報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「雪の週末」 3

2023-10-24 20:25:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日15時45分 天候:小雪 東京都墨田区菊川2丁目 某スーパー]

 行きつけのスーパーでは、福引大会が行われている。
 高橋は見事に玉砕したが、私とリサはどうだろうか。
 一応、高橋の為に言っておくと、ハズレのティッシュの中には、このスーパーで使えるクーポン券が入っており、ただのハズレというわけでもない。
 私は2回引ける。
 普通の福引券と補助券で。
 結果は……。

 店員「残念、ティッシュです!……中に、クーポン券入ってますからね」
 愛原「はあ……」

 もう1回!

 店員「当たり~!特1等でーす!」
 愛原「特1等!?」

 泊まり掛けの航路フェリーでは、特等と1等の間の等級だ。
 しかしこのスーパーでは、どちらかというと、準1等という扱いであるようだ。
 よって商品は1等より良いものではなく……。

 店員「干物の詰め合わせです!」
 愛原「おー……!」

 真空パック詰めされた魚の干物の詰め合わせが、箱に入っている状態で渡された。
 その中身はアジの開きとか、ホッケの開きとか……。

 愛原「ちょうど魚が食べたかったんだ。明日の朝飯に食えるな」
 高橋「お任せください」

 アジの開きなら、朝食のおかずにも食べれるだろう。
 お次はリサであるが……。

 リサ「だぁーっ!」

 抽選機を勢い良く回すリサの目は、赤く光っていた。

 愛原「鬼化しとる」
 店員「残念!ティッシュです!」
 リサ「くっ……」
 高橋「先生のティッシュ、クーポン券が『缶ビール1個引換券』っスよ?」
 愛原「なにっ!?それは当たりだな!」
 リサ「に、2回目……!」
 店員「当たり~!3等賞!『洗剤の詰め合わせ』です!」
 リサ「た、食べ物じゃない……!」

 リサがもらったプレミアム抽選券は、それ1枚で3回も引けるというもの。
 しかし、リサが狙っている2等賞、国産牛の詰め合わせは……。

 高橋「リサのティッシュも、なかなかどうして当たりじゃないっスかね?」
 愛原「何かいいもの入ってた?」
 高橋「『ビーフジャーキー1個引換券』です」
 リサ「なにっ、肉!?」

 完全に鬼化したリサは、パーカーのフードを被って、辛うじて角とか長く尖った耳を隠していた。
 私と高橋のビーフジャーキーの言葉に反応して振り向いた時、左肘が抽選機に当たってしまい、それでレバーが勝手に動いてしまった。

 リサ「ああっ!?」

 それからコロンと出て来た玉は……。

 店員「残念!ティッシュです!」
 リサ「ウウウ……!」
 愛原「り、リサ!落ち着け!帰って、“鬼ころし”飲もうな!?」

 リサはマスクをしていたからいいが、そうでなかったら、鋭い鬼の牙が覗いていたところだろう。
 それより、リサが2つ目にもらったティッシュのクーポン券は……。

 高橋「今度は『ジャッキーカルパス引換券』っスよ。何だ?ティッシュのクーポン券、酒とつまみしか入れてねーの?」
 店員「い、いえ、そういうわけではありませんが……」
 愛原「このクーポン券、もう引き換えちゃっていいのかな?」
 店員「どうぞどうぞ」
 愛原「じゃあ、早いとこ引き換えに行こう。リサ、ビーフジャーキーとジャッキーカルパスだで?ある意味凄いよな?」
 高橋「狙って取れるもんじゃないっスね」

 辛い物や肉が大好きなリサではあるが、おやつはおやつで甘味が好きなリサである。
 その為、ビーフジャーキーなどは盲点であった。

 愛原「俺も缶ビール引き換えてこよう」
 高橋「それはいいっスね」

 結局、私達が引いたクジの中で、1番良いのを当てたのは私か……。

[同日16時15分 天候:曇 同地区内 愛原家3階ダイニング]

 愛原「ただいまァ」

 私達はエレベーターで3階に上がった。
 そのドアが開くと、パールが出迎えた。

 パール「お帰りなさい、先生。首尾は如何でしたか?」
 愛原「俺が引いたヤツが1番高級だったみたいだ。ほれ、『魚の干物の真空パック詰め合わせ』」
 パール「凄いですね!」
 愛原「アジの開きとか、ホッケの開きとかあるよ。明日の朝は、アジの開きで決まりだな」
 パール「平日はお米ですものね。かしこまりました」

 パールは私が引いたのが最高級だと知って、それ以上は突っ込んで来なかった。
 高橋といい、パールといい、10代は荒んだ生活をしていたのに、地頭はいいんだよな。
 まあ、それはリサも同じだが。
 リサの場合は上野医師が父親と思われ、医師の娘なのだから、そりゃ地頭は良いだろうと皆納得している。
 リサは国産牛肉をゲットできなかった悔しさで黙りこくっていたが、それでもゲットした商品のビーフジャーキーとジャッキーカルパスを大事そうに抱えていた。

 リサ「これは食後のデザートにする。“鬼ころし”を飲みながら食べるんだ」

 リサは自分に言い聞かせるように言った。
 そうすることで、目当ての商品を当てられなかった悔しさがトリガーとなる暴走を自分で抑えようとしているのだろう。
 実に涙ぐましいことだ。

 パール「メインのすき焼きの材料は買ってきて頂けましたか?」
 愛原「ああ。さすがに予算内に抑えようとすると、国産牛は無理だな。豚肉とアメリカ産牛肉でカンベンしてくれ。その代わり、多目に買ってきたから」
 パール「かしこまりました」

 要は質より量だな。
 量を少なくすれば、予算内で国産牛を買うことはできた。
 しかし、それだとリサの腹の虫を鎮めることはできないだろう。
 リサもそれを知ってて、足りない肉を福引の商品で補おうとしていたわけだ。
 まあ、失敗に終わってしまったが。
 代わりに、おやつ代わりのビーフジャーキーとかは手に入ったわけだが。
 それで我慢してもらうしかない。

 リサ「部屋に戻る。御飯の時間は18時だね?」
 パール「そこは、いつも通りです」
 リサ「分かった」

 リサはまだ機嫌が直り切らない様子で、部屋に戻って行った。
 こういう時は、1人にしておいた方が良い。
 部屋で勉強するのか、それとも不貞寝するのか、それともオ○ニ○するのかは不明だが。

 愛原「俺は事務所に行って、明日の書類の準備をするよ。2人は夕飯の準備、よろしく」
 高橋「はいっ!」
 パール「かしこまりました」

 こうしてリサは4階、高橋とパールは3階、私は2階で過ごすことになった。

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