報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「栗原蓮華戦」(※便宜上のスピンオフであり、愛原リサは登場しません)

2024-03-14 21:42:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月8日20時00分 天候:晴 静岡県富士宮市上条 国道469号上]

 

 栗原蓮華「……所以者可 若佛久住於世 薄徳之人 不種善根 貧窮下賤……」

 日蓮正宗大石寺の境内を横切る国道469号線。
 車が時折通過するだけで、歩道を歩く者は皆無に等しい。
 月明りに自らの銀髪を反射させ、涙を流しながら勤行をする栗原蓮華。
 かつて人間だった頃は、この宗派の信徒だった。
 鬼となってしまった今、彼女はもう荘厳な境内に入ることはできない。
 蓮華は三門に向かって手を合わせていた。
 そして、経本無くして妙法蓮華経如来寿量品第十六を上げていた。
 人間だった頃の記憶が戻ったのだろうか?

 高野芽衣子「鬼がお寺に向かってお経を上げるなんて、もうどこからツッコんでいいか分かんないわね」

 善場から『エイダ・ウォンのコピー』だと言われた高野は、大石寺の第2バスターミナルに止められたタクシーから降りた。
 タクシーの種別表示板には『貸切』とある。
 ベタなセダンタイプのタクシーであるが、そのリアシートに乗っていたのは高野だけではなかった。

 愛原公一「日蓮正宗の曼陀羅本尊には、鬼子母神の名前も書かれているというぞ?鬼でも救う気概はあるようじゃの」
 高野「逆に本物の鬼の方が救われたでしょうよ。元人間の鬼は救い難し、ね」
 公一「なるほど。日蓮大聖人とて、鬼化した人間のことまでは想定できんかったか」
 高野「そういうこと。じゃあ、行ってくるわね」
 公一「うむ。行ってこい。……すまんが、しばらくここで待っててくれんかの?」
 運転手「は、はい」

 高野は荷物を持って、タクシーを降りた。
 そして、三門とは反対方向に歩いて行く。

 高野「あの建物がよ良さそうね」

 総一坊の近くまで来ると、フックショットを取り出し、それを使って一気に屋根の上まで飛ぶ。
 まるで、忍者のようだ。

 公一「フフ……。本物のエイダ・ウォンのようじゃな」

 公一もタクシーを降り、第2ターミナル内にある喫煙所でタバコを吸いながらその様子を見ていた。
 屋根の上に上がった芽衣子は、持っていた黒いケースの中から狙撃用のライフルを取り出した。
 スコープで位置関係を確認する。

 高野「ここからでも十分狙えそうね」

 スコープの照準は、蓮華の後頭部を狙っている。
 銃弾は銀製のもの。
 少なくとも海外では、銀製の剣で人狼や吸血鬼を斬り倒した話がある。
 高野は銀製の銃弾をリロードし、蓮華の後頭部を狙った。

 高野「さようなら」

 高野がトリガーを引こうとした時だった。
 ヒュウッと突然、突風が吹いてくる。
 それくらいは何でもないスナイパーであるが、目の前に古新聞の切れ端が飛んで来た。
 それで一瞬、視界を遮られる。

 高野「しまった!」

 それで手元が狂ったまま発砲してしまった。
 その弾は蓮華の頭ではなく、左肩に命中した。

 蓮華「南無妙法れっ!?」

 衝撃で車道に飛ばされる蓮華。
 そこへ大型トラックがやってくる。
 急ブレーキと急ハンドルで避けようとしたからか、横転してしまった。
 荷台に積んでいた鉄パイプが大きな金属音を立てて転げ落ちる。

 蓮華「キッ!」

 蓮華は回復の遅い左の肩を気にしつつも、トラックの荷台から落ちた重い鉄パイプを右手だけで持つと、弾が飛んで来た方向へと跳んだ。

 高野「本部!こちら高野!蓮華の狙撃に失敗した!直ちに撤収する!」

 そして無線機で連絡して、反対側に向かった。
 反対側から地上に飛び下りるのと、蓮華が屋根まで跳んで来たのは同時だった。

 蓮華「私を殺そうとしたヤツはどこだ!?出てこい!!」

 怒り心頭で叫ぶ。

 公一「こりゃマズいことになったな」

 公一はまた車に乗り込んだ。

 公一「登山事務所の駐車場まで回してくれ」
 運転手「は、はい」

 タクシーは一旦、第2ターミナルから公道へと出る。
 そして、境内を回り込んで、登山事務所の駐車場へと向かった。

 蓮華「そこかぁぁぁぁぁっ!!」

 蓮華は牙を剥き出しにし、鉄パイプを振るいながら追って来た。

 公一「早く乗れ!一旦撤収じゃ!」
 高野「了解!」

 高野はリアシートに飛び乗った。

 公一「急いで出してくれ!取りあえず、富士宮駅の方向じゃ!」
 運転手「わ、分かりました!」

 タクシーは登山事務所の駐車場を出た。
 そして交差点を右折し、参道の下り坂を進む。

 高野「運転手さん!後ろから鉄パイプが飛んで来ます!反対車線に出て!」
 運転手「えっ!?いや、しかし、対向車が!」
 蓮華「うらぁぁぁぁぁっ!!」

 蓮華が鉄パイプをブン投げた。
 だがそれはタクシーではなく、対向車線に突き刺さった。
 と、そこへ対向車がやってきて、危うく刺さりそうになる。

 高橋「うわっ!?」

 その対向車とは、愛原達の車であった。

 愛原「な、何だ!?何が飛んで来た!?」

 愛原が降りて、それを確認しようとした時だった。

 蓮華「きゃはははははは!!」

 狂ったような笑いを浮かべて、蓮華が愛原に最接近した。

 愛原「うわっ、蓮華!?」
 蓮華「あー?」

 蓮華は突き刺さった鉄パイプを引き抜いて、肩に掛けた。

 高橋「おい、コラ!その人は愛原先生だぞ!!」

 すると蓮華、金色の瞳を見開いて愛原を見据える。

 蓮華「ア……イ……ハ……ラ……?うっ……!」

 蓮華は頭を押さえてフラついた。
 そして、愛原の所に倒れ込んで来る。

 高橋「先生!危ない!こ、こら!先生から離れろ!」
 愛原「くっ!高橋、車からロープ持って来い!それと、猿轡になるようなものもだ!」
 高橋「ええっ!?殺さないんスか!?」
 愛原「生け捕りにして、BSAAに引き渡す!早くしろ!で、車に乗せて大石寺のなるべく霊験あらたかな場所へ行くんだ!そこで鬼の力は弱まる!……と思う」
 高橋「一瞬、中二病っぽいなと思いましたがね!」

 高橋は車からロープと、何故かギャグボールを持ってきた。

 愛原「蓮華がまだ人間だった頃、リサが大石寺を気持ち悪そうにしていたから、もしかしたらと思ったんだ」
 高橋「そういうことでしたか!」

 意識が朦朧としている蓮華を拘束した愛原と高橋は、彼女を車の後部座席に押し込み、車を発進させた。

 愛原「もしもし!?善場主任ですか!?愛原です!緊急事態発生!蓮華を捕獲しました!!」

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