[6月19日15:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 敷島孝夫、初音ミク、シンディ]
やっとミクの本格的な修理も終わり、敷島が車でミクを迎えに来た。
そして、研究所を出て事務所に向かう。
「これでやっと明日からミクも復帰だな」
「ありがとうございます!わたし、頑張ります!」
「それで……復帰のタイミングなんだけども……」
「はい!」
「明日、東京・八王子のショッピングセンターで、MEGAbyteの3人がミニライブを行う。そこにミクがゲリラ出演するというものだ」
「あらあら、大注目ね」
「いいんですか?」
「いいのいいの。関係者とは話が付いてる。ちょうど十条達夫博士からミクの修理代の請求書も来たし、修理代金を持って行くついででもある。……あ、いや、ミクの復帰イベントのついで、と言った方がいいかな」
「結局、ドクター十条……達夫、アルエットが回収できずじまいだったわね」
「何かの手違いがあったのかもしれない。もし何だったらシンディ、お前が回収しに行ってくれないか?データはもう入力されてるだろう?」
「えっ、アタシが……?」
「どうした?難しい作業じゃないだろう?」
「そ、そうだけど……。(まずい。ヘタしたら、レイチェルと鉢合わせに……!)」
「何か問題か?」
「あ、あの……7号機のレイチェルはどうするの?あれ、ドクター十条伝助のなんでしょ?アタシと鉢合わせになったら、間違い無く激戦になるよ?」
ミクが7号機のレイチェルによって救出されたことは敷島も聞いていた。
“ユーザー”である十条伝助の命令ではボーカロイドは発見次第、破壊しても良いとの許可が出ているため、そうしようとしたのだ。
だが、ユーザーよりも強い権限のある“オーナー”の十条達夫により、その命令が中止され、逆に救出の命令が下されている。
「どうしたんだ?いつものお前らしくないぞ?確かに、かつての姉妹と戦うのは気が進まないだろうが……」
「……もしかして、そのレイチェルさんはシンディさんよりも強いんですか?」
ミクがシンディの顔を覗き込んで言った。
「……多分、強さは私と互角だと思う。同型機だからね。ただ、私達は7人姉弟だというのは知ってるよね?」
「何を今さら……」
8号機のアルエットは7号機までのシリーズのフルモデルチェンジという扱いだが、製作者があのトリオ(南里志郎、十条伝助、ウィリアム・フォレスト)とは違うため、連番にはなっていても、シンディにはあまり妹という感じがしないという。
実際会ってみなければ分からないことだが。
強いて言うなら実妹というより、従妹という存在かもしれない。
「私達の中で、人間を殺した数はレイチェルが1番少ない」
「なら、大丈夫じゃないか」
「壊したロボットの数は、私達の中で1番多い」
「は?」
「それが何を意味しているか分かる?」
「あー……何だ?つまり、攻撃力は強い……わけだよな。器用だってことか?」
「5号機のキールは、1番ロボットを壊した数は少ない」
「んん?」
シンディは言わなかったが、1番人間を殺した数が多いのはシンディ本人だ。
「確かに攻撃力は強い。遠くからロボットだけ狙撃するのが得意だってことよ」
「そういうことか」
「仙台の大学で、記念館を狙撃して来た奴は、もしかしたらレイチェルかもしれない。現に、人間の犠牲者はいなかったから」
セキュリティロボットなど、“物”は悉く破壊されたが、“人”の死亡者はいなかった。
「そういうヤツなのよ。あいつは笑いながら……姉弟でも容赦しなかったから……」
「ん?!」
「5号機のキールを壊したのは、あのレイチェルだから……!」
「何だってー!?兄弟機を壊したのか!?」
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「『ゴメンナサーイ!兄妹ゲンカが過ぎちゃった。てへてへ』な、感じだったよ。さすがのエミリーもフリーズするほどだった」
マルチタイプのトップナンバー、“長女”として下の弟妹には厳しく接していたエミリー。
それをフリーズさせるほどだった。
「……なるべくなら、関わり合いになりたくないんだけどね。本当は復元してほしくないヤツなんだよ。……って、私が言えるクチじゃないか」
本当ならマルチタイプは全て破壊した方がいいのかもしれない、とシンディは言った。
「大丈夫だ。今のお前もエミリーもボディは交換したし、綺麗な体のままだ。あとは、前期型とは180度違う用途で動いてくれればいいんだよ。学会だって、研究目的にも価値があるって公式見解なんだからな」
5号機のキールは、十条伝助が所有していたマルチタイプだとされている。
本人は否定していたが、なるほど、他のマルチタイプに破壊されたとは言えないわけである。
だがやはり思い入れはあったのか、当時の記憶を頼りに、執事ロボットを作ったわけだが……。
