■■【連載 経営トップ15訓】 第6訓 「社員(会員)の質・量の向上を常に意識し、退職者を極力出さないようにする」
経営トップ15訓 ”当たり前”が実行できる
経営コンサルタント歴25年を経過した時点で、(特)日本経営士協会の理事長を拝命することになりました。その際に、自分自身を戒める意味で「理事長十戒」を作り、それを日々座右におきながら仕事をしてきました。
私の経営に対する考え方の基本は「当たり前のことが当たり前にできる」「暖かい管理ができる」、その様な企業作りのお手伝いをしています。
理事長歴も長くなり、そろそろ後任の選定やその人への傾斜引き継ぎを考える時期といえましょう。この十戒に加筆をして、企業や組織のトップ・管理職の方々に向けて焼き直したものを「トップ15訓」としてまとめてみました。経営トップの皆さんだけではなく、私自身にも必要なことなので「社員」という言葉と共に「会員」という言葉も使っています。
まだまだ内容的には不充分ですが、今後もこれをベースに推敲・改訂を重ねて参りますが、その第一版として茲にご披露させていただきます。トップの方々や管理職で日夜ご奮闘されている方に、少しでもご参考になれば幸いです。 |
第 6 訓 社員(会員)の質・量の向上を常に意識し、 退職者を極力出さないようにする |
■ 日本型経営を見直す
日本型終身雇用制という言葉は死語と言っても過言ではないほど昨今では使われなくなりました。それだけ日本でも労働の流動性が高まってきています。大学や専門学校等を卒業した人の50%もが何らかの事情で離職したり、就職しないでいるショッキングな状態でもあります。
社員一人を採用する費用は、その人の給与の2倍またはそれ以上を要するといわれます。学校を卒業しても、そこで学んだことがすぐに職場で活かせるわけではありません。何の教育もしないでいると労働生産効率が低いままであり、非効率です。そこで新入社員研修を行う必要性が生まれます。
■ 雇用関連費用の大きさを認識する
中小企業では、大企業のような新入社員研修制度のないところが多いでしょうが、先輩がOJTを通じて行うことが多いでしょう。先輩社員は、当然のことながら、本来自分の業務に専念するよりは効率も下がります。そこで機会損失が発生します。その費用は莫大なものになっているかもしれません。
これらのことを考えると、一旦社員として雇用したら、その社員に終身働いてもらうことが好ましいといえます。社員も高齢化すると生産性が低下することもありますが、まだ働けるうちは働き続けてもらえる制度が、社員の退職を防ぐことになります。従来の終身雇用制を現代風にアレンジしたものを、ここでは「新型終身雇用制」と呼ぶことにします。高齢者の生産性は、報酬等で調整するなど、その対応策を考えて、新型終身雇用制をしくなどの方策を講じれば、新型終身雇用制のメリットは大きいはずです。
その制度により、雇用が安定すれば、社員の労働力は低下せず、生産性も人件費に見合ったものとなります。すなわち企業は安定的に成長します。「数は力なり」という言葉があるように、社員数が多いことは企業力を向上させます。
■ 会社は大きくすれば良いのか?
では、社員数が多ければ多いほどよいのでしょうか?
利益にも適正利益という言葉があるように、社員数など企業としての適正規模があると考えて良いのではないでしょうか。残念ながら企業や組織における適正規模に関する研究はまだ不十分ですが、急激に社員の増加が行われると管理が伴いません。管理職の質が問われるので、その部分を見ながら、適正規模を考えることができるはずです。
すなわち企業の成長を考えると、社員研修の重要性を再認識することができます。管理職の教育だけではなく、管理職予備軍の教育により、社員数が将来増えても対応できるようにしてこないと、社員数と管理の質のアンバランスから経営に失敗する道に踏み込まずに済みます。
教育により「良質な人」が増えると、そこから生まれてくる商品・サービスの良質化が進みます。すなわち「良質な物」ができるようになるのです。その様に生産性が上がると金融機関は黙っていません。無担保・無保証で低金利の資金が入りやすくなります。収益性も高まります。すなわち「良質な金」が入って来るようになるのです。
このようにして、経営品質が高まると「良質な情報」も入り、益々生産性が上がり「良質な時間」を手に入れることができるようになるのです。
すなわち「人・物・金・情報・時間・その他の経営資源」の善循環が始まるので、竜巻現象(スパイラル現象)が起こり、廻りを巻き込んで企業は上昇気流の乗ることができるのです。
■ 「数は力なり」 量と質の善循環
これは、私どもの経営コンサルタント団体でもいえます。会員数が増えると、専門性という面でもバリエーションが増え、益々専門性が高まり、それに伴い質も高まってゆきます。
経営環境の変化から、企業が求めるニーズも変化して来ています。高いレベルのコンサルティングが求められているのです。そのために、有能な経営コンサルタントでさえも一人ではそのニーズに対応できなくなってきています。クライアントのニーズに応え、満足度を高めていただくためには、専門性の高い経営コンサルタントによる組織的な対応が必要なのです。
組織的な対応により質の高いコンサルティングを提供できるようになります。それに伴い、クライアントがクライアントを紹介してくれるようになってゆきます。知名度が高まると、新たに有能なコンサルタントが入会するようになります。
企業が竜巻現象を起こせるように、私どものような団体でも「量が質を高める」善循環に繋がるのです。トップの業務の中でも「トップ営業」の重要性を常に意識をして、人脈作りを平素から行う必要があります。
■ 無償の愛
世の中には、自分の主張はするけど、自分は人に迷惑をかけていることすら気がつかない人もいます。その様な人の多くは、相手の好意にも気がつかず、感謝の念を持つこともありません。
親は子供に対して無償の愛を提供することにより、子供はすくすくと育ってゆきます。
近年、いじめが、横行とまではいきませんが、マスコミを賑わすことが多い社会現象の一つです。親が親になりきれず、泣き声がうるさいなどと親の本分を忘れてしまってしまっているのではないでしょうか。
親が子供に対して、これだけのことをやってやっているのだから、親の言うことをきいて泣き止んで当然だというギブ・アンド・テイクの考え方かもしれません。
かつては、学校の先生も親の愛に近い、無償の愛で生徒に接してくれていたように思えます。残念ながら、多くの先生が近年はサラリーマン化してしまっているような気がします。
残念ながら、私どもの経営コンサルタント団体でも、「会費を納めているのだから、協会は会員のためにもっと何かをしてくれて当然」という会員の見方が大勢です。協会もそれなりの努力をしていますが、会員の要望に充分に応え切れていないことも否めません。
協会側にもそれなりの理屈はあるにせよ、謙虚に会員の声に耳を傾けるべきだと考えます。
その一つが、会員の悩みや解らないことに応談しています。
経営コンサルタントが持つ悩みなので、結構レベルの高い内容であることが多いのです。そのために、応談者は相当なるエネルギーを投じています。応談者も実はボランティアですので、無償で対応しています。もし、応談者が何かを求めるようでしたら、莫迦らしくてこのような協力をしてくれないでしょう。
ところが相談者の中は、「キチンと対応してくれて当然」という考えでいるのか、「ありがとう」というひと言が言えないのです。
相手の気持ちを考えられない人に、経営コンサルタントは務まりません。 |