報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 5

2014-03-20 19:57:50 | 日記
[同日15:00.石川県金沢市 十条の自宅 十条伝助]

「なに?鍵が見つかった?」
 十条は自宅で平賀からの電話を受けていた。
{「先生なら何かご存知ではないかと思いまして……。シンディの胸の中からも出て来たことですし……」}
「確かにワシはウィリーと同じ釜の飯を食った仲ではあったが、全てを知っているつもりは無いぞ」
{「ご存知ないですか」}
「キミ達は何か仮説を立てたのかね?その上でワシに質問しておるのかね?」
{「はあ……。シンディの胸の中から出て来たのは黄色い鍵なんです。で、今回、浦安で見つけた鍵は緑でした。まあ、どちらも塗装はだいぶ剥げてますが……」}
「それで?」
{「敷島さんは、JR線や東京の地下鉄のラインカラーと何か関係あるんじゃないかと見ています」}
 平賀の回答を聞いて、十条は思わず笑いがこぼれた。
「さすが敷島君じゃ。発想が発明家並みに突拍子も無い。でも、それが何だと言うのかね?」
{「それらのラインカラーが交わる場所というのが新宿。つまり、新宿に何か謎が隠されているのではないかというのが、敷島さんの仮説です」}
「本当に面白い男じゃのう。南里が傍に置いた気持ちも分かるわい。もっとも、寿命の削減と引き換えにはなるじゃろうがな」
{「新宿には財団の本部もありますが、でもだからといって、やっぱりまだ仮説としても弱いですね」}
「いや、意外と灯台下暗しというヤツで、財団本部に隠れてたりするかもしれんぞ?」
{「ええっ!?」}
「まあ、それは冗談じゃがな。しかし、灯台下暗しはあり得る。意外と財団本部の近くにウィリーの隠しアジトがあったのかもしれんぞ?」
{「警視庁など公安関係がガッツリ捜索したはずですが……」}
「その一枚上手を行ったのがウィリーじゃろう?日本の治安当局には1度も拘束されずに済んだのじゃからな。とにかく、浦安で発掘したモノについては、本部に送ったわけじゃな?」
{「はい。自分も後から行きますが、まずは本部のチームにも精査してもらいます」}
「休み返上で大変じゃの」
{「自分は南里先生に師事していた者として、ウィリーの謎を追う義務がありますから」}
「南里のヤツ、偉い弟子を持ったものじゃ。敷島君とアリス嬢はどうするのかね?」
{「今日は市内のホテルに一泊するみたいですよ。で、明日、本部に向かうそうです」}
「おっ、そうかね。それじゃ、気をつけてやってくれ。……うむ」
 十条は電話を切った。
「博士。お茶をお持ちしました」
 そこへキールが部屋に入ってきた。
「死せる孔明、生ける仲達を走らす、か……」
「は?」
「違うな。死せるウィリー、生ける弟子達を走らす……じゃな」
「???」

[同日同時刻 千葉県浦安市内のビジネスホテル 敷島、アリス、エミリー]

「今日はここで一泊するぞ」
「何だ。オフィシャル・ホテルじゃないのね」
「贅沢言うなや。この3連休で、どこも満室だよ。空いていただけラッキーだと思わなきゃ」
「敷島さんの・仰る通りです」
 エミリーは微笑を浮かべて同調した。
 フロントでチェック・インの手続きをする。
「それでは敷島様、本日より一泊のご利用ですね」
「はい」
「シングルお一部屋とツインお一部屋を御用意させて頂きました」
「とうもー」

 で、部屋に向かう。
「これでも駆け込みセーフだったんだぞ。ネット予約の際、どちらも『残り1部屋』だったんだからな」
 敷島はまず1つの部屋のドアを開けた。
「あー……と、こっちはツインか」
「じゃあエミリー、シングルね」
「イエス。ドクター・アリス」
「こら、違うだろ」
「何が?」
「何が、じゃない。マンションと同じ。ここが、オマエとエミリーが使うんだよ。エミリーも頷かない」
「すいません」
「早いとこ、エミリーの整備してやれよ。じゃあ、俺は隣の部屋にいるから」
 そう言って、敷島は部屋を出て行った。
「シキシマって、難しいね」
「イエス。ドクター・アリス」

[同日17:30.同場所 アリス・フォレスト&エミリー]

