「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「じじ・ばばと鳩ポッポ」

2012-04-05 01:40:21 | 和歌

 「うつろ庵」のリビングの窓のごく近くに、今年もまた鳩が巣作りして抱卵中だ。  

 実は昨年の6月下旬にも、多分同じ鳩の番だと思われるが、全く同じ場所で抱卵した。しかしながら、昨年は抱卵途中で椿事が出来して、可愛そうに子育ては成功しなかった。その際の経緯は、「西窓の鳩ぽっぽ」に詳しく書いたので、そちらを参照願いたい。

 昨年の巣が殆ど傷まずに残っていたので、鳩の番はごく短期間で営巣した。雄鳩は枯れ枝をせっせと運び、雌鳩が座り心地、卵の抱き心地を確かめるかのように巣作りをして、その連係プレー振りは見事であった。

「うつろ庵の」庭先で、雄が枯れ枝を漁る姿を見た虚庵居士は、飛び石の上に手頃な枯れ枝を集めて、鳩ポッポの営巣のお手伝いをした。昨年は雄の枯れ枝蒐集を、雌鳩への給餌動作かと勘違いしたが、リビングのカーテン越しで朧な動作を観察した結果、頻繁に雄鳩が飛来したのは営巣用の枯れ枝蒐集だと判明した。

 3月19日、鳩ポッポは抱卵を開始した。
鳩ポッポが蹲ったまま巣を離れぬので、卵の数は確認出来ないが、雄鳩の飛来回数はそれ以来ピタリと止んだ。雌鳩の食事はどうするのだろう? 雄鳩は給餌活動をしないのだろうかと、じじ・ばばは人ごとながら心配しつつ、そっと見守るほかなかった。

 以来、来る日も来る日も鳩ポッポは、卵を抱き続けて雄は知らん顔だ。一体どうなっているんだろうと心配しつつ、毎朝・毎夕「鳩ポッポはどうしてる?」との会話が、虚庵夫妻の挨拶代わりになった。そんなある日、近くで鳩ポッポの低音での鳴き声がした。
『ぼっぼー、ぼっぼーぐー、ぼっぼーぼっぼーぐー』
蹲って居眠りをしていたかに見えた雌鳩は、さっと首を持ち上げ緊張したかに見えた。ものの10秒か20秒後に雄鳩が飛来し、見事に雌鳩と交代して抱卵を継続した。

 虚庵夫妻の心配は氷解した。雌鳩と雄鳩が交代で抱卵を続け、その間に互いに食事を済ませていたのだ。それにしても、何とも見事な連携ぶりだ。鳴き声の合図もたった一・二回で、それもごく低音で、余ほど意識していないと聞き漏らす程度の音量だ。
番の鳩ポッポが二人で交わす交代の合図だと分かってからは、この低音の鳴き声が、何と心地よく耳に響くことか。

 鳩ポッポの巣は、「うつろ庵の吉備椿」の枝だ。



 この椿は花の色合いも姿も気品があって、虚庵夫妻の自慢の椿であるが、花蜜も殊のほか豊かで、小鳥たちにとっては掛け替えのないレストランといった椿である。日ごろからメジロやツグミが飛来するので、リビングに坐したまま小鳥たちの花蜜を吸う仕草を愉しんで来たがが、鳩ポッポが抱卵中と雖も、小鳥たちの飛来が絶えないのには驚いた。抱卵する鳩ポッポの目の前で、遠慮もなく花蜜を吸い続けるのだ。鳩ポッポも泰然自若としてそれを許しているのは、人間の感性では理解を超えるが、小鳥の世界ではごく当たり前なことかもしれない。抱卵という自然の営みと、厳しい自然の中で餌を確保する鳥達の、お互いを尊重し合う何らかのルールが在るに違いあるまい。

 4月3日は、異常な低気圧による暴風雨が吹き荒れて、虚庵夫妻を心配させた。
吉備椿の枝は鳩ポッポの巣を枝に抱きかかえたまま大きく揺れたが、幸いなことに、鳩ポッポは無事であった。抱卵している巣も傷んだ形跡がないのに、じじ・ばばは胸を撫でおろした。

 それにしても、抱卵を開始してから既に18日にもなる。鳩ポッポの子育てに掛ける熱い思いが、虚庵夫妻にもひしひしと伝わって、鳩ポッポの無事と、1日も早い巣立ちを念じずにはおれない。


          じじ・ばばの

          庵の窓辺にこぞ今年

          鳩の番は巣を作り

          卵を抱くは嬉しけれ

          朝な夕なのじじ・ばばの

          交わす言葉は鳩ぽっぽ

          如何にあるやと気遣えど

          ただひたすらに蹲り

          卵を抱くぞいとしけれ

          母鳩腹を空かすらむ

          何ぞ餌など与えむか

          悩むじじ・ばばその耳に

          小声の鳴き声ぼっぼぼー

          父鳩飛び来て卵をば

          抱く姿に涕して

          じじ・ばば手を取り安堵しぬ

             つがいの気遣い

                いたわる心に

   
          何時ならむ小鳩が口開け餌をねだる

          その日を待ちて窓辺を観るかも