牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(12)

2009-04-15 18:46:02 | 雌牛



写真2 ワイヤを左右に引きながら角を切断中




写真3 切断が終了した角


④除角する(2)
同様の除角器に3)コンベックスというものがある。これも全長が1m以上あるが、キーストンの刃は上下に切れるが、当器は半円径状の内刃が中心にあり、その外側に沿うように半円状の受け金があり、2本の木製の柄を狭くすることにより、両刃が密着することで除角するという器具である。
また器具と言うより、文字通り数本の針金を縒ったワイヤの両端を、術者が掴む取っ手(除角ハンドル)に固定して、ワイヤを角の切断面に当てて、術者が左右に引き返すを繰り返すことで除角する4)除角ワイヤが有る。
写真2は、子牛市場から導入して間もなく除角し、10産を終えて、他所から戻ってきた老廃雌牛であるが、若齢時に除角することで、残った角地が変形して徐々に伸び、項と耳の付け根辺りの皮膚に食い込もうとしていたため、除角用ワイヤで切断中の写真である。
写真3は、同ワイヤで切断した断面である。
この他、水道の給水管などに用いられている塩ビのパイプを、一気に切断する専用の5)鋏を利用して除角しているケースもある。

繁殖雌牛の育成(11)

2009-04-14 18:21:19 | 雌牛
                 写真1 生まれて2週間目の除角






④除角する(1)
除角については、複数の県に於いて、除角を推進する指導がなされているが、全国的な普及割合は、かなり低いようである。
前述したように、畜主の条件次第では、除角を必要とするケースもあるため、除角が不要とは言いかねるが、熟練の管理者の元では、必ずしも必要とは言い難い。
公共の施設などでは、管理担当職員の安全性を考慮に入れて、生後約1ヶ月以内に、角の生える部分に電気やガスを熱源とする除角器で数秒間押し当てて除角することにより、無角牛同様に除角しているケースがある。
写真1は、その除角風景である。
60年頃には、生後間もない子牛の除角に苛性加里を用いていたとある。
また、角が伸びたものを除角する道具としては、45年以前から利用されているもので、2本の柄を両手で円形状に回しながら角を切断する1)元祖除角器があるが、これは、切断面が平面に切れず、頭部の方へ丸く食い込むことがある。
切断面が水平に切れる道具に2)キーストン除角器がある。これは全長が90cm以上有り、木製の長い柄が着いていて角の切断面を、同器の先端の上下の刃の中に入れて、一気に両方の柄を植木鋏様に切るもので、かなりの重量感があり体格に自信のある術者向けである。

繁殖雌牛の育成(10)

2009-04-13 18:54:50 | 雌牛


③任意で家畜共済などに加入する。
家畜共済については、牛に掛ける健康保険様のものであるが、畜主全員が加入しなくてはならないというものではなく、任意での加入となる。
和牛の繁殖牛と肥育牛や酪農とは、加入の内容が若干異なっているようである。
肥育牛などでは、生産地の地元農業共済が管轄する範囲内によって、疾病率や死廃率が高ければ、その地域の共済掛け率も高く、低ければ掛け率も低くなるシステムになっている。
また家畜共済は、疾病にかかる保険と死廃にかかる保険の2本立てから成っている。
疾病時の診療については、初診料が通常1,050円で、土日祝日と夜間は2,100円を畜主が負担するが、診療費については保険が適用される。
この共済制度は、加入後、無制限に保険が適用されるものではなく、疾病等の診療についても死廃についても、その上限が設定されている。
経年的に、診療等の利用率が少なく、その限度額に大幅な差が生じている場合は、3年ごとの見直しで、掛け金率も下がるが、加入者の要望で掛金のランクを引き下げることも出来る。
その場合、保険金額の上限がさらに下がったり、死廃の対象還付額が低くなるケースもあるが、いずれにしても、自らの飼養管理の結果、疾病率等と掛金とのバランスを考慮にして、効率的な加入を考慮することも必要ではないだろうか。
要は、共済制度のシステムを熟知してから加入しないと、死廃等が生じた時に、思惑違いの結果を招くことがある。

