歴声庵

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佐々木克著 「戊辰戦争」

2007年06月21日 22時43分22秒 | 読書

 先日感想を書いた原口清の「戊辰戦争」、石井孝氏の「維新の内乱」「戊辰戦争論」を受けて書かれた著書です。筆者の佐々木氏も、原口氏と石井氏が唱える「明治新政府=絶対主義権力」には異論はないらしく、本書の特徴として「徳川慶喜についての考察」と「奥羽越列藩同盟の性格についての考察」が挙げられ、これが原口氏と石井氏の主張と異なります。
 慶喜については筆者は全般的に批判的で、「その場の思いつきで行動する」と非難して鳥羽伏見の開戦の責任、敗戦後部下を見捨てて脱出した、江戸帰還後も他人任せとかなり酷評してるのが特徴です。ただ江戸帰還後の慶喜の動向については原口氏の説と本質的な意味では同じで、これを慶喜に対して好意的に書くか否定的に書くかの違いで原口氏の説と佐々木氏の説が分かれていると感じました。
 また恐らく筆者が最も主張したかったと思われる「奥羽越列藩同盟の性格」については、原口氏の唱える「大政奉還が目指した理想のコースの現実化した政権」を更に超えて、新政府に対抗出来る諸侯連合による東日本政権と非常に高い評価を与えているのが特徴です。ただし奥羽越列藩同盟を高く評価していると言っても、「小説家」の早乙女貢や星亮一氏の様にただ「会津こそ正義!、薩長は悪!」と感情論を煽り立てて、肝心の内容は史料の後付けがない感情論の羅列ばかりと言った煽動屋とは違って、きちんと史料を調査して持論を展開する姿勢は流石は本職の歴史家の先生だと好感が持てました。
 しかし好感が持てると言っても、個人的には佐々木氏の意見には反対で、幾ら立派な体制や条文を作ったとしても、軍事指揮権の統一すら出来なかった奥羽越列藩同盟が政策面で統一行動が可能だったとは甚だ疑問ですし、そもそもあくまで薩長主導の明治新政府に対抗する勢力として誕生した、あくまで能動的な立場で発足した奥羽越列藩同盟が時代を先導する事が可能な政権だったとは思えません。

 まあ私の卑見はともかくとしまして、奥羽越列藩同盟に好意的な意見を述べてる佐々木氏ですが、箱館戦争については五稜郭の榎本一党を蝦夷共和国と呼ぶ風潮に対し「首脳部の人事決定を公選で行なったという形式と過程に目を奪われ過ぎている」とあくまで徳川家浪人の脱走軍と説明し、何でもかんでも反新政府勢力を美化する「小説家」とは一線を介した史料に基づいた持論を展開してくれます。
 また原口氏とは違い、実際の軍事行動についても踏み込んだ説明と考察をしてくれているのが特徴です。

 その様な訳で徳川慶喜に対してはやや感情的と思えるような批判もありましたが、奥羽越列藩同盟については支持をしつつも、あくまで学問として奥羽越列藩同盟を再考察と言う論調になっているので、非常に興味深く読ませて頂きました。