昨年11月、宮島口epiloで。
面白い小説だった。大卒二年目、ワタナベは電話相談とセットになった問題集を販売する会社の経理担当。会社は、子供の成績を伸ばしたいという世間知らずの主婦を相手に、100万円以上で教材を売りつけるブラック企業。
ワタナベはすぐにでも辞めたいが、三年はいないと次の就職にも不利だからと踏ん張っている。
彼は通勤途中、駅を降りて商業施設のきれいなトイレで用足しをするのが日課。そして会社でも、何かというとトイレの個室にこもる。
一人になりたいとき、食事するとき、果てはダッチワイフまで持ち込む。
排泄をここまで正面から書いた小説って、読むのは初めてかも。排泄でも生殖器系はいろいろドラマが生まれやすいけど、何しろ消化器系ですからね、誰もがしていることだけど、当たり前すぎてすっ飛ばしてしまうところを肉体感覚として拾い上げ、小説に組み込んだところは空前絶後、かも。
排泄て、やっぱり快感なんですね。どちらも体外に出すべくして出て来るもの。そのすっきり感。私は男でないので生殖系については分からないけど、お産のあと、すっきりしましたもん、あの感じかも。
お産はすっきりというか、深く納得。自分が胎生動物だという身体感覚。普段は子宮あること忘れてますもんね。
いえいえ、25年前、病気で子宮も卵巣も取ってしまった私なので、今はお腹の中、スカスカのはずが、代わりに脂肪がついてるので見た目は分かりませんけどね。
自分の肉体に向かい合うこと、その感覚に耳を澄ますことを忘れているけれど、お金が欲しいとか、友達や恋人がほしいとか、いい服着たいとか、いい家に住みたいというのも結局は心と体の心地よさを求める身体感覚かも。
ということで、なかなかに深い小説でした。作者は今期、芥川賞受賞。高校生の時、小説家としてデビューしたようですよ。