「うつろ庵」の生垣に、「鳩ぽっぽ」が巣を作った。
「うつろ庵」の西側は、4mの私道に面していて、車も歩行者も殆ど通らぬしごく閑静な空間だ。リビングもダイニングもこの静かな私道に面しているが、生垣の背丈を窓よりだいぶ高く設えて、夏の日除代わりにグリーンのカーテンを楽しんでいる。
殊にリビングは増改築したので、椿と甘夏と珊瑚樹の生垣は西窓のごく近くまで枝を広げ、生垣の木漏れ日は、これからの夏場は清涼感があって快適だ。
ソファーに座っていた虚庵夫人が、ふと気が付くと、椿の枝の中に二羽の鳩がしきりに出入りして、何かしているという。
鳩を驚かせなうように気遣いながら観察していたら、カーテンの隙間から鳩ぽっぽがこっちを見た。せっせと巣作りをしている気配だ。二羽の鳩が留守にした間に、カーテンを開き、身を乗り出して見たら、既に立派な巣が出来つつあった。
鳩ぽっぽが巣を作った椿の隣には、甘夏の木が大きく育ってかなり沢山の実をつけた。いわゆるジューンドロップであろう、ごく小さな実が私道に散り敷いているが、鳩ぽっぽを脅かさないように、ご近所にはご迷惑であろうが、暫しそのまま放置させて頂くことにした。お隣は、私道に面した東窓の雨戸を締め切ったまま生活し、また生垣の手入れも殆どなさらないこと等を、鳩ぽっぽは観察済で営巣したのであろうか。巣を作って後、鳩ぽっぱは暫く巣に近寄らなかった。自然の動物は、営巣地の自然環境を神経質に吟味すると聞いたことがあるが、彼らは自分達の巣の周辺環境を確かめていたのかもしれない。用心深いものだ。
鳩の営巣以来、「うつろ庵」ではレースのカーテンを閉じたまま、楽しい観察が始まった。リビングでの行動も、鳩を刺激しないようにテレビの音量も控えめに設定した。巣に蹲っている鳩は、ママ鳩であろう。パパ鳩は、せっせとエサ取りに励んでいるのであろう、巣からの出入りがかなり頻繁だ。
我々夫妻も何故か、心が浮き立つ気分だ。リビングに入る都度、「鳩ぽっぽはどうしてる?」と確認するのが習慣になった。そんなある深夜、パパ鳩もママ鳩も巣を留守にした。準備してあったカメラで、手早く巣の様子を撮影した。3~4センチ程の卵が二つ、ママ鳩の羽毛に守られていた。
その後、抱卵を始めたママ鳩は、時に卵を慈しむかのような仕草が見られたが、それ以外は蹲ったまま殆ど身じろぎもしない。抱卵するママ鳩のけな気さには、涙がこぼれる思いだ。パパ鳩はエサを運ぶ回数がめっきり少なくなったようだ。産卵前には、献身的な給餌回数であったが、どうしたことであろうか?
産卵の前には、「十分栄養を付けて、立派な卵を産みなさい」と励まし、産卵後の抱卵ではジッとしているだけだから、命をつなぐ程度の給餌回数に減らすというのだろうか?
数日後、お隣さんの東窓の雨戸が、激しい軋み音と共に開けられた。虚庵居士は二階の書斎でその音を聞き、ドキッとした。一階のリビングに急行した。
レースのカーテンを透かして見えていた、「ママ鳩」の姿は無かった。
それ以来、二つの卵だけが枯れ枝の巣に残されたまま、「鳩ぽっぽ」は戻ってこない。
ときめきと息をころしてじじ・ばばは
レースの向こうに鳩を追うかも
ママ鳩は巣に蹲りパパ鳩は
盛んにエサを運び来るらし
鳩ぽっぽの留守幸いと巣を覗けば
羽毛は守るや卵二つを
ひたすらに卵をいだく鳩みつつ
われ育みし母を偲びぬ
帰り来ぬ鳩をおもほゆなみだして
枯れ枝の巣の卵を見れば
何処にか再び卵を温めよ
ひよこの巣立ちをじじも祈れば
かわいらしい雛を見たかったですね。。。
お見舞い有り難うございます。
「----」
言葉もない毎日です・・・。
でも、鳩ぽっぽにとっては、
安心できる子育ての環境が大切ですから。
きっとどこか安心できる場所で、
卵を抱いていることと思います。