「うつろ庵」の周りの道路掃除が、虚庵居士の朝食前の日課だ。
秋は落ち葉が舞い散って、風が吹けば落ち葉と箒のオッカケッコを演じるなど、手を焼くこともしばしばだった。11月も末になって、殆どの落葉樹も散り尽し、やっと手が省けるこの頃だ。
そんな或る朝、珊瑚樹の小さな落ち葉が一枚だけ、朝日に輝いていた。
「ジジ、おはようございます!」 と、朝のご挨拶だった。
手に取って見れば、紅に染まった艶やかな葉は、漆塗りの工芸品を思わせるような気品を湛えていた。箒と塵取りを脇に置き、道端にしゃがんで紅葉とお話していたら、「オハヨウゴザイマス!」 と、背後から幼い声のごあいさつがあった。
振り向いたら、ご近所の幼稚園に通う幼児と母親の、笑顔でのご挨拶だった。
手に持っていた小さな紅の葉をさし出して、「ハイ、朝のプレゼントで~す!」
「わー きれいだ!! ありがとう!!」
頭をぴょこんと下げた笑顔が、何とも爽やかだった。
風に舞う落ち葉を追うかな秋の朝の
日課は楽しも戯れるにあらずも
落葉散り梢の小枝は櫛なるや
うす雲透けて深まる秋かな
紅の小な落葉の煌めきは
じじへの朝のごあいさつかな
手に取れば艶やかなるかな紅に
金色蒔き絵の漆器ならずや
道端に落葉と語れば背後から
おさなごの声 オハヨウゴザイマス!
紅の一枚の葉をさし出して
朝の挨拶 プレゼントで~す!
ありがとう! ピョコンと頭を下げてから
こぼれる笑顔で小おどりする僕