川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

風の音を聴きながら、子どもたちは絵本を読み上げる(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしか

2010-10-30 20:57:06 | 雑誌原稿などを公開
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイを紹介します。時々、更新して、6回目まで公開する予定。


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1、風の音を聴きながら、子どもたちは絵本を読み上げる

 気まぐれを許される職業ゆえ、去年(2009年)の7月から今年(2010年)の1月まで、ニュージーランドのクライスチャーチ市で暮らした。フリーの物書きになって10年、ずいぶんかっちり仕事をしてきた。そろそろ大学研究者の「サバティカル休暇」のようなものを取りたい、と思ったのが単純な理由。それに付き合ってくれた9歳の娘と11歳の息子(当時)は、その間、現地の公立小学校に通って、英語に苦労しながらも、まずまず学校生活を楽しんでいた模様。

 今から考えると、日常生活の中で、絵本を読むことがとても多い日々だった。ぼくは日本でも、子どもの学校の読み聞かせ活動に参加しているのだけれど、彼の地にいる間、その倍も3倍も絵本漬け、だったかも。

 きっかけは、子どもたちが、英語を母語としない児童のための補習授業にも出席して、毎日のように簡単な絵本を家に持ち帰ってきたこと。「習うより慣れろ」方式? とにかく、どんどん読んで、状況に応じた語彙やフレーズを拾っていく。学習用に特化したものなので、ストリーといっても、単に家族で買い物に出かけたり、バーベキューパーティを開いたり、といった他愛のない内容。学習絵本というカテゴリーが確固として存在し、これでもかってくらい様々な種類があった。

 一応、ぼくは「休暇」なので、滞在中はそれほどたくさん仕事せず、放課後や休日は子どもたちと遊びたおした。だから、子どもたちの英語の勉強の時間を確保するのにも、工夫が必要だった。眠る前のひとときに必ず読むように習慣づけたり、近所の桟橋から釣りをしながらとか「待ち時間」がある遊びの中でもページを開くのがいつのまにか習慣になった。

 それにしても、子どもは吸収力は本当にすごい。会話文で頻出する"said" や"say"も「サイド」「サイ」と読んでいたのが、いつしか「セッド」「セイ」となると、ほかの似たような綴りにも自然と応用が利いていく。ただ……聞いたり、訂正したりしている側としては、やっぱり……退屈。だって、学習用絵本はやはり、学習用であって、読んだ後じっくり噛みしめたくなるような作品性が、絵にも文章にも薄いのだ。

 そこで、近所にある公立図書館の登場。窓の面積が大きな明るい建物で、十冊まで同時に借りられる。子どもが学校に行っている日中に訪れると、未就学児がお母さんの膝の上で読み聞かせる微笑ましいシーンがあちこちで見られた。何度も顔を見るうちに、お気に入りを教えてくれる人もいたっけ。

 本格的な(?)絵本は、やはり味わい深いものが多い。ばっちり「作品」であり、純粋に楽しい。その反面、文章が多少むずかしい。子どもが読むものなのに、ぼくたちが学校では習わない単語や言い回しが頻出する。俗語的な表現や、子どもの世界でだけよく使われる言葉だ。日本から持ってきた小さな辞書には出ていないし、ネット検索してやっと理解できることもあった。いちいち検索するのは面倒なので、分からないところはぼくも一緒になって想像した。その分、絵本の味わいをさらに深く感じるようになったかもしれない。

 中でも、お気に入りは、Melanie Wattの"Scaredy Squirrel"(思い切り臆病で用心深いリス君の小さな小さな冒険の話・邦訳あり)や、Rebecca S. Wheelerの"How Absurd"(女の子が想像の中で色々な動物をくっつけて新種を作っていく話)や、Kazuno Koharaの"The Haunted House"(まさにお化け屋敷!のお話・邦訳あり)など。最後のお化け屋敷本は、著者の名から日本語からの翻訳かと思いきや、もともと英語で書かれたもので、いわゆる逆輸入?

 帰国して「休暇」から復帰してしまった今、絵本とのかかわりは、また、学校での読み聞かせが中心だ。意識の前景からかなり遠のいて、あ、来週、自分の番だ、というときになってやっと何にしようかと物色し始める程度。絵本漬けだった「あの頃」が無性に懐かしい。ベッドの上で3人で同じページを目で追いあーだこーだと話し合ったり、釣り糸の先を気にしながら子どもたちがたどたどしく読み上げるのを風の音と一緒に聞いていたり。あー、平和だったなあ、しみじみシアワセだったなあ、と。

 日本にいて、わざわざ英語の絵本を読んだりはしない。今の暮らしの中で、その必然性がないし、息子も娘も、ぼくも、それぞれにこの社会の中で忙しい。やっぱり、子どもごと「休暇」を取って正解だった。そして、もうあんな時間はもう二度とないだろうなあと思うと、切なくも胸が苦しいのだった。

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 ここで紹介した絵本はリスもお化け屋敷も邦訳が出ています。
 でも、ここでは英語版をリンク。ペーパーバック版とはいえ、脅威の価格ですぜ。

Scaredy SquirrelScaredy Squirrel
価格:¥ 683(税込)
発売日:2008-04

How AbsurdHow Absurd
価格:¥ 1,652(税込)
発売日:2007-07-20
The Haunted HouseThe Haunted House
価格:¥ 825(税込)
発売日:2008-10-03


 ちなみに、Rebecca S. Wheelerは、絵本の他にもずいぶん仕事がある人なんだなあと発見。
 あるいはただの同姓同名?


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。初めてコメントします。先日はお会い... (M.Ohsaku)
2010-10-31 16:09:23
"The Haunted House"、ニュージーランドで出会ったのですね。私も大好きで、いまちょうど、図書館から借りてきています。近々、日本語版をおはなし会で読む予定です~。
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どうもです。 (カワバタヒロト)
2010-10-31 20:26:41
「お化け屋敷」は今年になってからも、新しいシリーズが出たみたいですね。こういうとところで海外進出事例があるのはおもしろいです。

今、「シャドラック」よんでますよ-。
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