最近は、獣医師自身が畜主という例もあり、また牛をテキスト通りに支障なく飼養管理したり、それ以上の熱意で管理している畜主などで、疾病率や事故率が極力少なく、飼養管理に自信のある場合は、未加入のケースがあると聞く。
同共済に加入することは、疾病牛の治療を専門家に委ねることでのプラス面が多々あったり、患畜が出た際に、的確に対処できるのも獣医師である。
獣医師の指導を受けることで、徐々に疾病率が低下することにより、健康を取り戻すとともに、掛金率が下がるなどのメリットも生じてくる。
飼養管理の良し悪しによっては、必ずしも掛け損に至るとは言い難い。
繁殖雌牛の場合、餌の給与量の急変や盗食等による食滞、繁殖障害による診療などが予測できるため、同共済への加入は考慮に値する。

繁殖雌牛の育成(9)

2009-04-12 08:00:56 | 雌牛


②導入したら移動報告を行う。
日本でも牛海綿体脳症(BSE)の発症が確認され、その後トレサビリティーなる取り組みが実施されるようになり、国内に生存する全ての牛について、2004年12月から個体識別番号を記した黄色い耳標(タグまたはタッグ)の装着が義務づけられる様になった。
生まれた仔牛にも、しかるべき手続きの上、耳標を装着するとともに、牛を他所に移動した場合は、相手先の電話番号を付記して異動一括報告カードを家畜改良センター個体識別部へ報告することになっている。
最近は、インターネットの普及によりネットでの報告が一般的なようである。
当然繁殖用素牛を導入した場合も、上記により個体識別部へ移動報告することが義務づけられている。
この個体識別番号は、牛が一生涯同一でなければならないが、枝肉になり店舗でバック詰めされるまで、同番号が付記されて販売されている。
この個体識別番号制度は、それにより何時何処の誰による生産なのか、品種性別などと生まれてからの移動の経過が判るようになって、万が一BSEが発生した時に、その履歴によって発症の原因究明に役立っている。
当初は、10桁の数字に違和感があったが、時が経ち慣れることによって、肥育現場などでは、群内における個々の牛の識別が容易になったり、食肉市場から届けられる仕切り書なども同番号が付記されているために、格付け結果や仕切り内容などの個体確認が容易になった。
同システムが正確に運用されることにより、牛の盗難や不正が極端に減少する結果にもなっている。

写真は、鳥取全共でのチャンピオン牛であるが、全共などの共進会や子牛市や肥育牛の市場出荷などでも、この個体識別番号が確認され受付される。
牛の異動の全ては、同番号から始まる。

繁殖雌牛の育成(8)

2009-04-11 08:33:13 | 雌牛


①各種予防接種を行う。
予防注射については、5種混合ワクチンとヘモフィルスワクチン(1回目)は、子牛生産者が実施して子牛登記書の裏にその接種の詳細を記して子牛の競り市に出荷するシステムになっている。
第2回目のヘモフィルスワクチン接種は、自家保留牛や競り市から新規導入してから、子牛登記書の裏に記された接種日から約1ヵ月目に実施する。
2回目を確実に接種しないと導入後1~3ヵ月目に突然発症する恐れがある。
5種混合ワクチンは牛伝染性鼻気管炎、牛ウイルス性下痢症-粘膜病、牛のパラインフルエンザ、 牛RSウイルス感染症及び牛アデノウイルス感染症の予防用であるが、このワクチンは生後4~5ヵ月目に接種しているケースが多いため、導入後にRSウイルス感染症の感染を受けた群飼いなどでは、月齢のやや高い牛ほど感染しやすく、もたもたしていたら死亡することもある。
それらしき感染を見たら、導入から3~4ヵ月以内の全頭に再度同ワクチンの投与が効果的である。
その他、アカバネウイルス生ワクチンや牛下痢5種混合不活化ワクチンなどの接種も考慮に値する。
これらの二つのワクチンは毎年実施することで、その接種効果が顕著となる。
最近は、牛用に2~6種混合の様々なワクチンが開発されていて、キャトルウィン-6などは、牛伝染性鼻気管炎・牛ウイルス性下痢-粘膜病2価・牛パラインフルエンザ・牛RSウイルス感染症・牛アデノウイルス(7型)感染症の予防を対象とした製品も出回っているようである。
予防用ワクチンについては、出入りの獣医師の指導を受けて、牛の事後の体調にトラブルが出無いよう細心の注意が不可欠である。

