報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発当日の夕方」

2021-09-20 20:55:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月28日17:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所→日の丸交通タクシー車内]

 出発の時間がやってきた。

 リサ:「先生、タクシー来たー」

 学校の夏制服に着替えたリサが、事務所にいる私を呼びに来る。
 取りあえず、今日は藤野の前に八王子まで。
 リサを狙うテロ組織の目を欺くと同時に、警視庁の捜査協力の為である。
 その為、明日藤野に向かうまで、経路や利用する交通機関が細かく指定されていた。
 タクシーチケットも何枚か入っていて、まずは東京駅に行くのにタクシーを利用するようになっていた。
 今回は都営バスではなく、タクシーである。

 愛原:「ああ、分かった」

 私は自分の荷物を手に取ると、事務所をあとにした。
 もちろん、機械警備を入れておくのを忘れない。

〔警備を開始します〕

 愛原:「これでよし」

 私はエレベーターに乗って1階に下りた。

 高橋:「先生、こっちです」

 タクシーは裏手の駐車場ではなく、表の新大橋通りに停車していた。
 場所は目立つが、人通りも車通りも多いので、防犯にはなる。
 ただ、テロを厭わないテロリストは、人が多かろうが少なかろうが関係無いのではないだろうか。
 どうも、わざと目立つ行動を取らせたいらしい。
 私は指定されたタクシー会社を予約したのだが、そのタクシー会社、一般タクシー車両は黄色に塗装されたものであった。
 もちろんこれ以外にも、黒塗りタクシーはある。
 だが、あえて黄色い塗装の車両を指定するようにとあった。
 黄色いタクシーは目立つ。
 ニューヨークのイエローキャブも、どうしてイエローなのかというと、遠くからでも目立つからだという。
 あえてリサに却って目立つ制服を着させ、そして目立つタクシーに乗せる。
 絶対これ、警察はテロリストを現行犯逮捕するつもりでいるだろう。
 少なくともタクシーに乗り込む際、周囲を見回してみたが、警察官らしき者の姿は無かった。
 絵恋さん達の荷物はトランクに乗せる。

 高橋:「東京駅までお願いしゃス」
 運転手:「かしこまりました。東京駅はどこに着けますか?」
 愛原:「丸の内北口の方で」
 運転手:「かしこまりました」

 車が出発する。
 車種は普通のセダンタイプであった。
 恐らく、警察は車でこのタクシーを追尾するのだろう。
 だが、元々車通りの多い通りなので、どれがその車なのかは分からなかった。
 都営バスの方がスピードを出さないので追いやすいと思うのだが、あえてタクシーに乗せるのは、バスだと目立たないからだろうか。
 それとも、テロリストがどのような手段に出るか分かっていて、バスよりもタクシーで移動させた方が良いと判断したのか……。
 少なくとも、銃は使うだろうな。
 もっとも、リサには銃は効かないことをテロリストは知ってるのだろうか。
 アメリカのオリジナルのリサ・トレヴァーの遺伝子を受け継ぐ子の1人だ。
 新興宗教団体・天長会からは『最も危険な12人の巫女たち』と呼ばれたほどである。

 高橋:「先生、後ろからサツが近づいて来ています」

 助手席に座る高橋がそう言った。
 高橋、チラチラとフェンダーミラーを見ていたが、どうやら後ろを気にしていたようである。

 愛原:「分かるのか!」

 さすがは元暴走族。
 えー、でも……。
 元暴走族程度に動きを悟られているようでは、テロリストにも気づかれるんじゃないのか。
 私もルームミラー越しに後ろを見てみたが、後ろにいるのは黒のミニバンであった。
 確かに、ミニバンタイプの覆面パトカーもあるにはあるが……。

 高橋:「昔、ヴォクシーの覆面パトに捕まったことがあるんで」
 愛原:「交通課にそんなのがあるのか」
 高橋:「いや、真っ先に別のグループのリーダーのことについて聞かれたんで、あれは少年課っスね」
 愛原:「俺達に捜査協力依頼して来ているのは、公安課辺りじゃないかと思うんだが?」

 とにかく、どの警察組織がどんな覆面車両を持っているか分からんので、高橋の勘は正しいということにしておこう。

[同日17:30.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 平日の夕方ラッシュの時間帯の為、幹線道路は渋滞が発生していた。
 その為、いつもより長く時間が掛かってしまった。

 運転手:「お待たせしました。こちらでよろしいですか?」
 愛原:「はい、お願いします」

 タクシーはレンガ造りの駅舎が目を引く、丸の内側に停車した。

 愛原:「それではタクシーチケットで払います」

 私がタクシーチケットに料金を記載している間、高橋が先に降りた。
 そして、トランクを開けてもらって、そこから荷物を降ろしたりしていた。
 ふと顔を上げると、タクシーの横を警視庁の普通のパトカーが通過していった。
 多分それは追尾車両ではなく、ただ偶然通り掛かったパトロール中のパトカーだろう。
 東京の治安はしっかり守られているようだ。
 タクシーを降りると、むあっとした熱気が襲って来る。
 日本の夏はジメジメして嫌だな。

 高橋:「先生、こっちです」
 愛原:「ああ、分かった」

 私達は夕方ラッシュで多くの通勤客が行き交う丸の内北口へと入った。
 ちょっとしたオペラハウスのような吹き抜けは、観光スポットにもなっている。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「ありがとうございます。俺は先生の隣で」
 愛原:「あいよ」
 高橋:「特急“はちおうじ”1号っスか。だいぶ前にも1回乗りましたよね?」
 愛原:「そうだな。あの時は絵恋さんではなく、高野君が一緒だった」
 高橋:「あー、確かに。懐かしいっスね。……ん?これは……」

 高橋が券面を見て目を丸くした。

 愛原:「気づいたか。確かにこれから乗る列車は、あの時と同じものだ。しかし、乗車車両は違う」

 前回は先頭車両に乗ったが、今回は……。

 高橋:「グリーン車ですか!」
 愛原:「そうだ。どういう風の吹き回しだか知らんがな」

 別に、社長令嬢の絵恋さんがいるから気を使ったわけではあるまい。
 恐らく、別にちゃんとした理由があるのだろう。
 グリーン車には車掌長が乗務しているから用心になるとか、或いは普通車より空いているからテロの危険性が……とか、そういうことではないだろう。
 先ほどの理由と同じ、目立つからだろう。
 特急“はちおうじ”に使用されるE353系電車には、グリーン車が1両しか連結されていない。
 例えそれが中間車に連結されていようが、外観から見れば普通車との違いは一目瞭然だ。
 ましてや、こんな制服女子高生が普通は乗らないだろう。
 目立つこと、この上ない。
 わざとそうすることにより、テロリストを誘き寄せたいのだと私は推理した。
 つまり、本当に警察は勝負に出ようとしているわけだ。

 愛原:「はい、2人の分。隣り合わせになっているよ」
 絵恋:「ありがとうございます」
 愛原:「よし。じゃあ、行こうや」
 リサ:「駅弁買うー」
 愛原:「そうだな」

 私達は改札口からコンコースの中に入った。

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