「もし戦いが避けられそうになかったら、全力で戦ってくれ。レイチェルは破壊しても構わん。多分、ヘタに手加減したら、付け入れられて破壊されかねないようだ」
「ええ」
「本来なら、もう既に破壊されていて存在しない型番だったんだからな。そこがエミリーやシンディとの大きな違いだよ」
[6月20日08:10.天候:晴 都営新宿線・菊川駅 井辺翔太&MEGAbyteの3人]
週末朝の地下鉄のホームは空いていた。
そこで電車を待つ3人。
一応、私服を着ているが、デビューしたてでまだそんなに売れていない3人がホームにいても、騒がれることはない。
〔まもなく1番ホームに、京王線直通、急行、高尾山口行きが長い10両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください。この電車は京王新線内、笹塚まで各駅に停車します〕
トンネルの方から轟音を立てて、京王電鉄の車両がやってくる。
これから、いかにも京王線に向かうという気持ちになる。
〔1番線の電車は、京王線直通、急行、高尾山口行きです。京王新線、笹塚まで各駅に停車します。きくかわ〜、菊川〜〕
電車に乗り込む4人。
「適当に過ごしてください。バッテリーを温存しておくのも良いでしょう」
と、井辺は言った。
〔1番線、ドアが閉まります〕
京王電車のドアチャイムはJR東海のそれと似ているという。
電車は再び暗闇のトンネルの中に入った。
〔「次は森下、森下です。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は同じく、右側です」〕
Lilyが高身長の井辺を見上げて言った。
「ねぇ、プロデューサー。この電車だと、八王子まで行かないよ?」
「ええ。もちろん、途中で乗り換えます。京王八王子駅の1つ手前の北野駅で、そこ行きに乗り換えできるようです。そこまで乗って行くつもりです」
「分かった」
因みに関東に住んでいる人は知っているだろうが、電車の行き先は『高尾・山口(たかお・やまぐち)』ではなく、『高尾山・口(たかおさん・ぐち)』である。
悪しからず。
やっとミクの本格的な修理も終わり、敷島が車でミクを迎えに来た。
そして、研究所を出て事務所に向かう。
「これでやっと明日からミクも復帰だな」
「ありがとうございます!わたし、頑張ります!」
「それで……復帰のタイミングなんだけども……」
「はい!」
「明日、東京・八王子のショッピングセンターで、MEGAbyteの3人がミニライブを行う。そこにミクがゲリラ出演するというものだ」
「あらあら、大注目ね」
「いいんですか?」
「いいのいいの。関係者とは話が付いてる。ちょうど十条達夫博士からミクの修理代の請求書も来たし、修理代金を持って行くついででもある。……あ、いや、ミクの復帰イベントのついで、と言った方がいいかな」
「結局、ドクター十条……達夫、アルエットが回収できずじまいだったわね」
「何かの手違いがあったのかもしれない。もし何だったらシンディ、お前が回収しに行ってくれないか?データはもう入力されてるだろう?」
「えっ、アタシが……?」
「どうした?難しい作業じゃないだろう?」
「そ、そうだけど……。(まずい。ヘタしたら、レイチェルと鉢合わせに……!)」
「何か問題か?」
「あ、あの……7号機のレイチェルはどうするの?あれ、ドクター十条伝助のなんでしょ?アタシと鉢合わせになったら、間違い無く激戦になるよ?」
ミクが7号機のレイチェルによって救出されたことは敷島も聞いていた。
“ユーザー”である十条伝助の命令ではボーカロイドは発見次第、破壊しても良いとの許可が出ているため、そうしようとしたのだ。
だが、ユーザーよりも強い権限のある“オーナー”の十条達夫により、その命令が中止され、逆に救出の命令が下されている。
「どうしたんだ?いつものお前らしくないぞ?確かに、かつての姉妹と戦うのは気が進まないだろうが……」
「……もしかして、そのレイチェルさんはシンディさんよりも強いんですか?」
ミクがシンディの顔を覗き込んで言った。
「……多分、強さは私と互角だと思う。同型機だからね。ただ、私達は7人姉弟だというのは知ってるよね?」
「何を今さら……」
8号機のアルエットは7号機までのシリーズのフルモデルチェンジという扱いだが、製作者があのトリオ(南里志郎、十条伝助、ウィリアム・フォレスト)とは違うため、連番にはなっていても、シンディにはあまり妹という感じがしないという。
実際会ってみなければ分からないことだが。
強いて言うなら実妹というより、従妹という存在かもしれない。
「私達の中で、人間を殺した数はレイチェルが1番少ない」
「なら、大丈夫じゃないか」
「壊したロボットの数は、私達の中で1番多い」
「は?」
「それが何を意味しているか分かる?」
「あー……何だ?つまり、攻撃力は強い……わけだよな。器用だってことか?」
「5号機のキールは、1番ロボットを壊した数は少ない」