写真は、予防接種を行うために繋がれた子牛たち

繁殖雌牛の育成(7)

2009-04-10 00:01:28 | 雌牛


繁殖用子牛について、導入から育成中に行うことが様々ある。
先ず、①各種予防接種を行う。②導入したら移動報告を行う。③任意で家畜共済などに加入する。④除角する。⑤鼻環を装着する。⑥矯角をする。⑦引き運動をする。⑧日光浴をさせる。⑨手入れをする。⑩削蹄を定期的に行う。⑪調教をする。⑫種付けを行う。⑬登録検査を受けるなど、拾い上げるときりがない。
これらの一つひとつ全てを行う必要があるかないかは、それぞれの畜主が判断して実施すべき内容である。
その中で子牛の導入以降不可欠なのが、①②③⑨⑩⑫⑬位いなものである。
ただ、畜主の飼養規模や従事者の数や年齢等、施設の内容等によっては、④除角や⑤鼻環装着などは必要なケースもあろう。
除角して、さらに矯角とは矛盾しているが、除角しなければ矯角も視野にあることから羅列した。
次回から、これらの一つひとつについて、記述する。

繁殖雌牛の育成(6)

2009-04-08 00:31:46 | 雌牛


餌の給与上留意すべきことがある。
反芻動物である牛の特性を考える上で、栄養だけを考慮に入れることは、大変危険なことがある。
牛などは外敵に襲われる恐れがあるから、草を食べられる時に一気に食べて、安全な場所に移動して休息を取りながら、食べたものを口内に戻して、噛み砕いて唾液とともに飲み込むという習性があり、この噛み戻す行為を反芻と言い、反芻を行う動物を反芻動物と呼ばれている。
反芻動物の胃は、4つの胃から成り、草などを一度に多量を食い溜めするために第一胃(ルーメン)は100リットルを越す大きさが有る。
単胃の動物は胃酸の働きによって食べ物を消化させるが、反芻動物の場合は、その吸収の仕方が異なる。
草など飼料を分解吸収させるために、ルーメン内には、微生物や細菌や原虫などが数多く住み着いていて、これらが発酵によって飼料を分解して消化し易くする。
反芻によって唾液とともにルーメン内に戻された飼料は、体内温度で適温となり、さらに微生物等の発酵を盛んにする。
ルーメン内発酵によって、飼料中の蛋白質や炭水化物はアミノ酸などに分解変換されるが、これらの成分は、単胃動物では胃内で吸収されるが、反芻動物は第4胃や小腸で胃酸や消化酵素の分解を受けて小腸から吸収される。
また、ルーメンでは、飼料中のブドウ糖をもとに微生物によって出来た牛のエネルギー源である揮発性脂肪酸(VFA)を胃壁から吸収して栄養成分としている。
牛における飼料成分の消化は、概略以上の通りであるが、ルーメン内微生物などの発酵を阻害するような飼料給与により、急死などの取り返しのつかない結果を招くことが多々ある。
それは、ルーメン内のPH異常、とくに強酸性になり食滞つまりルーメンアシドーシスに罹ることである。
PHを中性に保持する粗飼料主体では、VFAは酢酸や酪酸が多く作られるが、穀類中心の給与となれば、ルーメン内が酸性となり、酢酸の代わりにプロピオン酸と乳酸が作られる。
プロピオン酸は肥育では有効な酸であるが、乳酸は酸性がかなり強いため、乳酸の増産はルーメン内も酸性が異常に強くなる。
その乳酸が増加する主な原因に、穀類の多給がある。
肥育牛の場合は、穀類の多給は避けられないが、肥育では、初期から異常な乳酸の発生を避けるために、最低でも乾物中の10%以上を粗飼料給与でまかなうとともに、飼料の給与量を急激に増加させない方法が取られているために、乳酸の弊害を抑えている。
但し、それらを完全に行わないケースでは、慢性的にルーメン内の酸性化が起きて、食欲不振などを起こしている。
牛を飼う上で、とくに濃厚飼料の種類や給与量を急激に替えることも、ルーメン内を酸性化させる原因となり、微生物などの減少や大方が死滅するため、食滞や胃炎などを引き起こし、細菌が血管に侵入することで、肝膿瘍などにも繋がることになりかねないのである。


繁殖雌牛の育成(5)

