報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「雨の出発」

2015-06-12 00:07:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月12日17:25.天候:雨 JR仙台駅・新幹線ホーム 平賀太一&エミリー]

 外は傘が必要な程の雨が降っていた。
 それでも新幹線のダイヤに乱れは無く、平賀とエミリーを乗せた“やまびこ”152号は、ほぼ定刻通りに発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

「夕食は駅弁か……。旅情はあるけど、味気無いなぁ……」
 平賀はそう呟きながら、仙台駅で購入した駅弁を開けた。
 こういう時、シンディとか敷島なら何か気の利いたセリフでも飛んでくるのだろうが、基本的に必要なことしか喋らないエミリーは黙って頷くだけだ。
 マルチタイプ1号機のエミリーこそ、南里志郎博士の若かりし頃に愛した女性を最もよく再現しているとされている。
 それなのに、頑なにロボット喋りのままにさせているのは、“不気味の谷現象”を越えた彼女に間違いを起こさない為だと平賀は思っている。
 思っている、というのは、ついに南里はその理由を明かさないまま急逝してしまったからだ。
 1番近くにいた弟子として、そう考えただけである。

〔「……終点、東京には19時24分、午後7時24分の到着です。尚、次の福島で、後から参ります“はやぶさ”“こまち”26号の通過待ち合わせを行います。……」〕

 何も無い時、エミリーなどはバッテリー温存の為、スリープ状態に入る。
 今、正にエミリーが目を閉じてその状態に入っているということは、逆に今は異状が発生していないということだ。
 これもまた、安心感の1つである。

[同日18:45.東京都江東区菊川 敷島孝夫&シンディ]

「社長、下にタクシーが着きましたよ」
 窓の外、新大橋通りを見ていた一海が敷島に声を掛けた。
「おーう。じゃあ、行ってくる」
「お気を付けて」
 すぐ近くではシンディが、
「行って来るからねぇ……。仲良くしてるのよー」
 リンのトレードマークである、頭の大きな白いリボンを結び直していた。
「もっちろん!」
 リンは片目を瞑って、右手の親指を挙げた。
 敷島とシンディはビルの1階に下りると、すぐ目の前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「東京駅までお願いします」
「はい」
 タクシーが走り出す。
「平賀先生達は順調かな?」
「ええ。姉さんのGPSと列車ダイヤと照合してみると、秒単位での誤差しか出ていないね」
「そうか。そういえば、久しぶりじゃないか?エミリーと一緒に行動するのって?」
「そうねぇ……。一緒に歩くくらいならそんなブランクも無いけど、何か作戦で動くのは……そうだねぇ……。メモリーはあると思うけど、検索だけで数分掛かりそうだね」
「そんなに?」
「まあ、前期型からのメモリーもあるから……」
「それもそうか」
 前期型と見た目の設計は殆ど変わっていないのだが、心なしか目付きが変わったと言う者もいる。
 前期型が殺人も厭わない冷たい目をしていたのだが、後期型である今はだいぶ穏やかな目付きになったと。
 敷島にはどちらかというと、前期型は快楽殺人者のような、イッちゃった目をしていたというイメージなのだが。
 前期型のシンディはどちらかというと、あまり銃火器は使わず、接近戦によるナイフを使用した攻撃法を取ることが多かった。
 どうしても間合いが取れないという時だけ、離れた所から右手に仕込まれたライフルを使う程度だ。
 これは彼女が旧ソ連時代、政敵などの暗殺を主に引き受けていた頃の名残だ。
 対してエミリーは、マシンガンやショットガンをよく使う。
 エミリーの昔の役目は、反乱分子の粛清だからだ。
 一応、右足の脛には大型ナイフを収納できるスペースが後期型になってもあるが、エミリーはそこに折り畳み傘なんか入れている。
 シンディの場合は……。
「はい」
「何で、ダーツが入ってるんだ???」
 ダーツが何本か入っていた。
 敷島は、それ以上突っ込まないことにした。
 確か、アリスがナイフの代わりに仕込んだと言っていたのを思い出したからだ。
(あいつの発明か何かだろうから、ロクでもない物且つとんでもない効果をもたらすと見た)
 そう思ったので、話題を変えた。
「そういえば、相変わらずボーカロイドの中ではリンとレン……特にリンを気に掛けてるな?何か気になることでもあるのか?」
「別に。ただ、あのコ達、姉弟でしょう?私もエミリーとは姉妹だから、何となく親近感があるだけよ」
「なるほど。南里所長がサプライズで作ったのがレンだからな。確か、リンとレンだけは平賀先生も手伝っているはずだな……」
「というより、殆ど助手でしょう?ドクター南里の作る所をほぼ見学していて、部品や工具の手渡しくらいしかやってなかったって話よ?」
 その頃の平賀はもちろん既に大学院を卒業し、博士号を取得していた。
 すぐに引き続き南里に師事し続けたわけだが、その気になればボーカロイドを1人で作れる技術は持ち合わせていたとされる。
 積極的に制作に関わらなかったのは、ボーカロイドの存在意義について見出せなかったからだと敷島はかつて本人から聞いた。
 メイドロボットのような実用的なものを優先的に制作するべきで、歌って踊るだけのボーカロイドを制作する意味は無いという考えだった。
 その後、リンとレンのプロデュースをしていた奈津子、更にその後やってきた敷島のプロデュースのおかげで、考えを改めている。
「ロイドの存在を世間にもっと良く知ってもらう為に、ボーカロイドというのもまた有りなのだろう」
 といった感じに。

 これから海に向かうが、今のマルチタイプ達は海水に対する耐性はあるし、一応現地でそれなりの装備をしていくつもりである。
「まだドクター平賀、私のことを全部信用してくれていない。前期型の所業からしてみれば、しょうがないけど。だから、この任務で信用勝ち取らないと、だよね」
 シンディはこのように、目標を語った。
「? ああ、そうだな」
 この時は、どうしてシンディがそんなこと言ったのか、敷島には理解できなかった。

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