任セテ下サイ」
「七海チャンニ、キスシテ貰ッタ以上ハ!命ニ換エテモ!」
一応、臨時警備としてアリスの力作、バージョン5.0の兄弟が配置されることになった。
バージョン・シリーズの最新モデルであり、赤色塗装のマリオと、緑色塗装のルイージである。
それまでの4.0と違い、スマートな体型になり、その分、動きも素早い。
メカっぽさを色濃く残したロイドのようだ。
特に弟機のルイージは平賀の力作、メイドロイドの七海に惚れており、何かしらエールを貰ったもよう。
「……ドクター、もう1度考え直してください。アタシの方がよっぽど役に立つと思います」
「ソンナ、シンディ様!?」
「我々ノ、ドコガ役立タズダト!?」
「……何かあった時は、頼むかもしれないわね。ま、これでもアタシの力作だから」
「そうでしたね。お前達!全力でドクターとこの研究所をお守りするんだよ!?特にアルエットに何かあったら……分かってるよな?」
シンディは最後、両目をギラッと光らせてバージョン兄弟に激を送った。
「アラホラサッサー!」
「ホラサッサー!」
当面のアリスの目標は、アルエットの修理というわけである。
[同日17:00.宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館 1号機のエミリー]
記念館のエントランスホールには、エミリーが在館中、この時間にグランドピアノを弾くように設定されている。
時にはシンディもやってきてフルートを吹いたり、アルエットが稼働していた頃はヴァイオリンと協奏していたこともあった。
吹奏楽団がやってきて一緒に演奏したこともあるし、MEGAbyteなどのまだ新人のボーカロイドがやってきて、エミリーのピアノに合わせて歌うこともある。
アルエットのことが心配ではないわけではない。
しかし拠点が仙台である為、たまに上京する平賀に付いて、その時ついでに会えるだけである。
エミリーを最初は怖がっていたアルエットだが、最後は一緒に手を繋いだりするくらいまで懐いてくれた。
毎夕、自分のテーマ曲を最初に弾くのが日課のエミリーだが、アルエットが再稼働するまで、アルエットのテーマ曲を最初に弾くようにしている。
[同日21:00.東京都墨田区 敷島エージェンシー 敷島孝夫]
{「……鷲田だが、いやー、参ったよ、敷島さん。今度は、とある外国船籍の貨物船からテロ・ロボットの密輸が発覚した。悪いが、キミんとこのロボット……もとい、シンディ君を貸してはくれないか?」}
「タダというわけにはいかないので、その点だけお願いしますよ?」
未だにロボット・テロの余波が残っているらしく、敷島の『裏稼業』卒業まではもう暫くかかるようである。
因みに今のところ、まだアルエット以外のマルチタイプ量産化計画は実現していない。
「おはようございます」
事務所に出勤してきた井辺が事務所に入った。
すると、
「あっ、おっはよー!」
「も、萌さん!?」
事務所内の洗面台で入浴している妖精型ロイドの姿があった。
井辺が入室してきても、お構いなしだ。
「一応、私は男性なんですから、もっとこう……」
「いいんですよー。翔太さんなら、もっとボクの裸体を見てもー」
「いや、そういうわけにはいきません!」
「何だ、何の騒ぎだ!?」
そこへ、敷島が事務所に入ってきた。
すると、
「きゃーっ!変態!ド変態!der変態!!」
「うわっ!」
敷島には厳しいロイドだった。
お湯ぶっかけられるわ、物投げつけられるわ……。
[同日10:00.同場所・応接室 敷島孝夫]
敷島と妖精型ロイド“萌”は、芸能雑誌の取材を受けていた。
「名前の萌は、彼女の型番であるMOE-409から取りました」
「なるほど、それで萌ちゃんですか」
「フフーン♪世界初の妖精ロイド、萌でーす!世界でただ一機だけのプレミアですよ、ボクは!」
「……設計図はあるので、デイライト・コーポレーションさんで量産化の計画が立てられています」
「なるほど」
「KR団からの秘密研究所から出た時には、まだ名前も性別も設定されていませんでしたが、うちのアリスが性別を正式に“女”に設定しました。と、同時に14歳くらいの少女に年齢設定を変えております。ですので、体付きも、もう少し女の子っぽくしたんですが……」
「カワイクなったでしょー?ボクー」
「一人称が『ボク』のままなんです……」
「な、なるほど。いわゆる、『ボクっ娘』というヤツですな。それで、敷島エージェンシーさんとしては、どのようなプロデュースを?」
「まずですね……」
シーという仮名を与えられていた妖精型ロイドは、新たに萌と名付けられ、敷島エージェンシーに引き取られた。
KR団のテロ活動に嫌気が差して引退した吉塚広美は、引退しても尚、KR団のテロ活動を何としてでも阻止しようと考えていた。
バージョン400を何らかのテロ活動に使うことは、既に知っていたらしい。
そこで、それを阻止するシステムを自分の作品である萌に仕掛けていたと思われる。
バージョン400が特別指令を受けて動いた時、萌も動いた。
普通の受信機では受信できない電波も、萌は受信していたわけである。
