報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「グレイハウンドバス」

2016-05-19 21:19:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月15日10:00.天候:曇 アメリカ合衆国テキサス州ダラス市・グレイハウンドバスターミナル]

「ホテルのレストランでライス頼んだら、『無い』と言われたんだが?」
 敷島が愚痴るように言った。
「この辺りじゃライスは……無いかもね」
 アリスは苦笑いした。
「Japanese restaurantに行かないと無いかもね」
「マジか……。これから行く町にはあるかな?」
「いや、アーカンソー州自体がアメリカじゃ田舎だし、リトルロックも田舎町だし……」
「敷島さん、ウィキペディア日本語版のデータによると、リトルロックの人口は20万人もいません」
 と、平賀。
「マジですか!さいたま市くらいいるかと思ったのに……。20万って……上尾市ですか」
「上尾市よりも人口は少ないかもですね。熊谷市くらいかと」
「マジですか……。熊谷市にだってフランス料理のレストランくらいあるでしょうから、リトルロックシティにも日本料理の店くらい無いかなぁ……と」
「変に期待しない方がいいわよ」
 と、アリス。
「マクドナルドは確実にあるわよ」
「アメリカのマックじゃ、てりやきバーガーすら無いだろうよ」
 敷島はイラッとした様子であった。
「それにしても、10時だというのに、何でバスが来ないんだ?」
「グレイハウンドが時間通りに走ること自体が珍しいわよ。10分前後のズレでも『On time.』だから」
「さすがアリスさんは詳しいですね」
 と、鳥柴が感心するように言った。
「子供の頃、乗ったことがあるって言ったでしょ?その時なんか1時間くらい遅れてきて、さすがのじー様も呆れてたっけなぁ……」
「1時間も遅れたのか。アメリカの渋滞も凄まじいんだな」
「あー、その理由なんだけど、シンディがアタシ達の乗る予定だったバスをテロ活動で壊したからだったのよ」
「あの時は、余計なことを申し訳ありませんでした」
 シンディは深々とアリスに頭を下げた。
「余計なこと?ウィリーの命令でテロってたんだろ?」
「『出そうな杭も打つ』のがアタシのモットーだったもんで、警察の来そうな道路を破壊したのよ。その時巻き込まれた車が何台かあったんだけど、その中にバスがいて……」
「いいか、シンディ!今回は絶対にバスを攻撃するなよ!?ユーザーの俺からの命令だ!」
「わ、分かりました」
「バスで強行突入するのは、タカオの役目だもんねー?」
 アリスが笑いながら言った。
「悪かったな。今回はやんねーぞ」
 そんなことを話しているうちに、ようやくバスがやってきた。
「はーい、お待たせー!リトルロック行きのバスが出発するよー!」
 黄色の蛍光チョッキを着た白人の運転手が降りてきた。
「やっと来た……」
 敷島は溜め息をついた。

 田舎町に向かうバスということもあり、本数はそんなに多くない。
 その為、混雑もしていなかった。
 敷島は安全な運転席の後ろの席に陣取ろうとしたが、
「No!そこはダメよ!」
 と、運転手に注意された。
「え?グレイハウンドって自由席でしょ?どの路線でも?」
「敷島さん、どうやらそこは『専用席』らしいですよ」
 と、平賀。
「『専用席』?何の?」
「『優先席』ではなく、『専用席』です。障害者用の席ですよ」
「マジですか!……ちぇっ、ここの席が安全なのに……」
「だからこそ、なんでしょうね」
 と、鳥柴。
「弱者の人にこそ、安全な席に座ってもらおうという考えなんだと思います」
「……日本のバス会社に聞かせてあげたいな」
 危険な前扉の後ろ数列席を『優先席』にしている、某空港リムジンバスを思い出した敷島だった。
 仕方が無いのでもう少し後ろ、バスの真ん中辺りの席にする。
「運転手さん、ここならいい!?」
 敷島がドア付近にいる運転手に大声で聞く。
 シンディが少し運転手に近づいて、運転手に英語で聞いた。
 すると運転手は、親指を上に挙げて頷いた。
 敷島とアリスが隣り合って座り、通路を挟んでその隣にシンディと鳥柴。
 敷島達の後ろに平賀とエミリーが座った。
 尚、リンとレンはダラス支社にて留守番である。

 バスは15分遅れでダラスのバスターミナルを出発した。
 出発するとすぐに運転手から、バスを利用する上での注意事項と自己紹介が行われた。
 これは日本の高速バスでも、よく行われている。
 運転手のアナウンスを、今度はシンディが敷島に和訳して伝えている。
「えっ、マジで!?」
 と、驚いたのは、バス車内の禁止事項に飲酒があること。
 つまり、車内禁煙なのはもちろんのこと、禁酒でもあるということらしい。
「まあ、グレイハウンドバスは低所得者層が利用することが多いから」
 と、アリス。
「周囲を見てみると、黒人とかヒスパニックとか多いでしょ?」
 中にはアリスのような白人もいるのだが、日本人というか……アジア系は敷島達だけであった。
 さすがに“人外”の乗客は、グレイハウンドも初めてであろうが……。
「そいつらに酒を飲ませてみなよ?大暴れするに決まってるでしょう?」
「な、なるほど……。(軽く人種差別してんなー、アリス)」
 アメリカの白人達には、まだまだその思想が残っているということか。
 でもまあ、事実なのだろう。
 敷島もすぐ前に座る、ヘビー級ボクサーのような黒人乗客を見てそんな気がした。
 日本人は“名誉白人”扱いしてくれるかというと、そんなこともなく、むしろ『英語が下手な日本人』もかなりバカにされる。
 敷島が先ほど、バスターミナルの職員にリトルロック行きのバスの乗り場を自分なりの英語で聞いたが、日本語に聞こえたらしく、かなり小馬鹿にした態度であった。
 アリスがちゃんとしたネイティブの英語で聞き直すと、今度は素直に答えてくれたのだが。

〔「バスの乗客同士は一時を共にする仲間なので、互いにリスペクトしコミュニケーションを深め、車窓に映るアメリカの偉大な風景を一緒に楽しみましょう!」〕

「おい、シンディ。運転手、そんなこと言ったのか?」
「そうよ」
 敷島、今度はアリスを見る。
「ノリのいいドライバーに当たったようね」
 んでもって、今度は後ろに座るエミリーと平賀を見た。
「シンディの・日本語訳は・大体合って・います」
 エミリーは微笑を浮かべて応えた。
 平賀も、
「敷島さん、アメリカの公共交通機関ではたまにあることですよ」
 と、言った。
「日本のバスが硬すぎるのよ」
「いや、オマエね……」
 敷島はアリスの言葉に呆れた。
「因みに、リトルロックの到着時間は何時だって?」
「17時30分って言ってたわね」
「7時間半も掛かるのかよ……」
「大丈夫、ちゃんと食事休憩は取るってさ。要はそれを含めての所要時間だから」
「いや、当たり前だろ!」
 とんでもないルートを充てられたと思った敷島だった。

 バスはそんな敷島の動揺をよそにハイウェイに入ると、グングンと速度を上げて行った。

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