父が残したスクラップの功績は、自分でも書いたことを忘れていた原稿が残っていたこと。
出身高校のPTAに頼まれて、「後輩」むけにメッセージめいた文章を書いていたのだった。
会社をやめる直前のこと。
タイトルは、「面倒くさいけど、楽しいこと」。
今、spotlightで検索したら、あるじゃない。
ちゃんとファイルは残っている。
以下、再録。
自分としては、あんまり気分が変わっていないなあ。
会社をやめた13年前と。
**************
「面倒くさいけど、楽しいこと」
ああ、人生は短い、とつくづく思う。こうもやりたいことが多くては、人生が二度あっても、三度あっても足りない。とはいえ、そんなに何度も面倒くさい人生をやり直したいなんて思わないから、結局のところ一回勝負だ。自分に残された時間の範囲内で、どれだけのことが出来るのか、焦るでもなく、気負うでもなく、やれるところまでやってみようと思う。
なんて言いながら、「じゃあ、おまえは何をやりたいんだ」と改まって聞かれると困る。正直に答えると「世界と人間にかかわるすべての謎を解き明かしたい」なんて不遜なことを言わなければならない。それこそ100回生きたって、そんなこと不可能だ。
そこで、もっと現実的に「今、やりたいこと」を整理してみる。年内にイルカに関わるノンフィクションを書き上げて、ハーバード大学のハイイロリスについてのモノグラフも出版する。そして、西オーストラリアの自然史、南米のペンギンのリサーチも年内か来年あたりに行ないたい。野良猫の観察日記をどこかの雑誌で連載させてもらえたら最高だ。
これらはいずれも、「ネイチャーライティング」(自然についての書きもの)の仕事だが、それに加えて、懸案になっている未完成の青春小説も今年中に出版にこぎつけたい。そういえば、今年は「音楽評論をやるぞ!」と元旦の朝に誓ったっけ。
そんなふうに考えたら、目眩がしてきた。やはり、時間がなさすぎる。僕は今32歳だから、体力も知力も充実した状態というのは後20年くらいしかないだろう。とすると、その間に出来ることといったら・・・チャールズ・ダーウィンの「ビーグル号の航海」をたどる大いなる旅に出たり、南極大陸でどこかの国の基地に半年逗留して本を作ったり、いろいろな小説を書いたり、読んだり、もちろん愛する家族と楽しい時間を過ごしたり・・・こりゃあ、どう考えても会社勤めをしている暇なんてありはしない。
というわけで、とうとう会社もやめることになった。今年の4月末日をもって円満退社して、フリーの物書きになる。上記のごとき活動をしつつ、一度限り限定仕様の人生を楽しく豊かに生きたいと願う。
こんな僕が、何か後輩に伝えられるアドバイスやメッセージなんてあるだろうか? 終身雇用制度の会社を最後まで勤め上げ、社会の礎となるような根性も甲斐性もない僕は、ある意味で社会のアウトサイダーだ。それは決して誉められたものではないだろう。
だから、僕が伝えられるメッセージは言葉ではなくて、たぶん、僕の生きていくやり方だけだ。「はばたけ後輩たち」ではなく「僕はこんなふうにはばたいてみてます」とうメッセージ。
ああ、人生って面倒くさいけど、つくづく楽しい。
*************
リスのモノグラフも、野良猫観察日記も、音楽評論も実現しなかったけれど、「未完成の青春小説」は、こういうのになりました。
出身高校のPTAに頼まれて、「後輩」むけにメッセージめいた文章を書いていたのだった。
会社をやめる直前のこと。
タイトルは、「面倒くさいけど、楽しいこと」。
今、spotlightで検索したら、あるじゃない。
ちゃんとファイルは残っている。
以下、再録。
自分としては、あんまり気分が変わっていないなあ。
会社をやめた13年前と。
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「面倒くさいけど、楽しいこと」
ああ、人生は短い、とつくづく思う。こうもやりたいことが多くては、人生が二度あっても、三度あっても足りない。とはいえ、そんなに何度も面倒くさい人生をやり直したいなんて思わないから、結局のところ一回勝負だ。自分に残された時間の範囲内で、どれだけのことが出来るのか、焦るでもなく、気負うでもなく、やれるところまでやってみようと思う。
なんて言いながら、「じゃあ、おまえは何をやりたいんだ」と改まって聞かれると困る。正直に答えると「世界と人間にかかわるすべての謎を解き明かしたい」なんて不遜なことを言わなければならない。それこそ100回生きたって、そんなこと不可能だ。
そこで、もっと現実的に「今、やりたいこと」を整理してみる。年内にイルカに関わるノンフィクションを書き上げて、ハーバード大学のハイイロリスについてのモノグラフも出版する。そして、西オーストラリアの自然史、南米のペンギンのリサーチも年内か来年あたりに行ないたい。野良猫の観察日記をどこかの雑誌で連載させてもらえたら最高だ。
これらはいずれも、「ネイチャーライティング」(自然についての書きもの)の仕事だが、それに加えて、懸案になっている未完成の青春小説も今年中に出版にこぎつけたい。そういえば、今年は「音楽評論をやるぞ!」と元旦の朝に誓ったっけ。
そんなふうに考えたら、目眩がしてきた。やはり、時間がなさすぎる。僕は今32歳だから、体力も知力も充実した状態というのは後20年くらいしかないだろう。とすると、その間に出来ることといったら・・・チャールズ・ダーウィンの「ビーグル号の航海」をたどる大いなる旅に出たり、南極大陸でどこかの国の基地に半年逗留して本を作ったり、いろいろな小説を書いたり、読んだり、もちろん愛する家族と楽しい時間を過ごしたり・・・こりゃあ、どう考えても会社勤めをしている暇なんてありはしない。
というわけで、とうとう会社もやめることになった。今年の4月末日をもって円満退社して、フリーの物書きになる。上記のごとき活動をしつつ、一度限り限定仕様の人生を楽しく豊かに生きたいと願う。
こんな僕が、何か後輩に伝えられるアドバイスやメッセージなんてあるだろうか? 終身雇用制度の会社を最後まで勤め上げ、社会の礎となるような根性も甲斐性もない僕は、ある意味で社会のアウトサイダーだ。それは決して誉められたものではないだろう。
だから、僕が伝えられるメッセージは言葉ではなくて、たぶん、僕の生きていくやり方だけだ。「はばたけ後輩たち」ではなく「僕はこんなふうにはばたいてみてます」とうメッセージ。
ああ、人生って面倒くさいけど、つくづく楽しい。
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リスのモノグラフも、野良猫観察日記も、音楽評論も実現しなかったけれど、「未完成の青春小説」は、こういうのになりました。
夏のロケット (文春文庫) 価格:¥ 670(税込) 発売日:2002-05 |
http://spi-net.jp/rensai_sakuhin/channel_wa_sonomama/index.html
久しぶりに漫画を買った気がする