星のひとかけ

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「クリスマス・ソング」 ベイツ短篇集より

2016-12-23 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
アドヴェントカレンダーの窓もほとんど開きました。

きょうはクリスマス・イヴのおはなし。。。


『クリスマス・ソング』 ベイツ著 福武文庫 1990年 より、 表題作「クリスマス・ソング」という小品。

 ***

はじめに ゴメンナサイ、しておかないと・・・ この短編のことを書こうとすると どうしてもネタばれになってしまうので、、 

この作品の出版は1950年とのことですから、 第二次大戦後すこし経って書かれたものですね。 舞台は英国のイーヴンズフォードという (たぶん小さな)町。

楽器店の娘クララは、 店の音楽教室で声楽を教えている美しい声の持ち主ですが、 「彼女は雪に向かってモーツァルトを歌うかわりに、 長い時間店に立って、 工場労働者にジャズの楽譜をばらで売った」、、 とあり、 クリスマス・イヴも願いとはうらはらに雪は降らず、 ひっきりなしに降り続く雨。。。

家族ぐるみの付き合いがあるらしいウィリアムソン家から、 毎年恒例のクリスマスパーティーに呼ばれているけれども、 騒々しいだけのパーティーに今年は行かない、と クララは 「そう固く心に決めていた」

夕方4時。 自分の音楽教室を閉めている頃、 妹が呼びに来ます、、

 「あら、そこにいたの。 いま下に若いお客さんがきていて、 買いたい歌の名前が分からないと言ってるわ」
 「ダニー・ケイの歌じゃないの? いつだってそうなんだから」
 「そうじゃないの。 その人はクリスマス・ソングだと言ってるわ」

、、、そうして クララは 「茶色いソフトをかぶり、 こうもり傘を持った青年」のところへ行って、 その歌のことを尋ねます。

 「歌詞を少しでも覚えていらっしゃるなら」
 「それがだめなんです」
 「どんな風な曲ですか。 それはお分かりですか」

、、、彼は歌おうとするものの、声は出てきません。。 クララはいろいろ彼に尋ねてみて、 シューベルトの曲を歌ってみせ、 次にブラームスの曲を歌ってみせ、、 また別のシューベルトの歌を歌い・・・ 

 「では、ラヴ・ソングですか」
 「ええ」

、、、それで悟ったクララは

 「その女(ひと)をお連れになれないんですか?」と彼女は訊ねた。 「そのひとなら覚えていらっしゃるかもしれませんわ」
 「ああ、それはだめです」と彼は言った。 「そうしないでさがしたいんです」

 ***

、、 じれったいお話ですね。。。 だけど、 この純情そうな青年はきっと切羽詰っているんですよね、、 もうクリスマス・イヴの夕暮れになって、 そのうろ覚えのレコードを (きっと彼女へのプレゼントに) 探そうとしているんですから。。

 「思い出しになったらまたいらしてください」 、、とクララに言われて青年は雨の中を帰って行きます。。 日がすっかり暮れて、 店を閉め、、 午後8時、、 両親と妹はウィリアムソン家のパーティーへ出かけて行きました。 残ったクララは、 ひとり店の二階でピアノに向かい、 青年のさがしていた歌のことを気にかけています。

、、夜9時。 ウィリアムソン家のドラ息子 (どら息子とは書かれていませんけど、どうやらそんな感じ) が、すでにほろ酔いで迎えに来ます。 大声でクララを呼び、 パーティーに連れて行くと騒いでいます。。 そんなとき、、 先刻の青年が・・・

 「どうもすみません。 おや、お出かけになるところですね。 どうも迷惑をかけて」
 「思い出せました?」

 ***

もうこの後は省略しましょう。。 親切な娘クララと、 純情青年と、 どら息子、、、 クリスマス・イヴの午後9時すぎの、 絶え間なく雨が降る店先の光景・・・

、、じれったいのだけれど、 なんかせつなくて、 なおかつどこか けなげな感じのするお話、、 私好きです。 以前、紹介した ベイツ短篇集も(>>)、 この文庫の短篇集も、、 登場人物たちは田舎者だったり、 愚かなことをしでかしたり、 滑稽だったりするものの、、 ベイツの描く人物には本当の「悪人」は出てこない、、 

、、それにしても、、 この純情青年クン、、 イヴも夜更けて やっと望みの音楽が思い出せたところで、、 彼女へのプレゼント (レコードを贈るのか、 自分でそれを歌ってみせるつもりなのか、、 そこまでは書かれていませんけど)、、 間に合うのかしら??  その恋のゆくへは・・・ 
、、書かれていない先のことまで なんだか気になってしまうお話でした。 


、、 もし、 この短編をお読みになったら、 ぜひとも その楽曲をググってみて下さい。 そして 聴いてみて下さいね、、 あぁ・・・ と思い出す筈ですから。。。



 ** ほんとうの ネタばれ **

どうしても、 その曲を聴きたい方のために・・・

Schubert Ständchen (Serenade) Peter Schreier


素敵なクリスマスをお過ごしください。。。