その後、警察から“釈放”された萌は、こうして敷島エージェンシーで世話になることになったわけである。
[同日11:00.東京都内・ラジオ局 井辺翔太&MEGAbyte]
「皆さん、こんにちはー。MEGAbyteでーす!」
MEGAbyteの3人は、クリスマスライブのイベントに向けて、着々と準備を整えている。
今現在も、ラジオで告知している。
他のボーカロイド達も、それは同じである。
[同日14:00.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション・ジャパン埼玉研究所 3号機のシンディ、8号機のアルエット、アリス・シキシマ]
いつもなら敷島と一緒にいなければならないシンディが、特別に離れていた。
今、大研究室の中には上半身だけしかないアルエットがいる。
「ゴメンね……」
シンディはアルエットの右手を握って涙を浮かべた。
KR団は、やはりタダでテロを阻止されたわけではなかった。
シンディがアルエットのテロ起動機器を引きちぎったことで、動力部分全てがブレイクダウンしてしまった。
つまり、壊れてしまったのである。
しかし、そこは不幸中の幸い。
設計図が手に入っていたことで、修理は可能とされた。
「シンディ、まだいたの?早くタカオのオフィスに戻って、引き続きタカオを“監視”しなさい」
研究室にアリスが入って来る。
「はい……。ドクター、申し訳ありませんでした……」
「しょうがないよ。相手はテロ組織だもの。タダではさすがに……と思ってたけど、正にそうだった。でも、奴らの誤算は、アルエットの設計図がアタシ達の手の中にあるってことよ」
「でも……」
「天才のアタシに任せなさい!あのプロフェッサー平賀でさえ、エミリーの新しいボディを造ったのよ!アタシはもっと技術的に高度なアルエットの体、完璧に造ってみせるわよ!」
「はい……」
KR団が完全崩壊したとはいえ、まだ100パー安全になったわけではない。
残党がまだ存在しているかもしれないし、KR団の意向を受けた新たなテロ組織があるかもしれない。
人間が人間のようなロイドを作ることに、宗教的な観点から反対を表明している宗教団体もある。
引き続き、警戒はしていなければならない。
「大丈夫。任セテ下サイ」
「七海チャンニ、キスシテ貰ッタ以上ハ!命ニ換エテモ!」
一応、臨時警備としてアリスの力作、バージョン5.0の兄弟が配置されることになった。
バージョン・シリーズの最新モデルであり、赤色塗装のマリオと、緑色塗装のルイージである。
それまでの4.0と違い、スマートな体型になり、その分、動きも素早い。
メカっぽさを色濃く残したロイドのようだ。
特に弟機のルイージは平賀の力作、メイドロイドの七海に惚れており、何かしらエールを貰ったもよう。
「……ドクター、もう1度考え直してください。アタシの方がよっぽど役に立つと思います」
「ソンナ、シンディ様!?」
「我々ノ、ドコガ役立タズダト!?」
「……何かあった時は、頼むかもしれないわね。ま、これでもアタシの力作だから」
「そうでしたね。お前達!全力でドクターとこの研究所をお守りするんだよ!?特にアルエットに何かあったら……分かってるよな?」
シンディは最後、両目をギラッと光らせてバージョン兄弟に激を送った。
「アラホラサッサー!」
「ホラサッサー!」
当面のアリスの目標は、アルエットの修理というわけである。
[同日17:00.宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館 1号機のエミリー]
記念館のエントランスホールには、エミリーが在館中、この時間にグランドピアノを弾くように設定されている。
時にはシンディもやってきてフルートを吹いたり、アルエットが稼働していた頃はヴァイオリンと協奏していたこともあった。
吹奏楽団がやってきて一緒に演奏したこともあるし、MEGAbyteなどのまだ新人のボーカロイドがやってきて、エミリーのピアノに合わせて歌うこともある。
アルエットのことが心配ではないわけではない。
しかし拠点が仙台である為、たまに上京する平賀に付いて、その時ついでに会えるだけである。
エミリーを最初は怖がっていたアルエットだが、最後は一緒に手を繋いだりするくらいまで懐いてくれた。
毎夕、自分のテーマ曲を最初に弾くのが日課のエミリーだが、アルエットが再稼働するまで、アルエットのテーマ曲を最初に弾くようにしている。
[同日21:00.東京都墨田区 敷島エージェンシー 敷島孝夫]
{「……鷲田だが、いやー、参ったよ、敷島さん。今度は、とある外国船籍の貨物船からテロ・ロボットの密輸が発覚した。悪いが、キミんとこのロボット……もとい、シンディ君を貸してはくれないか?」}
「タダというわけにはいかないので、その点だけお願いしますよ?」
未だにロボット・テロの余波が残っているらしく、敷島の『裏稼業』卒業まではもう暫くかかるようである。
因みに今のところ、まだアルエット以外のマルチタイプ量産化計画は実現していない。
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