「うつろ庵」の野牡丹が、晩秋の雨に濡れて咲いている。 野牡丹は春から初夏にかけて咲き誇ったが、秋の気候に誘われたのだろうか、再び清楚に咲いた。
今年の夏は殊のほか熱暑が続いたので、虚庵夫人は「門被り松の下での鉢植は気の毒よ」と言いつつ、大きな鉢を一人で抱えて庭の片隅に運び、路地に植え代えた。珊瑚樹の生垣の近くがお気に召したのだろうか、野牡丹はご機嫌で秋花を咲かせ、虚庵夫人の植え替えに応えている様にみうけられる。
秋雨に濡れて咲く野牡丹の表情に痺れた虚庵居士は、思わずカメラに収めた。
撮影した時には気付かなかったが、野牡丹の花が咲いて間もない表情と、数日を経た花とでは、花弁の色や蕊にもそれなりの変化が観られるのは、自然の世界の当たり前の変化であろう。
しかしながら、花びらに湛える雫の形にも、微妙な変化が観られることに気付いた。
自然の世界の厳密な摂理に、改めて目を瞠る虚庵居士であった。
門先の野牡丹の鉢植えはお気の毒と
路地への植え替え汗の妹子は
わぎもこの路地への植え替え嬉しけれ
野牡丹秋に咲きて応えぬ
秋雨に濡れそぶるかな野牡丹の
花の雅を君に観せまし
野牡丹の花の色あい斯くばかり
変わるものかな日々を重ねて
雨傘をさしつつ花と語らえば
雫の風情にこころ痺れぬ
日をおきし野牡丹の花の雨雫の
姿に自然の摂理を知るかも
花びらの微妙な肌の移ろいを
滴の姿が斯く語るとは