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【小説】 竹根好助の経営コンサルタント起業4章 迷いの始まり 18 甥御さんへのネクタイ選び

2024-07-12 12:03:00 | 【小説】竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説】竹根好助の経営コンサルタント起業4章 迷いの始まり 18 甥御さんへのネクタイ選び  

 
■ 【小説】 竹根好助の経営コンサルタント起業 
 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

【これまであらすじ】
 竹根好助は、私の会社の後継者で、ベテランの経営コンサルタントでもあります。
 その竹根が経営コンサルタントに転身する前、どのような状況で、どの様な心情で、なぜ経営コンサルタントとして再スタートを切ったのかというお話です。

 1ドルが360円の時代、すなわち1970年のことでした。入社して、まだ1年半にも満たないときに、福田商事が、アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。
 角菊貿易事業部長の推薦する佐藤ではなく、初代駐在所長に竹根が選ばれました。それを面白く思わない人もいる中で、竹根はニューヨークに赴任します。慣れない市場、おぼつかないビジネス経験の竹根は、日常業務に加え、商社マンの業務の一つであるアテンドというなれない業務もあります。苦闘の連続の竹根には、次々と難問が押し寄せてくるのです。

◆4章 迷いの始まり 18 甥御さんへのネクタイ選び
  ※ 直前号をお読みくださるとストーリーが続きます。
     直前号 ←クリック

◆4-18 甥御さんへのネクタイ選び


 教育ミッションのパーティの席上でのことである。
 東京のある小学校の山本と名乗る女の先生が来た。
「竹根さん、この二週間、本当にありがとうございました。お世話になりついでに、最後のお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
「ええ、私にできることなら喜んでお手伝いしますよ」
「実は、私の甥にちょうど竹根さんと同じような年回りの子がいるのです。その子には、今回の旅行前にいろいろと世話になっちゃったのよ。そこで、ネクタイをお土産に持ってゆきたいのだけれど、一緒に選んでくれません」
「ええ、もちろんかまいませんけど、私は着るもののセンスがないので、他の人の方がよいのではないですか?」
「でも、その子、竹根さんと趣味がよく似ているし、性格も同じようなところがあるのね。だから、竹根さんが選べばきっと気に入ってくれると思うの。お願い!」
「わかりました」
 二人は連れだって、パーティ会場のホテルにある洋品店の一つに入った。竹根が、その人の趣味などを利いても、きちんとした返事は返ってこない。竹根の好みで選んでよいというのである。ようやく選んだ二本の中からでさえ、結局は最終的に竹根に選ばせた。
 会場に戻ると、また別の先生が竹根のところに来る。手を握ったり、握手を求めたりする先生もいる。竹根は苦労した甲斐があったと思った。
 先生方の感謝の声のうちにパーティが終わった。このミッションに同行してきた福田商事の国内営業を担当している海部が、「疲れているだろうが、このあと時間を作ってくれないか」と声をかけてくれた。竹根も、このミッションと同行している間に何度も海部に助けられたので、お礼を言いたかった。
 先生方が、三々五々自分の部屋に戻ったのを確認すると、二人はロビーの端にあるバーコーナーでテーブルを挟んで座った。
「先ほど、山本先生という女の先生が、これを竹根君に渡すように預かってきたよ」といいながら、先ほど竹根が選んだネクタイを手渡してよこした。
「ありゃ、やられました」
「どうしたの?」
 竹根は、山本先生との先ほどの出来事をかいつまんで話した。
「私は、このような高価なものをいただくわけにはいきません」
「竹根君、いいじゃないか、君の努力は皆認めているのだよ。よくやってくれた。私も感謝したい。もらっておいたらどう」
 竹根は、改めて、その先生の思いやりがうれしくて、感極まるものがあった。
「実は、相本さんから、君に伝言があるのだ。身体に気をつけて、がんばってくれと言っていたよ」
「そうですか。うれしいですね、相本さんがね」
 竹根は、それ以上言葉が出なかった。
 それをあたかも無視するように海部が続けた。
「相本さん、近々結婚するようだよ。はっきりしたことはわからないけどね。あの子いい子だよね。きっと海外営業部の若い奴らは歯ぎしりしているのじゃないかな」
 竹根の気持ちを知らない海部は、世間話をするように話した。どのような人と結婚するのかだけでも聞き出したかったが、海部は知らないようだった。最近、指針が来ないので何か支障があるなとはうすうすながら感じていた。
――これで、万事休すか――
  <続く>

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