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【小説風 傘寿】 竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1

2023-08-18 12:03:00 | 【小説】竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1  

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

◆ エピローグ 0-1

「お母さん、お父さんは書斎にいるの?」
「そのはずよ。どうして?」
「久しぶりに濃茶でも入れてやろうかと思ってさ」
「それは喜ぶんじゃないかしら。もう、一ヶ月以上は茶会にも行っていないからね」
 経営コンサルタントを四十年近くもやってきた竹根は、最近は経営コンサルタント協会の理事長の仕事以外は、特段に仕事をするわけでもなく、書斎に閉じこもって原稿を書くことに余念がない。七十年近い人生の総まとめをしているようである。ビジネス書は何十冊も出版してきたが、最近は、ビジネス書の良い面である箇条書きを入れたり、図版を取り入れた小説を書いて、気軽に経営とは何かを伝えたいと考えている。
 小説を書く契機となったのは、竹根の腹心の部下の一人が、「コンサルティングというのは、推理小説のように、企業がどのように変化していくのか、変化の先を推理するのが楽しみです」という一言であった。
 閑雲野鶴(かんうんやかく)、空に浮かぶ雲、野に遊ぶ鶴のように、何者にも拘束されず、自然を相手に悠々と生活を楽しむことをこの年になっても夢見ているが、それができない竹根でもある。
 若い頃から、お茶が好きで、経営コンサルタント業が忙しくなった三十代後半からは息抜きのために洗心会という会で、毎月茶会を開いている。お茶の会というと茶道の流儀に基づき、作法がうるさいが、竹根が会長を務める洗心会というのはお茶を介した交流会のようなものである。竹根は、下戸であるので、宴会やパーティなどの形式ではなく、経営者や企業幹部を集めるための口実として茶会を催している。
 最近は、若い人もメンバーに加わり、大企業から零細企業までの経営者や管理職たちとの交流が盛んになってきた。
「ツッくん、おじいちゃんにお茶が入りましたって言ってきてちょうだい」
 ツッくんこと、田澤翼は、竹根の娘である由紗里の長男である。まだ、小学校に上がったばかりであるが、父親の田澤充雄に似たのか、慎重だが闊達な子供である。父親の充雄は、日本国際航空のパイロットをしているので、飛行機をイメージして翼と名付けられた。
 由紗里は、自分の父親を男性の理想像のように思って今日まで育ってきたこともあり、翼には自分の父親の話を良くするようである。そのために、小さい頃から翼は竹根のことを「ジージ」と言っては、あとを追ってまつわりついたりして育った。翼の父親は、仕事で数日から、長いときには十日くらい家を空けることがある。そのために、竹根のうちに母親に連れられて来ることが多かったこともある。
 翼に手を引かれて、仕事を無理矢理中断させられて竹根がリビングにやってきた。指定席の籐いすのアームチェアは、還暦の祝いに妻のかほりと由紗里が買ってやったものである。以前より、リクライニング付きのアームチェアをほしがっていたので、これが届いてからは座って読書をすることが多い。竹根の手油で、アーム部分を中心にぴかぴかしている。翼が、竹根にお世辞を言って何かをせがむときに、アームチェアの手入れをすることも貫禄をつけるのに一役をかっている。
 アームチェアの背を垂直に近く立てて、座面の高さを調節すると、由紗里が点てたお茶に手を伸ばす。いつも手順が決まっている。両手のひらに茶碗を抱くようにして、茶碗を観る。もう、何千回と見ているだろうに、何も言わずに繰り返す。一すすりすると目を閉じて、茶を味わうようである。
 たとえ、由紗里の茶の入れ方がうまくいかないときでも、決して文句を言わない。時々、「うまいな!」と言うことがあるが、多分その時には茶が上手に入った時であろう。目を開けると、茶を飲むのではなく、茶碗に見入るのである。
「おじいちゃんはまた茶碗を観ているね」と母親に声をかける。これも、竹根が茶を飲むときの定例になっている。
「そのうちに、茶碗に穴が開いてしまうよ」と妻のかほりが言うと、翼は不思議そうな顔をして「何で茶碗を観ていると穴が開いてしまうの?」と疑問に持つ。小さい頃から、竹根に「なんでー」と聞きながら知識や知恵をつけてきた翼である。
 五歳の子供にわかるわけではないのに、その言葉の意味をかほりが説明するが、翼は一向に納得しない。そのうちに、竹根に質問を向ける。
「おじいちゃん、じっと茶碗を観ていると穴が開くなんて、そんなことないよね」
 その言い方も二、三歳の頃と変わらない。竹根は、ただ笑って翼の頭を撫でるだけである。翼は、竹根にそうされると自分の主張が認められたと思って、黙ってしまう。
「お父さんは、なんで経営コンサルタントになったの?」
 かねてから、父親に聞いてみたいと思っていた由紗里の疑問である。
 お茶を飲むときには、口数の少ない竹根だが、由紗里に向かって、四五年ほど前の昔を振り返りながら思い出をポツリポツリと語り始めた。

  <続く>

 

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