物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

エントロピーの意味

2008-07-15 13:21:47 | 物理学

何回かエントロピーについてその意味を聞かれていたので、昨日の講義で最後の機会と思ってその説明をした。

クラスで出席番号の順番に席を決めて座るとすれば、それは秩序のある座り方になるが、その座り方は一通りに決まる。一方、各自が好きなところに座る場合の数はとても多くなり、そういう場合は無秩序でエントロピーが大きいのだと前にした説明を繰り返した。

さらに君たちが授業を受けにこの教室に集まっているのはある種の秩序であって放課後に君たちが家にいようと街に遊びに行こうと勝手にするのはもっと無秩序となっている。そういう場合は学校で授業を聞いているのと比べればエントロピーがとても大きくなっているのだと話した。

自然現象はエントロピーが増大するというのが自然の方向であるが、その中でも生物現象は特別なところがあって、そのエントロピーの増大ではなくてむしろエントロピーの減少になっていると見られる場合もあるとつけ加えた。

その例として、昔のビキニ環礁での水爆実験で放射能汚染をされたマグロがたくさん獲れたが、廃棄処分されたりした。これは普通には生物濃縮といわれているプロセスで自然界に拡散した放射能物質がプランクトンを汚染し、それらを食べたマグロが放射性物質を濃縮した結果であった。

こういう現象は別に放射能に限らない。10数年前だったかPCBの廃棄物が焼却場の煙突から外界に拡散してそれが野菜とか牧草を汚染し、そのためにそれを食べた母親の母乳のPCB濃度が高くなったということがあったという例を話した。

この授業の後で、さすがに「エントロピーはわかった」という感想がアンケートにあり, そして「エントロピーとは確率なのですね」と書かれていた。しかし、エントロピーはしかし即確率ではない。ボルツマン風にいってS=klog Wであるのだから。ここで、Sはエントロピーだが、Wは熱力学的確率だったと思う。また、kはボルツマン定数である。しかし、ここまで立ち入って話すことは時間の関係であまりないのだ。

また、エントロピーの意味の科学史的な文脈での説明をT先生から聞いたことがあるが、覚えていない。これは講義ではなく、E大学の先生仲間の会食の席だった。

また、これも20年くらい昔のことになるが、京都大学工学部の上田先生から情報工学でのエントロピーと物理学でのエントロピー等の関係について講演を聞いたことがあるが、ノートをとらなかったのでそれについて書かれたものを読んだことがない。

そのときに上田先生が戸田盛和先生の「エントロピーのめがね」(岩波)を推奨されていたので、その本の中に上田先生の説明されたことが出ているのかと思って、いつだったかその本をインターネットで購入したが、どうもこの本にはそれについての解説はなかったようである。もっともエントロピーそのものの説明がその本にあるのはいうまでもない。

(2012.1.12付記)  エントロピーの意味は「エントロピーのめがね」(岩波)に説明があるが、それでもその説明で十分だとは思われない。もちろん、普通の人にとってはこの本の説明で十分すぎるぐらいだろうが、もう少し突っ込んだ議論を期待していたからである。

世の中にはエントロピーを解説した本は数十冊は日本語でも出ている。それらをすべて見ることができるわけではないし、どれかが意を尽くした説明をしているのかどうか。

少なくとも数十冊の本が出されているということがエントロピーが分かり難い概念だということを示していると考えられる。

いま、私の納得したいことはつぎのようである。

1) S=klog Wと熱力学のdS=d'Q/Tを結びつけた説明(統計力学の書に説明があるらしい)

2) 情報理論のエントロピーと熱統計力学でのエントロピーとの関連の説明

3) 熱力学のエントロピーの歴史的、発見法的に説明