2009-04-04 13:48:03 | 雌牛


牛を飼うからには、役に立つ教本を身近に置くと便利である。
この様な技術本は、飼養技術に関する中身が日進月歩の如く進歩するために、少なくとも10年間隔で更新されたものを身近に置いて、参考にすることが何かと役に立つ。
最近発行の冊子が有る。それは日本飼養標準 肉用牛 (2008年版)で、平成21年3月25日に発行された。
以前のものより、肉用牛を飼養するための諸々の説明が詳細に記されている。
この一冊を身近に置くことで、牛に必要な栄養分やミネラル・ビタミン類や飼料成分表など餌に関する全てが理解できる。
本書では、枝肉評価や、疾患などの詳細も掲載されており、諸に牛飼いの目安となっている。
飼養標準に関する留意点なども詳細に記されている。
以前は、肥育牛に関しては、発育段階の体重毎の蛋白質や養分総量などを参考に、畜舎廻りにある粗飼料や濃厚飼料を当誌巻末にある飼料成分表を基に飼料計算して給与量を検討していたに過ぎなかった。
新版によると、総じて、頁数も増えて牛飼いの手引き書的になっている。
また、巻末にソフト(養分要求量計算プログラム)CD-ROMが添付されていて、個々の単味飼料の給与量を入力することで総量が計算でき、電卓を叩く必要がなく便利になっている。
牛飼い諸氏にも、是非本書を一冊入手して、健康的で効率の高い牛飼いを実践するための参考とされればと紹介した次第である。
本稿は繁殖雌牛の育成がテーマであるが、雌牛についても、生時から妊娠、授乳中の飼料設定が掲載されており、繁殖雌牛の育成の力強い手引き書になるはずである。
勿論、繁殖雌牛の日常管理と妊娠分娩や肥育についても同様である。
但し、子牛の飼い方に関しては、肥育現場が欲する飼い方であるかは、その肥育場での肥育法の違いにより、飼養標準が100%だとは言い難い面はある。
それは、研究機関などによる様々な実験結果がその基準となっているからである。
筆者もその関係機関に籍を置いた経験者であるが、子牛の育成や肥育レベルが実際の産業現場とは、かなり異なっているからである。
願わくば、これらの現場のデータが取り入れられていれば、より信頼性の高いものになったのではないかが筆者の感想である。

本紙は、中央畜産会が発行している。価格は1冊3,500円。
近くの畜産振興協会などで注文を受けている。


4月2日早朝、全国的に精液が供用され著名な勝忠平号が、急死したことをコメンターから知らされた。
平茂勝号の跡継ぎとして期待されていた種雄牛であった。
勝忠平号の功績を讃えるとともに、貢献に感謝し、冥福を祈る次第である。



繁殖雌牛の育成(4)

2009-04-02 23:17:40 | 雌牛



繁殖用の子牛を育成するには、牛の体調を最優先として、牛本来の特長を生かした飼い方が正常な飼育法である。
その最大の特長は、反芻動物であると言うことであり、そのために「牛は草で育てよ」の格言通りに良質な粗飼料を主として育成することにより、順調な体成熟が可能となる。
それにより、体内の微生物、酵素、ミネラル、ビタミン類、ホルモン分泌などが正常に作用する。
このことによって、順調な発育や妊娠をものにすることが出来る。
良質の乾草やヘイレージを飽食させた上で、飼養標準にある雌牛の体重別に示されている可消化養分総量(TDN)、粗蛋白質(CP)、乾物量(DM)、可消化エネルギー(DE)、ミネラルなどが満たされるだけの配合飼料を補足する。
写真は、手作り連動スタンチョンを利用した育成中の雌牛群に、イタリアンライグラスなどのヘイレージを子牛の時から飽食させている様子であるが、このようにヘイレージを多量に摂取させることにより、カルシューム・リン・マグネシュームなどの無機物(ミネラル)等も確保されるが、粗飼料が良質であるほど蛋白質などは摂取過多と成りやすいが、飼養標準はあくまで、目安であって、個々の牛の消化能力には個体差もあるために、差ほど弊害になることはないようである。
その結果が、前回の雌子牛の良好な発育ぶりに繋がっている。
配合飼料で増体しているのではなく、ヘイレージ効果により腹容が豊となり、理想的な発育状態となっている。