草の葉

高山村にある、緑に包まれたギャラリー

海をわたる

2010-01-02 11:42:20 | 雑感
舟は出港した。
光る冬の海に。
直に見えなくなると思ったが、
その舟は、沖合に出ることができず、
すぐそこで漂ったまま。

行く先はわかっているのに、
航路がわからないでいる。

羅針盤がないのだ。

ワタシは、それを渾身の力で投げてみるのだが、
どうにも届かない。

ああ、前途は多難。

いや、いいのだ。
それがなかった時代の人々も航海していたではないか。
北極星を頼りに。

でも、悪天候で見えないときは?
その時は、
ただただ、海の上でじっと立ち止まっていればよいのだ。
身をかがめ、嵐が過ぎるのを待つしかない。

こんな小舟ではすぐに転覆してしまうよ。
それはもう、
運。
天に任せるしかないのだ。



        ::::


    愛することは
    海をわたることだ
    空を南にかたむけて
    水尾の行く手へ
    たわんだまま
    はるかなものと
    なってわたることだ
    ひとはかがやかしくて
    ゆえに告げおわる
    香料の未明へ
    翻る蹄鉄を
    墓はひそかに埋めもどし
    荒廃のまえの
    さいごのやさしさとなって
    愛することは
    海をわたることだ
        ___石原吉郎___






その舟が、
行きつ戻るつしながらも、
この海を渡りきるのを信じ、祈りながら、
ワタシも、
また、ひとり海を渡り始める。