「んん?」
シンディは言わなかったが、1番人間を殺した数が多いのはシンディ本人だ。
「確かに攻撃力は強い。遠くからロボットだけ狙撃するのが得意だってことよ」
「そういうことか」
「仙台の大学で、記念館を狙撃して来た奴は、もしかしたらレイチェルかもしれない。現に、人間の犠牲者はいなかったから」
セキュリティロボットなど、“物”は悉く破壊されたが、“人”の死亡者はいなかった。
「そういうヤツなのよ。あいつは笑いながら……姉弟でも容赦しなかったから……」
「ん?!」
「5号機のキールを壊したのは、あのレイチェルだから……!」
「何だってー!?兄弟機を壊したのか!?」
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「『ゴメンナサーイ!兄妹ゲンカが過ぎちゃった。てへてへ』な、感じだったよ。さすがのエミリーもフリーズするほどだった」
マルチタイプのトップナンバー、“長女”として下の弟妹には厳しく接していたエミリー。
それをフリーズさせるほどだった。
「……なるべくなら、関わり合いになりたくないんだけどね。本当は復元してほしくないヤツなんだよ。……って、私が言えるクチじゃないか」
本当ならマルチタイプは全て破壊した方がいいのかもしれない、とシンディは言った。
「大丈夫だ。今のお前もエミリーもボディは交換したし、綺麗な体のままだ。あとは、前期型とは180度違う用途で動いてくれればいいんだよ。学会だって、研究目的にも価値があるって公式見解なんだからな」
5号機のキールは、十条伝助が所有していたマルチタイプだとされている。
本人は否定していたが、なるほど、他のマルチタイプに破壊されたとは言えないわけである。
だがやはり思い入れはあったのか、当時の記憶を頼りに、執事ロボットを作ったわけだが……。
「もし戦いが避けられそうになかったら、全力で戦ってくれ。レイチェルは破壊しても構わん。多分、ヘタに手加減したら、付け入れられて破壊されかねないようだ」
「ええ」
「本来なら、もう既に破壊されていて存在しない型番だったんだからな。そこがエミリーやシンディとの大きな違いだよ」
[6月20日08:10.天候:晴 都営新宿線・菊川駅 井辺翔太&MEGAbyteの3人]
週末朝の地下鉄のホームは空いていた。
そこで電車を待つ3人。
一応、私服を着ているが、デビューしたてでまだそんなに売れていない3人がホームにいても、騒がれることはない。
〔まもなく1番ホームに、京王線直通、急行、高尾山口行きが長い10両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください。この電車は京王新線内、笹塚まで各駅に停車します〕
トンネルの方から轟音を立てて、京王電鉄の車両がやってくる。
これから、いかにも京王線に向かうという気持ちになる。
〔1番線の電車は、京王線直通、急行、高尾山口行きです。京王新線、笹塚まで各駅に停車します。きくかわ〜、菊川〜〕
電車に乗り込む4人。
「適当に過ごしてください。バッテリーを温存しておくのも良いでしょう」
と、井辺は言った。
〔1番線、ドアが閉まります〕
京王電車のドアチャイムはJR東海のそれと似ているという。
電車は再び暗闇のトンネルの中に入った。
〔「次は森下、森下です。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は同じく、右側です」〕
Lilyが高身長の井辺を見上げて言った。
「ねぇ、プロデューサー。この電車だと、八王子まで行かないよ?」
「ええ。もちろん、途中で乗り換えます。京王八王子駅の1つ手前の北野駅で、そこ行きに乗り換えできるようです。そこまで乗って行くつもりです」
「分かった」
因みに関東に住んでいる人は知っているだろうが、電車の行き先は『高尾・山口(たかお・やまぐち)』ではなく、『高尾山・口(たかおさん・ぐち)』である。
悪しからず。
もちろん、それはそれで凄いことだ。
私にやれと言われてできないことをなされているのだから、その部分は敬服する。
良く言えば、辛い時でも、
「私には(創価の)御本尊が付いている」
とか、
「池田先生が御照覧あそばされている」
とか念じて乗り切ったので、“創価の功徳”と呼んでいるのだろう。
だが、多分それは無い。
何故なら、もしそうなら、あの功徳を語る際にそれも含めるだろう。
んっ?さんの攻撃の手を交わす為の苦肉の策なので、創価の功徳とは関係の無いものを出したと思われる。
それを言うなら、私が先日出した仕事運のアップだって、非凡の人から見れば、
「プwwww」
といった感じだろう。
事実、山門入り口さんは、私の努力によるものとコメントされている。
ミミさんの所に、
「私の例もありますよー」
みたいな事例があれば、それはもう文句無しの“宗門の功徳”だと思うのだが。