業務上、従業員に、特定の資格を取得してもらう必要がある場合には、会社はそれを命じることができる。そして、従業員は正当な理由なくその命令を拒むことはできないものとされる。このことは、すべての業務命令に共通する考え方だ。
しかし、資格取得命令に関しては、直接的に業務を行うための命令とは扱いを異にする点があり、それに関しては、下命側(上司)・受命側(部下)ともに誤解している向きがあるので、ここで整理しておきたい。
まず、受験そのものに掛かった費用に関しては、受験料は言うまでもなく、受験会場までの交通費や受験時間相当分の賃金も、会社が負担しなければならない。これらはすべて業務命令を遂行するために必要な経費だからだ。
ちなみに、仮に受験結果が不合格であった場合でも、これらを会社に返還させることはできない(大阪高判S43.1.28)。なお、資格取得の成否が社内評価(人事考課や昇格査定等)に影響することについては、それが業務命令である以上、当然と言えよう。
それから、資格を取得するために必要な学習時間については、労働時間として賃金支払いの対象しなければならない。これに関しては、従来グレーに扱われがちであったが、先ごろ策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(H29.1.20基発0120第3号)には労働時間に含むべきことが明記されている。
また、労災事案ではあるが「技術士資格受験のための勉強も会社の指揮監督の下での残業というべき」と判じられた裁判例(大阪地判H21.4.20)も参考になりそうだ。
一方で、資格取得のために学校に通うことに関しては微妙かも知れない。
例えば自動車運転免許のように、その資格を取得するためには学校(この例では自動車教習所)に通うのが一般的とされているなら会社がその費用を負担することについて異論を挟む余地は無さそうだが、必ずしも学校に通わなくても取得できる資格の場合に、その費用や、ましてその時間分の賃金を支払うかどうかは、会社の考え方によって異なる。
また、資格が取得できた折に奨励金(一時的なもの)や資格手当(恒久的なもの)といった金員を支給するかどうかも、会社ごとに異なって然るべきものだ。
もっとも、こうした制度は、一般的に“自己啓発”を促すモティベーションとしての機能を期待されていることが多いが。
経営者や管理職としては、これらを踏まえたうえで、安易に資格取得を命じるのでなく、自己啓発とも組み合わせながら、部下のポテンシャルを向上させることを考えるべきだろう。
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