黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

札幌2日目

2008-08-28 07:21:46 | 仕事
 朝から雨模様。10時に旧知の批評家北村巌氏と会い、喫茶店で近況報告が寺雑談(議論)。札幌在住の北村氏とは、彼が学校職員をしていた20年ほど前に、僕が『祝祭と修羅―全共闘文学論』(彩流社刊)を出したことからコンタクトを取ってきて、小樽文学館で「小林多喜二」について講演した際に会って以来の間柄で、彼が北海道庁職員として北海道立文学館の学芸員であったとき、僕を文学館に呼んでくれ、「北海道の文学―三浦綾子を中心に」という内容で話したこともあった。現在彼は定年前に退職し、批評一筋の生活をしている。『島木健作論』で北海道新聞文学賞も受賞している「文学の徒」とも言うべき人である。午前中に彼と会ったのは、昼に会う約束をしていた北海道新聞文化部の編集委員の佐藤孝雄氏に紹介するということがあったからである。
 話は、今裁判で係争中の道立文学館における「パワハラ」問題に及び、さすが元道立文学館の学芸員、僕がインターネットで知っているのとは別な見解を出してくれ、「なるほど」と思うことが多かった。しかし、午後3時に道立文学館で「三浦綾子資料」を見せていただき、理事長の神谷忠孝氏(元北大教授)とも旧交を温める予定の僕としては、当然裁判の話に及ぶであろうことを思うと、複雑な気持ちになったのも事実である。
 というのも、この道立文学館における「パワハラ」問題は、訴えた本人はまったく知らない女性なのだが、彼女の父親はまだまだ僕が駆け出しの批評家だった時代から、実家が僕の家から500メートルしか離れていないということもあって、(僕としては)親しく付き合ってきたつもりの著名な近代研究者(批評家)の亀井秀雄氏で、彼のブログで裁判の経緯を見守ってきたということがあり、何が何だか「他人」にはよくわからない部分がたぶんに存在すると思っていたからに他ならない(詳細を知りたい人は、ネットで「亀井秀雄」を検索し、「この世の眺め」という亀井氏のブログを読んでほしい)。昨日会った北海道新聞文化部の記者たちも、裁判の双方をよく知るがゆえに、「触らぬ神にたたりなし」といった態度であったことも頭に残っており、僕としては「関心」はあるが、そのことに直接「関わらない」と態度に決めていたのである。
 案の定、昼を北海道新聞の佐藤氏、北村氏とラーメンを食べ、コーヒーを飲みながら情報交換をした後、道立文学館を訪ねると、約束の時間より30分も前から待っていてくれた神谷氏と副館長の平原氏とを交えて、結局は「パワハラ」裁判の話になり、なるほど「当事者」はこのように考えるのか、「情報」というのは、当たり前だが「表」と「裏」があり、一筋縄ではいかないものだということを痛感させられた。僕としては、亀井氏の側にも訴えられた平原氏はじめ道立文学館の側にも加担するつもりはなく、半可通の意見ほど危険なことはないと思って、文学館側の意見をもっぱら聞き、そして主目的であった「三浦綾子資料」を見せていただき、2時間ほどの文学館訪問を終わったのだが、正直に言って「疲れた」。
 夜は、前から会いたかった北海学園大学の准教授田中綾さんと午前中に会った北村氏の三人で会食。田中さんは、面白い短歌論や歌人論を書く学者(批評家)で、僕のところに著書や論文をよく送ってくれていたので、旧知の間柄という北村氏が会わせてくれたのである。物静かな女性で、僕と北村氏が結局道立文学館の「パワハラ」問題で喧々諤々の議論をしているのを見守っていただけだが、僕のよく知る批評家の「知られざる情報」を聞き、ここでも「なるほど」と納得し、心地よい疲れの中、ホテルに帰って熟睡。
 疲れた。