舟は出港した。
光る冬の海に。
直に見えなくなると思ったが、
その舟は、沖合に出ることができず、
すぐそこで漂ったまま。
行く先はわかっているのに、
航路がわからないでいる。
羅針盤がないのだ。
ワタシは、それを渾身の力で投げてみるのだが、
どうにも届かない。
ああ、前途は多難。
いや、いいのだ。
それがなかった時代の人々も航海していたではないか。
北極星を頼りに。
でも、悪天候で見えないときは?
その時は、
ただただ、海の上でじっと立ち止まっていればよいのだ。
身をかがめ、嵐が過ぎるのを待つしかない。
こんな小舟ではすぐに転覆してしまうよ。
それはもう、
運。
天に任せるしかないのだ。
::::
愛することは
海をわたることだ
空を南にかたむけて
水尾の行く手へ
たわんだまま
はるかなものと
なってわたることだ
ひとはかがやかしくて
ゆえに告げおわる
香料の未明へ
翻る蹄鉄を
墓はひそかに埋めもどし
荒廃のまえの
さいごのやさしさとなって
愛することは
海をわたることだ
___石原吉郎___
その舟が、
行きつ戻るつしながらも、
この海を渡りきるのを信じ、祈りながら、
ワタシも、
また、ひとり海を渡り始める。
光る冬の海に。
直に見えなくなると思ったが、
その舟は、沖合に出ることができず、
すぐそこで漂ったまま。
行く先はわかっているのに、
航路がわからないでいる。
羅針盤がないのだ。
ワタシは、それを渾身の力で投げてみるのだが、
どうにも届かない。
ああ、前途は多難。
いや、いいのだ。
それがなかった時代の人々も航海していたではないか。
北極星を頼りに。
でも、悪天候で見えないときは?
その時は、
ただただ、海の上でじっと立ち止まっていればよいのだ。
身をかがめ、嵐が過ぎるのを待つしかない。
こんな小舟ではすぐに転覆してしまうよ。
それはもう、
運。
天に任せるしかないのだ。
::::
愛することは
海をわたることだ
空を南にかたむけて
水尾の行く手へ
たわんだまま
はるかなものと
なってわたることだ
ひとはかがやかしくて
ゆえに告げおわる
香料の未明へ
翻る蹄鉄を
墓はひそかに埋めもどし
荒廃のまえの
さいごのやさしさとなって
愛することは
海をわたることだ
___石原吉郎___
その舟が、
行きつ戻るつしながらも、
この海を渡りきるのを信じ、祈りながら、
ワタシも、
また、ひとり海を渡り始める。
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