「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「ひび割れた泥岩と鳩ポッポ」

2012-04-07 02:18:20 | 和歌

 桜が咲いた春の一日、虚庵夫人を伴ってゴルフを楽しんだ。
好天に恵まれ、二人だけのラウンドはスコアを気にしないごく気楽なものだった。

 帰宅して玄関の扉を開く前に、素人庭師が改修した「うつろ庵の飛び石」が気になって、奥手の簡易ベンチに腰を下ろして暫し鑑賞した。ふと足元に眼をやると、海岸の波で削られて何処か鳩ポッポの姿に似た泥岩が、ひび割れていた。
咄嗟に、嫌な予感がした。鳩ポッポに異変が生じたか?



 リビングの西窓に急行した。
 カーテン越しに鳩ポッポの巣を注視したが、親鳩の姿は無かった。
 30分待ち、一時間待っても親鳩は帰って来なかった。

 これまでの鳩ポッポの挙動からすれば、あり得ない空白の時間だ。留守中に何か異変が発生したに違いあるまい。昨年の抱卵中の椿事が頭を過ぎり、お隣の東窓を見たら、何時もは締め切りの雨戸がパッカリと開き、部屋の明かりが煌々と燈っていた。

 親鳩は待てど暮らせど戻って来なかった。シビレを切らして窓から巣を覗いたら、孵化した雛が蹲っていた。ごく短時間の観察で定かではないが、二・三羽が頭を動かしているかのように見えた。暖かな春の一日は、日暮れ近くだった。

 孵化したばかりの雛のために、餌を漁りに出掛けたのだろうか? 
 抱卵中と孵化した後とでは、親鳩の行動も異なるのだろうか? 
 昨年の椿事と同様に、お隣の雨戸を開ける激しい軋み音に、身の危険を感じて避難したのだろうか? などなどが気がかりではあったが、そっと見守ることにした。

 悶々たる思いで朝を迎え、いの一番で鳩ポッポの姿を探した。何時ものように親鳩は巣に蹲り、雛を抱えている様子だったが、程なくして親鳩は飛び立った。

 昼食をとりつつも、親鳩が戻らぬのが気懸りだった。
昨夜来の気温が、意外に冷え込んでいるのが気懸りだ。孵ったばかりの雛には、親鳩の温もりと羽毛の保温が欠かせまい。鳩ポッポはどうしたのだろうか? お茶の時間も、夕刻が迫っても親鳩は帰って来なかった。

 意を決して窓から鳩ポッポの雛に手をかざしたら、動きが感じられなかった。
 掌で雛を包み込んだら、何と雛は冷たかった! 大変だ! 
 二羽の雛を掌で大事に掴んで、眼の前に引き寄せた。
 可哀想に、雛は息絶えていた。 
 
 そっと雛を巣に戻し、静かに窓を閉じた・・・。





          はかなくもきゆるいのちのなきがらを

          もろてにつつみて あたためんとするかな