「うん。異常は無いね」
「ありがとう・ございます」
 エミリーの整備をしていたアリス。
「あとは充電して……」
 そこへ電話が掛かって来た。
「あっ?」
「私が・出ます」
 エミリーは電話を取った。
「もしもし」
{「あー、エミリーか。俺だけど……」}
「敷島さん。ドクター・アリスに・替わります」
「ん?アタシ?」
「イエス。敷島さんから・です」
 アリスは受話器を受け取った。
「何よ?」
{「エミリーの整備は終わったか?」}
「どこかで監視でもしてんの、アンタは?グッド・タイミングで!」
{「まあ、ただの偶然だ。それより、ディズニー・リゾート行きたいか?」}
「What?」
{「今からならチケット安く買えるから、パレードだけでも見に行けるぞ」}
「……行く!」
{「じゃあ、ロビーで待ってるから。エミリーはどうする?」}
「エミリーは、残りのバッテリーが……」
「ドクター・アリス。私は・ここに・残っています」
「そ、そう?エミリーは充電させておかないとだから」
{「そうか。じゃあ、タクシー呼んどくから急いでね」}
 敷島は電話を切った。
「I’m so happy!」

[同日17:45.ホテル前→タクシー車内 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「ディズニーランドまでお願いします」
「はい、ありがとうございます」
 敷島はホテルのフロントに頼んで、タクシーを予約していた。
 ようやくアリスがやってきて、早速タクシーに乗り込んだ。
「こんなこともあろうかと、ネットでチケット購入しておいたんだ。パレードだけでなく、夕飯もそこで食えるな」
 ロビーでのんきに待っていたら、大歓喜のアリスに抱きつかれた。
 意外とアリスも腕力が強く、危うく腰を折りそうになったらしい。
 今更ながら欧米人の感情表現の強さを思い知った敷島だった。
(しかし、こんなに喜ぶとは……。あっ、そうか)
 そこで敷島は気が付いた。
 アリスは少なくとも現存している記憶の中で、母国のアメリカではテキサス州から出たことがないという。
 アメリカのディズニーランドはフロリダ州にある。ということは、アリスは本家本元のランドには行ったことが無いということだ。
 そして、それは同時に……。
「アリス。ディズニーランド自体、初めてか」
「そうなの!シキシマは?」
「俺は3回くらい行ったな」
「そんなに!?」
「1回目は家族旅行。2回目は中学ん時の修学旅行で、3回目は高校の卒業旅行で行った」
「凄い、スゴーイ!」

 ホテルからTDLまで、その移置関係上、夕日に向かって進むことになる。
(イクスピアリで茶を濁そうとも思ったけど、これだけ楽しみにしてるんなら、入場までしてもいいな)
 敷島は取りあえず、チケット購入を後悔せずに済んだ。
 それどころか、アリスの別の一面を敷島は見ることになるのだった。
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 4

2014-03-20 02:20:07 | 日記
[同日09:30.千葉県浦安市内、ビル解体工事現場 敷島孝夫、平賀太一、アリス・フォレスト、エミリー]

