朝の道路掃除の際に、「うつろ庵の吉備椿」の花が落ちていた。
落花して未だ間もないのであろう、蜜が花芯から溢れて、今にも滴り落ちそうであった。殆どの椿の花弁には、花蜜を吸いに来る目白の足跡が傷になって残るが、この花は無傷で、しかも花蜜もこんなに残っているのは類い稀だ。何れ目白が目ざとく見つけて、花蜜を吸いにくるであろう、このまま目白への贈り物として残すことにした。
「うつろ庵」は東南の角地だと以前に書いたが、実は西側にも私道がある。三方が生垣に囲まれているので、毎朝の落葉掃除が虚庵居士の日課の一つでもある。そんな朝の日課のご褒美が、「吉備椿」の落花であった。この「吉備椿」は、西窓の日除けになっているので、木漏れ日がリビングにさし込んで、詫び住いとはいえ何とも云えぬ風情を醸してくれている。更にまた、冬のこの時節には目白が椿の花蜜を吸いに来るので、虚庵夫妻にとっては窓越しに目白の曲芸を愉しませて貰える、掛け替えのない椿でもある。
この地に庵を構えて間もなく、「吉備椿」の色合いと咲き振りに惚れ込んだ虚庵夫人は、一枝を頂いて挿し木したものだ。あれから何年が過ぎたろうか、今では「うつろ庵」に無くてはならない、大切な「吉備椿」となった。
一輪の吉備の椿の花落ちて
花粉は伝ふや もののあわれを
吉備椿の花落ちてまだ間も無きか
花蜜あふれて滴らむとすれば
花蜜の溢れる吉備のこの花を
目白に残さむ疾く来て召しませ
見上げれば俯く吉備の椿かな
笑みを湛えてささやく風情に
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