草の葉

高山村にある、緑に包まれたギャラリー

緑、みどり____立原道造

2008-05-16 13:35:34 | 山の暮らし
 先日、古書店で、立原道造の私刊版詩集『暁と夕の詩』の復原版を手に入れた。

昭和14年に没した彼が、生前に刊行し得た自選詩集の2冊目にあって最後のものだ。
ノスタルジックなその装丁は____
覚書によると、
___或る初秋、不思議な形で、「緑のハインリッヒ」という言葉が彼を刺す。
彼はその時、すべてを緑の無限に微妙な色合いの中に見たという。
そして、数人の師友や知人に頒布するコレを、緑の紙で、紙自らが自らの暁と夕とを表現する緑の形式で。
そしてまた、もう一つを、
彼の中に絶えない音楽に未知の読者を招待するという意味で、橙色のドイツ風のフルート曲譜のようにしたという。


含まれる十のソネットは、すべて暁と夕との間に光りなく眠る夜の詩。

____形ないもの、淡々しい、否定も肯定も中止された、ただ一面に影も光もない場所に、生きたる者と死したる者の中間者として漂ふ。
死が生をひたし、僕の生の各瞬間は死に絶えながら永遠に生きる。
おそれとをののきとが、むしろ親しい友である。____


学生時代、よく読んでいた立原道造だが、
歳を経ては、どういうわけか、この五月の風の中に詩集を手にすることが多くなった。



  一日 草はしゃべるだけ
  一日 空はさわぐだけ
  日なたへ 日かげへ過ぎて行くと
  ああ 花 色とにほひとかがやきと

  むかしむかし そのむかし
  子供は 花のなかにいた
  しあわせばかり 歌ばかり
  子供は とほくに旅に出た
 
  かすかに揺れる木のなかへ
  忘れてしまった木のなかへ
  やさしく やさしく笑ひながら

  そよぎながら ためらひながら
  ひねもす 梢を移るだけ
  ひねもす 空に消えるだけ


 
____決意と拒絶といふ二つの言葉が生きるといふ事実にむかひあふ、生きるとは、限りなく愛し、限りなく激しくあることだと。光が誘ふ。____

果たして、
70年前というのは、遠い昔なのか、ついこの前なのか・・・・


   
     ワタシは、
     木々にそそぐ光を眺めながら
     木々を揺らす風を感じながら、
     緑、みどりの高山の五月に詩集をひらく。

     光と闇との中間、
     暁と夕との中間に在り、
     24歳で逝った彼を想いながら・・・・