 東日本大震災がもたらした被害は、地震そのものの大きな揺れや大津波だけでは無かった。
 関東圏では液状化現象が発生し、それによる建物やライフラインへの損害が深刻であった。
 中でも東京湾沿岸部の埋立地ではそれが如実であり、今なおその爪痕や住民生活への影響を見ることができる。
「ふむ……」
 敷島達が向かった現場は東京湾に程近い場所で、液状化現象の被害が大きい地域の1つだった。
 元々はバブル期に建てられたマンションだったが、先の影響で建物が大きく傾き、住民達は皆逃げ出す有り様で、復旧を諦めたオーナーが止むなく解体を決行した次第である。
「これですか」
 現場の一角にそれはまとめられていた。
 それは明らかに、ロボットの部品の一部だった。
「これは……」
「バージョン・プロトタイプね。個体番号までは分からないけど、時期的にそうだと思う」
 アリスが、ほぼ確定的に言った。
 何故なら、この部品が見つかった場所についてだ。
 マンションの基礎・土台を支える鉄筋コンクリート製の太い柱の根元で眠っていたという。
 このマンションの定礎は平成元年。築25年だ。
 バージョン2.0の開発が始まったのが、アリスが10歳の時。
 その前の1.0がアリスが5歳の時だというから、更にその前だろうという。
「マンションの建築中に、ウィリーがここに隠した?」
「多分ね。じー様は、アタシを引き取る前も日本に来ていたっていうから」
「何の目的で?」
「そんなの知らないよ」
「あの、ドクター・アリス」
 エミリーが話し掛けた。
「この箱が・気になります」
「それもそうね」
 錆付いた鉄製の小箱。
 縦と横の長さは、スマート・フォンくらい。
 高さが5センチくらいあった。
「開けてみて」
「イエス」
 エミリーは箱を拾い上げると、それをこじ開けた。
 バキッという鈍い音がする。
 その中にあったものは……。
「鍵!?」
 古めかしいスケルトン・キーだった。
 キー・コーヒーのロゴマークみたいな形をしていた。……って!
「どこの鍵だろう?」
 平賀が眼鏡を掛け直してよく見ようとした時、敷島が気づいた。
「シンディの胸の中から見つかったものじゃないですか!?」
「あっ!」
 そしてそれは今、エミリーがペンダントにして持っている。
 現存していた唯一の姉妹機の形見として。
「うーん……先端のギザギザの形は同じみたいですね」
「どこの鍵だか分からないか?」
 敷島はアリスに振った。
「知らないよ」
 アリスは肩を竦めた。
「見たこともない」
「いいや!きっと昔、見たことがあるはずだ!思い出してくれ!」
 平賀が迫る。
「バカにしないでよ!IQ185のアタシが『覚えてない』『見たことない』って言ってるのよ!」
「いや、しかしだな!シンディの鍵といい、この鍵といい、絶対にウィリーが関わっているはずなんだ。間近にいたお前が知らないはずがない!この鍵は間違いなく、ウィリーの……」
「まあまあ、平賀先生。アリスが知らないって言ってるんですから」
 敷島は、平賀をなだめた。
「シンディのメモリーの中に、どういう経緯で胸の中に鍵が埋め込まれたかは分かるか?」
 敷島はアリスに別の質問をした。
「それが全然。実は所々、メモリーが意図的に消去されてる箇所があって、その辺りだと思う」
 工事現場で見つかった鍵は、所々緑掛かっている箇所があった。
 最初、それは鍵の成分が酸化(錆)したことによって出た色だと思っていた。
「皆さん。この鍵は・緑色に・塗装されていた・ようです」
 と、エミリーが言った。
「それがどうした?」
 敷島が聞き返す。
「シンディの・中から・出て来たのは・黄色の・鍵でした」
「黄色?元々成分上、そういう色合いなだけだったんじゃないのか?」
 鍵は黄銅製である。だから敷島は気にも留めていなかったのだ。
「ノー。塗料の・跡が・ありました。錆止めに・塗装したのかと・思っていましたが・その鍵が・緑色に・塗られて・いたので・別の・意味が・あるかと・予想されます」
「別の意味?」
「ただの鍵じゃないってことですかね?」
「うーむ……」
「……そもそも、本当にドアを開けるキーではないのかもね」
 最後にアリスがポツリと言った。
「おっ!何か思い出したか!?」
「全然。でも、じー様のやることだから。まず間違いなく、突拍子も無いことだわ」
「確かに」
「むしろアタシより、プロフェッサー十条の方が知ってるかもしれないよ?」
「おおっ、そうか!」
「よし!早速、十条先生に聞いてみよう!」
 平賀は電話を取った。

[同日12:00.JR新浦安駅前のショッピングセンター 敷島、平賀、アリス、エミリー]

「あれ以上の収穫は無かったですね」
 敷島は車を降りながら言った。
「ま、しょうがないですね」
 平賀が十条に電話したところ、十条は何か知っている素振りを見せた。
『思い出すから、しばし待たれい!』
 という大仰な返事をしておきながら、
『すまん。思い出せん。何か、特別なことを企んでいたような気がするのじゃが……』
 と、結局は肩透かしだった。
「取りあえず、昼食にしましょう。午後には財団本部が見つかった部品の回収に来ますから、あとは財団に任せましょう」
 平賀が言った。
「何だか悔しいなぁ……。もうちょっとで、確信に迫れそうなのに」
 敷島は残念そうに呟いた。
「黄色と緑ねぇ……。これで赤があれば、信号機だな」
 平賀も続けた。
「探せば見つかるかもですよ?」
「でもねぇ、見つけたところで、その意味を知らないと結局現状と変わりませんから」
「赤……Redねぇ……」
「何か思い出したか?」
「東京の地下鉄って、色分けされてるよね?」
 アリスが考え込む仕草をした。
「ああ。黄色なら有楽町線、緑なら千代田線だな。もしくは都営新宿線か」
「敷島さん、JR線も色分けされてますよ?」
「ん?黄色なら中央・総武緩行線、緑なら埼京線か」
「山手線じゃないの?」
「確か、常磐線も緑でしたよね?」
 アリスと平賀が同時に言った。それに答える敷島。
「山手線はウグイス色、まあ黄緑か。で、常磐線の快速は深緑……まあ、最近はエメラルド・グリーンが強調されてますが……。なんで、常磐線各駅停車の方ですかね」

 店内の飲食店に入って、敷島はふと気づいた。
「新宿……」
「は?」
「中央・総武緩行線の黄色、埼京線の緑、山手線、都営新宿線の黄緑色が交わる所と言ったら新宿ですが、ちょっと違いますかね?」
「いや、面白い観点ですよ!新宿と言ったら、財団本部もありますしね」
 平賀もハッとした様子だった。
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