餌の給与上留意すべきことがある。
反芻動物である牛の特性を考える上で、栄養だけを考慮に入れることは、大変危険なことがある。
牛などは外敵に襲われる恐れがあるから、草を食べられる時に一気に食べて、安全な場所に移動して休息を取りながら、食べたものを口内に戻して、噛み砕いて唾液とともに飲み込むという習性があり、この噛み戻す行為を反芻と言い、反芻を行う動物を反芻動物と呼ばれている。
反芻動物の胃は、4つの胃から成り、草などを一度に多量を食い溜めするために第一胃(ルーメン)は100リットルを越す大きさが有る。
単胃の動物は胃酸の働きによって食べ物を消化させるが、反芻動物の場合は、その吸収の仕方が異なる。
草など飼料を分解吸収させるために、ルーメン内には、微生物や細菌や原虫などが数多く住み着いていて、これらが発酵によって飼料を分解して消化し易くする。
反芻によって唾液とともにルーメン内に戻された飼料は、体内温度で適温となり、さらに微生物等の発酵を盛んにする。
ルーメン内発酵によって、飼料中の蛋白質や炭水化物はアミノ酸などに分解変換されるが、これらの成分は、単胃動物では胃内で吸収されるが、反芻動物は第4胃や小腸で胃酸や消化酵素の分解を受けて小腸から吸収される。
また、ルーメンでは、飼料中のブドウ糖をもとに微生物によって出来た牛のエネルギー源である揮発性脂肪酸(VFA)を胃壁から吸収して栄養成分としている。
牛における飼料成分の消化は、概略以上の通りであるが、ルーメン内微生物などの発酵を阻害するような飼料給与により、急死などの取り返しのつかない結果を招くことが多々ある。
それは、ルーメン内のPH異常、とくに強酸性になり食滞つまりルーメンアシドーシスに罹ることである。
PHを中性に保持する粗飼料主体では、VFAは酢酸や酪酸が多く作られるが、穀類中心の給与となれば、ルーメン内が酸性となり、酢酸の代わりにプロピオン酸と乳酸が作られる。
プロピオン酸は肥育では有効な酸であるが、乳酸は酸性がかなり強いため、乳酸の増産はルーメン内も酸性が異常に強くなる。
その乳酸が増加する主な原因に、穀類の多給がある。
肥育牛の場合は、穀類の多給は避けられないが、肥育では、初期から異常な乳酸の発生を避けるために、最低でも乾物中の10%以上を粗飼料給与でまかなうとともに、飼料の給与量を急激に増加させない方法が取られているために、乳酸の弊害を抑えている。
但し、それらを完全に行わないケースでは、慢性的にルーメン内の酸性化が起きて、食欲不振などを起こしている。
牛を飼う上で、とくに濃厚飼料の種類や給与量を急激に替えることも、ルーメン内を酸性化させる原因となり、微生物などの減少や大方が死滅するため、食滞や胃炎などを引き起こし、細菌が血管に侵入することで、肝膿瘍などにも繋がることになりかねないのである。