歴声庵

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原口清著 「戊辰戦争」

2007年06月10日 20時06分04秒 | 読書

 私の戊辰戦争史への興味が軍事関係に偏っており、戊辰戦争自体の性格等に関しては今まで不勉強だったので、遅ればせながらこちらの方も学ぼうと原口氏の「戊辰戦争」、石井孝氏の「戊辰戦争論」、佐々木克氏の「戊辰戦争」を購読したのですが、まずは原口氏の戊辰戦争の感想から書かせて頂きます。

 まず原口氏は戊辰戦争の性格を、最終的には個別領有権を否定する絶対主義権力と、個別領有権(封建主義)を認める列藩同盟(公儀政体)権力との戦争と唱えており、その理論の元で戊辰戦争史を説明しているのですが、その中で印象に残った事を箇条書きで列挙させて頂きますと。

「明治新政府は成立当時は公儀政体派の意見が優勢だったが、鳥羽伏見戦の突入と勝利を経た事により倒幕派が実権を掌握して急速に絶対主義政権化していった」
「徳川慶喜は将軍就任時は幕府の絶対政権化を目指したが、情勢の不利を悟り公儀政体派が支持する個別領有権を認める諸侯会議政権の首座に座るのを望んだ」
「草莽隊を新政府を弾圧した理由は幾つか有るが、攘夷性質が強い草莽隊を諸外国が嫌ったという点もあるのではないか」
「当初大総督府は中央政権である新政府の統制から半ば独立した存在だったが、彰義隊を巡る情勢の中で新政府の軍事官僚である大村益次郎が東下し、その指導の元で彰義隊を上野戦争で殲滅した事により、東征軍は完全に新政府の指導下に入り、後の戊辰戦争は新政府(大村)の指導下で行なわれる様になった」
「民衆は時の情勢に合わせて活動しただけで、積極的に新政府軍にも反新政府軍にも協力した訳ではない」
「奥羽越列藩同盟の性格は封建諸侯連合であり、ある意味大政奉還が目指したコースの現実化した政権だった」

 私が読んで印象に残ったのは以上の事柄です、個々の説に対する私の卑見は後日述べさせて頂きますが、これまで戊辰戦争の性格などは考えずに戦略・戦術レベルの事ばかり注目してきた私にとっては、戊辰戦争は絶対主義と公儀政体主義の戦いだったという原口氏の説は斬新であり、衝撃を受けました。この「明治新政府=絶対主義権力」の図式を当てはめる事により、今まで不勉強により上手く説明が出来なかった事の説明が出来るようになったので、これからも戊辰戦争史を調べるに当っての貴重な骨子を得る事が出来ました。
 この様にこれからも戊辰戦争を学ぶに当って非情に参考になる内容で、何故この本をもっと早く読まなかったのだろうと悔やむ程の素晴らしい著書でした。

 尚、最後に上記の通り本書は戊辰戦争の性格を述べていますが、個々の戦闘についての説明や考察はなく、箱館戦争については筆者が副次的な戦いで大勢に影響は与えなかったと判断したのか概要すら殆ど述べられていない事の二点も本書の特徴として挙げさせて頂きます。