「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「巨龍出現!」

2012-01-16 13:11:42 | 和歌

 散歩の途上でふと見上げたら、牙をむいた「巨龍出現!」に、後ずさりした。

 今年の年賀状には、長谷川等伯の龍を拝借して「龍翁睥睨・りゅうおうへいげい」としたが、虚庵居士の頭の中には未だに龍翁が棲みついていたようだ。散歩の途上で、不意に大銀杏の古木に出遭って、咄嗟に「巨龍出現」かと錯覚したものだ。



 大銀杏は古木になると、樹皮が垂れ下がって見事な「つらら」状になるのが特徴だ。鎌倉八幡宮の大銀杏も、見事な樹皮つららを持っていたが、昨年、根元から倒れて、新聞やテレビでも大きく報じられた。幸い境内には参拝客もいない時刻の転倒だったので、人身事故は避けられたようだ。門前近くに民家が迫った貞昌寺では、古木の大銀杏が倒れて、大災害を起こしてはなるまいとの気配りであろう、上部の太い幹を大胆にカットして、龍頭の部分から下を残していた。

 それにしても、この大銀杏の古木は巨龍そのものではないか。
龍頭を思わせる瘤々や、牙を連想させる樹皮つらら、小枝は髭を、下から突き出した枝は龍の腕と鋭い爪だ。そして頭の上の枝は角を思わせ、太い幹の古びた樹皮を鱗に見立てれば、総ての設えが巨龍そのものだ。

 「龍頭寺」なる別称を差し上げたくなったが、歴史ある貞昌寺にとっては、虚庵居士の遊び心は通用するまい。 


 

          妻と来てふと見上げれば 凍てつけり

          牙むく巨龍が迫り来るかな


          垂れこめるうす雲背にして轟くか

          巨龍の聲をも耳に聴くかな


          息をつき 一あし二足 近づきて

          まなこを擦れば 大銀杏かな


          つくづくと見れば見るほど龍ならめ

          寺の護りの古木の銀杏は


          いや高き古木の銀杏が倒れなばと

          住人思いて幹を切るとは
 

          人思ふ寺にしあれば人々は

          歴史を讃え先祖を祀るか