■■連載小説 経営コンサルタント竹根好助の先見思考経営 05
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【本書の読み方】
本書は、現代情景と階層部分を並行して話が展開する新しい試みをしています。読みづらい部分もあろうかと思いますので、現代情景部分については【現代】と、また過去の回想シーンについては【回想】と表記します。
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【回想】
「常務、いい加減にしなさい。」
平素、我慢に我慢を重ねている社長の幸育太郎は、怒りででっぷり肥った体躯を振るわせている。
長男の育雄は、都内の有名私立大学の文学部をそれなりの成績で卒業後、大手の印刷会社に勤務経験が三年ある。一年半ほど前から育太郎の手元に置いて、社長学を学ばせている。はじめは、大きな印刷会社での経験からいろいろな社内改革を試み、育太郎も内心喜んでいた。ところが次第にこれまでの育太郎のやり方と育雄の考えがかけ離れて来ているのがわかるようになり、心配をするようになってきた。案の定、十四人いた社員のうち、力のある中堅どころ三人がやめてしまった。
育太郎は、戦後九段下に裸一貫で印刷会社を始めた。九段下は、千代田区でも北西部にある。千代田区は、皇居があることで知られているが、丸の内を抱えた日本の中心地であると自負されるところでもある。その華やかさの陰に隠れがちであるが、板橋区や新宿区と共に印刷関連産業が盛んな地域でもある。
育太郎が創業した会社は、印刷会社といっても、孔版やすりの上に蝋引きの原紙をおき、ペン先が旧式な鉄製のレコード針のような鉄筆で文字や線を書いて、謄写版という簡易な印刷機で印刷をする。ガリ版刷りの印刷物と言われた。
方眼やすりを使って仕事をしていたので、育太郎はペンや鉛筆を使うときにも角張った文字をいまだに書く。
終戦直後は、空襲で書物を失った人が多く、神田にある大手出版社の下請けをし、ガリ版刷りの本でもおもしろいように売れた。大手印刷会社や出版社ですら紙不足で、育太郎の会社も商売がうまくいくに従い、紙探しに奔走するようになった。当時は印刷屋として成功するか否かは、紙の調達ができるかどうかにかかっていた。米軍基地に行ったり、闇ルートで調達したりすることもあった。
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