報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「天長園をあとにして」

2021-06-09 16:08:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月3日07:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園7F・721号室]

 愛原:「おはよう……」
 高橋:「おはようございまっス……」

 スマホのアラームが鳴って、私達は起床した。

 高橋:「今日は風呂どうします?」
 愛原:「いや……昨夜でお腹いっぱいになったよ」
 高橋:「そうですか」
 愛原:「行きたかったらオマエ、行っていいぞ」
 高橋:「いや、いいです」

 起き上がって洗面所に向かう。
 まだ、リサ達は起きていないようだった。
 後で起こしてやろう。

 高橋:「先生、今日はどちらへ?もうここはチェックアウトですよね?」
 愛原:「そうだ。俺的には観光して帰りたいところだな」
 高橋:「いいと思います」

 さて、どうするか……。

[同日08:00.天候:晴 同ホテル8Fレストラン]

 女将:「おはようございます」
 愛原:「おはようございます」

 レストランに行くと、既に朝食は用意されていた。
 今日も天気が良いので、窓からは那須連峰が見える。

 愛原:「山か……」
 高橋:「はい?」
 愛原:「今日は山の方に行ってみるか」
 高橋:「それはいいですね」
 女将:「ロープウェイも運行されていますし、きっと景色もいいですよ」

 とのこと。

 愛原:「よし。今日はそこまで行ってみよう。お嬢さん方、それでいいかね?」
 リサ:「うん」
 絵恋:「わ、私はリサさんと一緒ならどこでも……」
 高橋:「お供します!地獄の果ての果てまでも!!」
 愛原:「そんな所ヘは行かん!」

[同日09:35.天候:晴 ホテル出入口前・栃木県道369号線(板室街道)上→関東自動車バス車内]

 朝食を終えてから部屋に戻り、浴衣から私服に着替えた。
 リサ達は再び制服に着替える。
 それから荷物を纏めてチェックアウトした。

 愛原:「どうも、お世話になりました」
 女将:「こちらこそ、ありがとうございました」

 普通はエントランスまでだろうに、女将の上野母娘はバス通りまで見送りに来てくれた。

 女将:「是非、また来てくださいね」
 愛原:「良かったら、東京にも来てくださいよ。『最も危険な12人の巫女たち』は、もうこのリサしかいませんから」
 女将:「そうですね。いつか、そうさせて頂きます」
 高橋:「先生、バスが来ましたよ」
 愛原:「ああ、止まってもらって」

 高橋は『いいね!』のポーズを取ると、

 高橋:「ヘイ、タクシー!」

 と、叫んだ。

 リサ:「お兄ちゃん、タクシーちゃう!」

 と、すかさず妹分のリサに突っ込まれる。
 とはいうものの、バスの運転手は高橋のアクションに気づいてか、左ウィンカーを上げ、停車してくれた。

 愛原:「それではお世話さまでした」
 女将:「あの……リサさん」
 リサ:「はい?」

 女将さんはリサの手を取った。

 女将:「あなたはもう一人ぼっちでは、ありませんので、どうか……」
 リサ:「……うん」

 リサは最後にバスに乗り込んだ。
 引き戸の中扉が閉まり、すぐにバスが発車する。
 1番後ろの座席に座ると、リサは見送る母娘に向かって手を振った。

 高橋:「先生、終点まで乗るんですか?」
 愛原:「いや、黒磯駅前……黒磯駅西口か。そこで乗り換えだな。上手い事、接続してくれているといいんだがな」
 高橋:「ちょっと調べてみましょう」
 愛原:「帰りは夜くらいでいいと思うけど、あんまり遅くならないように」
 高橋:「はい。ロープウェイで山登りするだけですか?」
 愛原:「いや。ついでに那須湯本温泉で日帰り入浴できたらいいと思う」
 高橋:「分かりました。先生は温泉がお好きですね」
 愛原:「こういう所に来たら、当たり前だろー」
 高橋:「その通りですね」

 思えば、私が山に行きたいと思ったのは、何らかの第六感だったのだろう。

[同日10:05~10:10.天候:晴 同市内 JR黒磯駅西口→関東自動車バス車内]

〔「黒磯駅西口です」〕

 途中の黒磯駅西口のロータリーでバスを降りる。
 ここから那須ロープウェイ行きのバスに乗り換えることになる。
 幸い5分の乗り換えで接続しているようだ。

 高橋:「先生、あのバスです」

 このバス停が始発ではないため、那須ロープウェイ行きのバスには既に先客が乗っていた。
 那須温泉郷の中でもメジャーな方に向かうせいか、私達が乗って来たバスよりも乗客が多かった。

 愛原:「1時間くらい揺られることになるから、まあゆっくりしようか」

 2人席に腰かけて、私は言った。

 高橋:「本当に観光ですね」
 愛原:「当たり前だろ」

 リサはバスの路線図を見ながら……。

 リサ:「『お菓子の城』……『チーズガーデン』……」
 絵恋:「リサさんは食欲全開ね。私は、この『恋人の聖地』ってのがすっごく気になるんだけどォ?」
 リサ:「でも、先生の決めた行き先が第一」
 絵恋:「ええーっ!?」
 高橋:「それにしても先生、海ではなく、山の方へ行かれるとはさすがです」
 愛原:「そうかな?内陸部の栃木県で、山の方に行くというのは自然だと思うけど……」
 高橋:「夏は海っスか?」
 愛原:「オマエのせいで八丈島まで行くハメになったんだからな?」
 高橋:「さ、サーセン!」
 愛原:「オマケにBSAAの掃討作戦にまで巻き込まれて」
 高橋:「いや、ほんっとサーセンっス!」
 愛原:「まあ、いいけど……」

[同日11:12.天候:晴 栃木県那須郡那須町 那須ロープウェイ山麓駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、那須ロープウェイです。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください」〕

 バスが終点に到着する。
 ロープウェイの山麓駅前には駐車場があり、その中にバス停があった。
 バスはその前で止まる。
 バス車内でも広告などで大々的にローブウェイの宣伝をしているのは、ロープウェイの運行会社も同じ関東自動車だからだろう。

 リサ:「先生、ちょっとトイレいい?」
 愛原:「ああ、いいよ。ロープウェイに乗る前に、少し休憩しよう」

 さすがにホテル天長園前から黒磯駅西口まで30分、そこからこのロープウェイ乗り場まで約1時間。
 しかも車種は普通の路線バスとなれば、多少腰も痛くなるというもの。
 その腰痛を癒やす為にも、帰り際は那須湯本温泉で一っ風呂浴びたいものだ。

 高橋:「先生。まだ麓だってのに、若干涼しいですね」

 私達もトイレに行きがてら、高橋がそんなことを言った。

 愛原:「まあ、そうだろう。いくら山麓っつったって、街からだいぶ離れたし、それも山の方に向かって進んだわけだから、多少の標高はあるだろう」

 静岡で言えば、今は大石寺の境内辺りにいるようなものか。
 そこから更にロープウェイで山頂に向かおうというのだから……。

 愛原:「山頂はもっと涼しいぞ。ヘタすりゃまだ寒いかもな?」
 高橋:「えっ?もう5月なのに……」
 愛原:「富士山だって、まだ5月だと雪を被ってるだろ?それと同じだよ」
 高橋:「富士山ほどは高くない山ですよね?」

 もちろん本格的な登山をするつもりはなく、あくまで山頂駅付近を散策してみるだけだ。

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